入営日。イザーク、ディアッカ、ラスティと一緒に指定された艦…ヴェサリウスに向かった。
待ち合わせ時間8分前に行ったら10分前に来いってイザークに怒られた。ちょっとは大目に見て欲しい…
私より遅く来たラスティはもっと怒られていた。たるんどる!と叫ぶイザークは某誰かさんを彷彿とさせた。
ヴェサリウスに着いて通された部屋で待っているとミゲル・アイマン先輩と先に来ていたアスラン、ニコルがやってきていろいろ説明してくれた。アスランとニコルはひと足早く赤の軍服を身に纏っていて、まだまだ着られてる感はあるけども格好よかった。
みんながみんな赤服なことにミゲル先輩は「ふうん」と鼻を鳴らしたけど、ヴェサリウスに女性は私だけだから何かと気をつけるようにと言ってくれて、何かあればすぐに相談しろとも言ってくれていい先輩だなと思った。
彼の言う通り艦内を歩くとすれ違いざまに下卑たことを言われたりして、いくら赤服とはいえ“アカデミーを卒業したばかりの小娘”と侮って見ている人も少なからずいるようだった。憤慨したのは私ではなくみんなの方で、特にイザークが爆発して「お前は絶対に1人で出歩くな!」とすごい形相で言いつけられた。そんな無茶な。
私たちも支給された赤い軍服を見に纏い(お互いに似合うねと褒めあった)、クルーゼ隊長に挨拶するべく隊長室に向かった。
初めてちゃんと対面するラウ・ル・クルーゼはマスクも相まって得体の知れない感が半端なかった。
ぶっちゃけ胡散臭いという言葉がぴったりである。
そんな失礼なことを考えていたもんだからひと通り儀礼的な挨拶を終えた後、何故か私だけ残るように言われて緊張した。
まさか考えていることがバレたのだろうかと冷や冷やしていると、言い渡されたのはなんとみんなとは別の任務に就いてもらうという命令だった。思ってもいなかったことに驚きを隠せない。
「別働隊、ですか」
「そうだ。“ヘリオポリスのモルゲンレーテに不穏な動き有り”という報告があがっていてな」
“ヘリオポリス” “モルゲンレーテ”
その単語に心臓が跳ねた。
それは間違いなく、Xナンバー・・・つまり極秘裏に開発されている地球軍のMS・ガンダムのことだ。
こんなに早くからクルーゼ隊長はそのことを掴んでいたのかと驚く。
「以前より数名動いてもらっているのだが、セキュリティが厳しく芳しい成果が得られていない。だが、だからと言って手を引くことはできなくてな。増員することにした」
「それが私ですか」
「そうだ」
何故新米の私に潜入捜査なんて難易度の高いことをさせるんだろうかと疑問に思ったけど、日本語が理解できること(オーブの公用語は日本語)がひとつと学生に扮して新たな切り口で探りを入れてほしいということだった。
学生ができることなんてたかが知れていると思うものの、上官の命令なので断ることなんてできないし、任務受領の旨を伝えて部屋を出た。
任務開始時刻は明朝〇八〇〇。任務内容は勿論関係者以外に他言無用だ。
だが着任早々艦を離れることを彼らに黙っているわけにもいくまい。
自分から言わなくてもいずれ伝わるだろうけど、それはそれで後がうるさそうだし先に言っておこうと思った。
「えっ、明日からいないんですか」
「うん、別働隊だって。案外早いお別れだね」
「お別れって・・・戻ってくるんだろ」
「うん、クルーゼ隊所属ってのは変わらないし、任務が終われば戻ってくると思うよ」
「ちなみに一応聞いてみるけど、任務内容は?」
「秘密です」
だよね〜とラスティが苦笑して、当然だろとイザークが顔を顰めて、みんなも複雑な反応を返した。
『5日ぶりだねこれからもよろしく』と笑いあったのがついさっきのことだ。思ってもない早すぎる別れに、私だって正直複雑である。
「でもさっすがFAITHだよな。別働隊なんてさ」
