卒業式前日、赤い制服を支給された。ふふふ、狙い通りの7番目ですってよ。
それにしても卒業式だけなのにこの赤いアカデミーの制服いるかな。思い出用?あ、軍服は正式入隊の時に渡されるのですね。
確かに、アカデミーだけ出てザフトに入らないって人もいなくはないしね。
と言っても9割9分9厘、赤服に至っては100%みんなそのままザフト行きだけど。
とにかくこの制服は入営日にも着てけってことですね納得。
赤い制服に袖を通すと、いよいよだなって気持ちになった。
配属の辞令は卒業証書と共に渡されるらしいけど、はてさてどこになるかな〜。なんて、もういろいろ察しはついてるけども。
部屋を出ると、周りからの視線が突き刺った。今期の赤服、女子は私だけのようです。
これまで散々嫌味も言われたけど、大半が羨望・嫉妬によるものだったし、彼女たちの幼い小言ももう聞けなくなるのかと思うとなんとなく寂しい気持ちになるからおかしなものだ。
階段を下りると、同じ赤服の集団が見えた。勿論彼らだ。
女子に睨まれるようになった要因はここにもあったんだよなぁと感慨深く思っているとラスティが気づいて手を振った。
「おはよ、。赤似合うね」
「ありがと。ラスティも似合ってるよ」
「ふん、似合うのはラスティだけか」
「イザークは確実に緑より赤のがいいね」
そうだろう!と胸を張る彼は赤を着られたことが本当に誇らしいのだろう。
その様子が可愛くて笑うと何がおかしい、と少しむくれた。今日はさすがにツンも鳴りを潜めているようである。
みんなと朝の挨拶を済ませ、流れで一緒に式場へ向かう。なんだかんだこうやっていつも一緒にいたよなぁ。
最初はちょっと遠巻きで見ているくらいでいいかと思っていたのにいつからかイザークに絡まれ始め、ディアッカに助けを求め、見かねたニコルが仲裁に入ってくれて、ラスティはマイペースだったけどいつも味方になってくれて、アスランは言葉少ないながらもちゃんと付き合ってくれて…いつの間にかみんなと一緒にいるのが当たり前になっていた。
特にアスランとは変な仲間意識みたいのが出来上がってたような気がする。
2人でイザークのこと「参っちゃうね」って笑いあったことも何度もあった。
「あ、、その髪留め」
「あ、うん。そう。ずっと機会伺ってたんだけど、ようやくおろせたよ」
赤い制服を受け取った時、すぐにアスランからもらったこのバレッタをつけようと思った。
これまでに何度かつけてみようかなと思ったこともあったけれど、訓練中に壊したり失くしたりしたら嫌だなと思ってなかなかつけられないでいた。
こういう(特に女子の)細かいところにいつも気がつかないアスランがよく気づけたなと思いつつ(後ろ歩いていたから目に入ったんだろうけど)、一番に気づいてくれたのが彼でなんだか嬉しいような気恥しいような気がして照れを隠しながら「どうかな」と聞いたら、「よく似合ってる」と返してくれたアスランの笑みが本当に優しくて、何かいろんなものが含まれている気がして、吃驚して足が止まった。
アカデミーに入ってから今まで、こんな顔は見たことがない。卒業だから、いろいろとホッとしたところもあるのかな。
急に立ち止まった私にぶつからないようにと肩を咄嗟に掴んだアスランが頭上で「急に止まるなんて危ないな」とか言ってますけどこっちからしてみれば「急にあんな顔で笑うなんて危ないな」ってなもんです。
ていうか距離近い。つむじあたりに息がかかってむず痒い。いや、立ち止まった私が悪いんだけどさ。
「ちょっとそこ。いちゃいちゃしないでくれる?」
「いちゃいちゃ?」
「アスランにはラクスさんがいるっていうのに」
「いや、ラスティもニコルも何言ってるの」
2人が私の肩に乗るアスランの手を片方ずつ外しながら口を尖らせる。
待って待って、別に私とアスランはそんな仲ではないです。
アスランは2人の言わんとしていることがわからないのかずっと首を傾げているし、ホラ、彼にとってはなんの意味もないのです。
私が変に意識しちゃってるだけで…あーあー、やめやめ。そんなはずはないんだから。
さっきの無防備な笑顔にちょっとばかしときめいただけだから。
「立ち止まってごめんね、早く行こう」
「ああ、そうだな」
「なんだかね〜」
「無意識が一番恐ろしいですね…」
何やらぶつくさ言っているラスティたちより先に随分と離れてしまっていたイザークとディアッカに駆け寄る。
遅れていた私たちに気づいていながら止まらないのがらしいといえばらしいけど、なんだかんだ気にしているのかお小言だけはきっちりもらった。
「何をもたもたしてるんだ貴様ら」
「ごめん」
「あれ、そのバレッタ新しい?可愛いじゃん」