「そうですね」
「、一人で大丈夫か?」
「元々あるチームに合流するから、一人ってわけじゃないし大丈夫だよ」
そうか、と言いつつ眉を下げるアスラン。心配は嬉しくもあるけど、正直潜入捜査自体は私の得意分野と言っても過言ではないので心配ご無用である。任務中一人で行動することも多いだろうけど、それは逆に好都合なことも多いのだ。
だからむしろ私が戻るまでみんな元気でいてよと心の中で呟いた。
割り当てられた部屋とも短すぎる付き合いだった。まぁ、戻ってくるけどさ。
少ない荷物を纏めなおしていると来客があった。ディアッカだ。
「どうしたの?」
「あー、明日さ、見送りできねーかもだから、今のうちと思って…これ」
そう言って小さな包みを渡された。
なんだろうと首を傾げてディアッカを見上げると、彼は後ろ首に手を当ててちらちらと私の顔…いや、髪かな。
何かを気にするように視線を彷徨わせた。
「いや、そのさ、あー…まぁ開けてみてよ」
「うん」
促されるまま包みを開けると、紫の紐を組んだ華奢なブレスレットが入っていた。
真ん中に小さな金の四葉のモチーフがついていてセンスのいい品である。
これは、どう考えてもプレゼントっていうことですよね。なんで。
「そのバレッタってさ、アスランからもらったんだろ」
「えっ、うん」
「そんでラスティとニコルからもなんかもらってんだろ」
「うん」
「だからってわけじゃないけど…俺からもなんか、あげようかなって」
本当は誕生日とかタイミング見て渡そうと思ってたけどこんなことになったから先に渡しておく、と言ったディアッカの目元は少し赤くなっていて、照れてるのだとわかった。
ラスティあたりから聞いたんだろうか、4人で街に行った時に記念とお礼にってプレゼントをもらったこと。
「ありがとう。でもあの、今すぐ何か…お返しできないから、戻ってきたら、お礼するね」
「っああ、そうだな。なんか土産よろしく」
手持ちがないからお礼は今度ね、と言うとそれが一番のお返しだったんだろう。
ディアッカは優しく笑って卒業式の日と同じように頭にぽんと手を置いた。
「つけてみてもいい?」
「ああ。貸して、俺がつける」
そう言ってディアッカは大きな手で器用に金具を外して左手首につけてくれた。
「ほっせぇ手首」と言われたけど、そりゃあ君に比べれば。ディアッカはみんなの中でも一番背も高いし体格もいい。
次会った時はきっとまた成長してるんだろうな、と思った。
左手首に光る四葉を眺める。ほんと、センスがいいなぁディアッカは。大切にするねと笑うと「おう」と笑顔が返ってきた。
夕食に行こうとアスランとニコルが呼びに来てくれた。
食堂に行くとイザーク、ディアッカ、ラスティはもう席についていて、ミゲル先輩もいた。
無遠慮に注がれる視線にイザークの機嫌はダダ下がりだ。頼むから起爆スイッチを押すような何かが起こりませんようにと内心祈りながら食事をしているとミゲル先輩が話しかけてきた。
「聞いたぞ。は別働隊で明日艦を離れるんだってな」
「そうなんです。とっても短い間でしたがお世話になりました」
「おいおい、任務が終われば戻ってくるんだから、そういうのはやめろよ」
「あはは、そうですね。私が戻ってくるまでみんなのことよろしくお願いします」
お互いに軽い調子で言い合うとラスティが「わ、が年上っぽいこと言った」とからかってきて「実際年上だし」と返すとそういえばそうだったとまた笑われた。
全くラスティは、とむくれるとミゲル先輩にも笑われた。解せぬ。
「まぁ、もだてに赤を着てるわけじゃないだろうし。がんばれよ」
「はい。ありがとうございます」
ミゲル先輩はいい先輩だ。私への言葉だけど、みんなが心配しているのもきっと感じていて、だからこそ「赤」って言ってくれたんだと思った。