バレッタというワードを知っているのがディアッカらしい。
アスランからもらったなんて言ったらイザークがうるさそうだからありがとうとだけ返しておいた。
式中、教官長の話に耳を傾けながらいろんなことを思い出していた。
短い期間だったけどアカデミーでの生活は思っていた以上に充実していた。これはひとえにみんなのおかげだと思う。
戦場に出るために勉強しているのに、みんな明るくて、賑やかで、楽しかった。
普通の学校だったなら、どんなによかったことだろう。
教官長の言う通り、卒業は終わりではなくて始まりだ。私たちは、戦場に出るのだ。
あの明るい笑顔が辛苦に飲まれ、見られなくなることもきっとあるだろう。
たくさんの命が散っていくことになるだろう。
できることなら、守れますように。
願いを込めて受け取った辞令には『クルーゼ隊』の文字が印字されていた。
「え、マジ?みんなクルーゼ隊?そんなんアリ?めっちゃウケるんだけど」
式が終わって、自然と集まった私たちは全員配属先が同じなことに驚いていた。
ラスティは予想通り大爆笑だ。
「作為的なものを感じますね」
「まぁいいんじゃないの?全員希望通りなんだし、よかったじゃん」
ニコルが苦笑し、ディアッカはホッとしたように笑う。
「ふん、この先も貴様らと一緒だなんて、苦労が目に浮かぶようだ」
「それはこっちのセリフ…」
「何か言ったかアスラン!」
「何も」
イザークは嬉しいような、でも複雑なような、しかしやっぱり嬉しそうな顔で踏ん反り返って、アスランはハァと大きく溜息をついて。
そんな2人のやりとりに「1番苦労するのは俺だっつーの」と呟いたディアッカの肩を私は労うようにぽんと叩いた。
「苦労をかける」
「やめろ」
「頼りにしてる」
「だからやめてくれ。も、在学中は事情があったのかもしれねーけど、これからは手抜いたりすんなよ」
肩に乗せていた私の手を外して、今度はディアッカが私の頭にぽんと手を置いた。
あれ、なんかこういうの初めてだぞ。
私がいっつもディアッカの腕やら袖やら襟首やらを掴んだりしていて、ディアッカから私に触ることはほとんどなかった…気がする。
うん、背中を押されたり肩を叩かれたりってことはあったけど頭を撫でられることなんてなかった。
「うん…死にたくないしね」
「ああ、頼むぜ」
驚いて素直に頷くと大きな手はそのままぽんぽんと軽く頭を叩いたあとくしゃりと髪をひと撫でして離れていった。
そんな私たちのやりとりを見ていたラスティが「なんか2人ってキョーダイみたいだよね」と言い出してディアッカが素っ頓狂な声をあげる。
「ハァ?!なんで」
「もしくは親猫と子猫」
「どっちも嫌だっつーの」
「その場合私がお姉ちゃんでお母さん?」
「いやどう考えても逆っしょ」
「えー、私のが年上なのに・・・」
「「「「「え」」」」」
「え・・・って何」
なんなんだみんなして。
そりゃ今まで年齢の話なんてしたことなかったけどみんな私のこと年下だと思ってたのか。さすがにニコルは同い年だと思っていたらしいけど。
確かに見てくれは日本人だし幼く見えるだろうけど、中身までそんなに子どもっぽくはないはずなんだけどなぁ。
釈然としないものを感じつつ、でもやっぱりラスティが言うようにディアッカはお兄ちゃんみたいだなとも思う。
口も態度も悪いときもあるけど、基本的に面倒見のいいお兄ちゃんだよね。
「これからもよろしくね、お兄ちゃん」
「ぶっ、ばか、やめろ!」
「えー、年上の座を譲ったのにバカって言われた」
こうなったら全力で甘えてやらぁと抱きついたらまたバカって言われた。解せぬ。
「えー、が甘えてくれるならオレが兄貴になる」
「いや、ラスティはさすがに弟っぽい」
えー、とぶすくれたラスティは瞬時に名案が浮かんだとばかりににやりと笑ってディアッカごとぎゅうと抱きついてきた。
お姉ちゃん、なんて笑っているけど悔しいけど可愛いじゃないかコノヤロウ。
イザークが貴様ら何をやっている!と真っ赤な顔で憤慨してべりっと引き剥がしてきたのでじゃれあいは終了したけど、こんなバカみたいなことが出来るのも本当に今だけだなと思った。
たぶん、みんな同じようなことを思っていただろう。
だからこそ私たちはいつもより余計に、そしていつまでもバカみたいにふざけあっていた。
私たちはアカデミーを卒業したのだ。5日後には、入営だ。
正式に軍人となるのだ。
初めてトリガーを引いた時、彼らはどんな顔をするだろうか。
私は、そんな前のこと、忘れてしまったけれども。
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