そのまま和やかに食事を続けているとラスティが私の左手首に目を留めた。
「あれ、そんなブレスレットさっきしてたっけ?」
「あ、これは」
「俺があげたんだよ」
「えっ、ディアッカが?」
驚いた声を上げたのはニコルだったけど、みんなびっくりした顔でディアッカに注目していた。
私もさっきの照れくさそうな態度を見ていたのでそんなあっさり言うと思わなかったよ。
「え、あ、何?お前らってそういう関係?」
「違いますよミゲル」
「そーそー。なんていうか、ディアッカはの面倒見る兄貴みたいな感じ?」
「のが年上だろ?」
「って妹キャラだから」
ふうん、とミゲルが私とディアッカを交互に見る。
ラスティの言葉に突っ込みたいところはあるけど、ミゲルが言う“そういう関係”でないことは確かなので黙って苦笑するしかない。
「お前らなー…なんだよイザーク。言いたいことがあるなら言えば?」
「…べつに」
ディアッカも呆れ気味に割って入るけど、じっと見つめるイザークの視線に気づいて目を細めた。
それにつられてイザークを見るとなんだか異様に静かで、熱でもあるのかと疑ってしまった。いや、まぁ別にどうでもいいだけなんだろうけど。
「、オレがあげたやつもいつも持ち歩いてよ」
「貰ってからずっと持ち歩いてるよ」
「、僕のオルゴールも忘れないでくださいね」
「勿論、いつも癒されてるよ」
「俺のは…つけてくれてるよな」
「うん」
「なんだなんだ、お前ら全員そういうことかよ」
あーあー、青春しちゃってるねェとミゲル先輩は肩を竦めたけどたぶん貴方が思っているようなことではないです。
ラスティ、ニコル、アスランがディアッカに対抗しているように見えなくもないけど、これは単なる男の意地だろう。
イザークは最後まで静かだった。
部屋に戻ると端末にメールが届いていた。ヘリオポリスで合流するチームからで内容は任務の概要だった。
うわ、学生に扮してって時点で予感はあったけど、やっぱり工業カレッジに編入するのか…。
偽名を与えられるってことだけど、なるべくならキラたちとは距離を置いておきたいな。
でもモルゲンレーテに侵入するならそこ経由が一番手っ取り早いんだろうなと落ち込んだ。
こうなったら後々悩みの種にならないよう、完全なる別人を演じておきたいところである。
そうと決まればキャラ設定を考えなければ、と腕を組んでいると来客があった。今度はイザークだ。
まさかの人物の来訪に驚いて固まっていると「入ってもいいか」と聞かれたので一歩下がって室内に通した。
暫くお互いに無言の時間が流れて、この子何しに来たんだろうと思い始めた頃イザークが「ん」と手を突き出した。
え、なんですか一体。
「これをやる」
「え?…お、まもり?」
「ああ」
突き出された手に握られていたのは、馴染み深い形をした赤いお守りだった。
表にはちゃんと漢字で『御守』と刺繍がある。受け取ると滑らかな織布の感触が懐かしかった。本物のお守りだ。
これどこで手に入れたんだろう?
「は日本に縁があるんだろ」
「うん」
「漢字が読めるくらいだ。いろいろ詳しいんだろうな」
「まぁそこそこ?」
「俺は…民俗学とか、そういうのが好きでな」
「うん」
「だから…戻ってきたら、いろいろ教えてくれ」
最後にはぷいとそっぽを向いたイザークの色白の肌が赤みを帯びていて、なんだか嬉しくなって笑った。
ほんと、こういうとこ、可愛いんだからなー。
普段は小姑かってくらいガミガミうるさいのに、全くツンデレここに極まれりだよ。
「わかった。お守り、ありがと」
「ああ…ちゃんと戻って来いよ」
両手で大事にお守りを握ると、イザークの優しい気遣いが伝わってくるような気がした。
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