予定通りラスティのおすすめカフェに来て一息つく。
ここに来る前にゲームセンターで白熱したバトルを繰り広げてしまい、疲労感がはんぱなかった。
コーディネーターが本気でゲームすると怖いね…しかもまさかゲームであれほど盛り上がるとは…
イザークがいたらもっとすごいことになっていそうだけど、3人とも十分負けず嫌いだった。
しかしみんなさすがはお坊ちゃんで、ゲームセンターで遊ぶなんてことほとんどしてこなかったらしい。
だからこそのはしゃぎっぷりだったのかもしれないけどおねーさんは途中からついていけなかったよ…
「あのホッケーゲーム、すごく面白かったですね」
「えー、俺はモンスターぼこぼこ叩くやつが好きだな」
「私は腕がもげそう」
「え、大丈夫か?」
アスランが本気で心配してくれるけど、半分冗談だから大丈夫です。
まぁあれ以上付き合ってたら腱鞘炎くらいにはなっていたかもしれないけど…それくらい、すごかったんだ…
と意識を飛ばしていところに店員さんが持ってきてくれたパフェはなるほどスペシャルにふさわしい風貌で現実に引き戻された。
すごい。たっぷり生クリームの上にフルーツがこんもり乗って下が見えない。
私は疲れていたことも忘れて目の前のパフェに興奮した。
「すごい!」
「でしょ。あはは、目がきらきらしてる。かわいー」
「甘いもの好きなんだな」
「うん、好き」
「そ、そうか」
あーアスランずるいーとラスティが言っているのをBGMに(何がずるいんだろう?)早速てっぺんのイチゴを口に放り込んだ。甘酸っぱくて、生クリームは程よい甘さで、とってもおいしい。
アカデミーの食事は簡素なものなので、こういう嗜好品を食べるのは久々でとてつもなく美味だった。
「ううう〜おいしい〜幸せ〜」
「ふふ、本当においしそうですね」
「ニコルも食べる?」
「いいんですか?」
パフェを頼んだのは私とラスティだけだったので一口スプーンですくってニコルに差し出してあげた。
ぱくっと大きな口でそれを口に入れたニコルは「甘いですね」とニコニコしながら言う。
ラスティはまた「ずるい」と言ったけど、君は自分の分があるじゃないか。
「アスランもいる?」
「いや、俺は生クリーム苦手なんだ」
「そっか」
確かに甘いものをばくばく食べるようなタイプではなさそうだもんね。
パフェを完食し、ゆっくり休憩した頃には帰る時間になっていた。今日はニコルが誘ってくれたおかげでいい休日だったなぁ。
また明日から訓練の日々だ。内容もだんだん厳しくなっていくし、いくらハンデがあるとは言えがんばらねば。
実技はなんとかなるけど工学とか理論とか本気で意味わかんないとこあるしな。
がんばると言えば、みんなが私に負けないようにがんばろうって思ってくれているっていうのは、すごく嬉しいことだった。
アカデミーでがんばればがんばるほど、戦場に出た時に役立つことも多いはずだ。
私はみんなを守れるように動きたいと思うけど、全てがうまくいくとは限らないのだ。
確かに天帝や四霊というつよーい後ろ盾があって、人よりできることは多いし何それめっちゃチート!っていう能力を持ってたりもするけど、万能じゃないし、救えないことも、ある。
だから、自分のための努力は、惜しまないでほしいと思う。戦場に絶対はない。
守れないものも、きっとたくさんある。
それでも私は、せめて、近くにいる人たちを…守りたい。
でも、守るために裏切らなくてはいけないこともきっとあるんだろうなと、今日一日で縮まった仲がいいのか悪いのか図りかねた。
アカデミーに着いて別れ際、3人から最初のお店の袋を渡された。実は、みんな、私にプレゼントを買っていたと言うのだ。
「えっ、どうして」
「今日付き合ってくれたお礼だよ」
「それを言うなら私の方こそなのに、私、何も」
「いいんですよ。記念ですから」
「ラクスへのプレゼント、選んでくれて本当に助かった」
「え、あ、でも」
「いやー、実はさ、3人でゲームしたんだ。誰が一番が気に入るプレゼントができるかって」
ラスティがからからと笑う。だから、明日にでも結果教えてよ。そう言ってばいばいと去って行ってしまった。
ニコルとアスランもそれに続いて、私は一人でその場に残された。ああ、もう、こんなの反則。
部屋に戻って包みを開けると、ラスティからは可愛いと思っていた手鏡、ニコルからは綺麗な曲のオルゴール、アスランからはあの赤と金の髪留めだった。みんな、いいなと思ったものだ。
ラスティはよく見ていたな・・・ニコルがあんなに喜んでいた理由がわかったよ・・・アスランも、別の人にってまさかの私にですか。
「まいったなぁ」
自然とあがる口角。私、やっぱりがんばらなくっちゃなぁと決意を新たにした。
翌日、ゲームは引き分けと結果を告げると3人とも笑った。
「ざーんねん、同点かぁ」
「だって全部嬉しかったんだもん」
「喜んでいただけて僕も嬉しいです」
「は赤服着られそうだし、ああいうの似合うと思ったんだ」
「あー、だから赤選んだの?それは、がんばらなくちゃなぁ」
アスランがさりげなくハードル上げてくるんですけど。まぁ着られるようにがんばる所存ではありますけど。
と4人でのほほんとしていたらうるさいのがやってきた。
「おい、!今日のマラソン、勝負だ!」
「イザーク…いや、それ確実私負けるし勝負にならな」
「貴様が本気を出せばどうなるかわからん!だから本気を出せ!」
「あーあ、イザークってばほんとなんとかの一つ覚え」
「なんだとッ!」
つかつかと靴音荒く近寄ってくるイザーク。ラスティの呆れ笑いにまた眉を吊り上げて噛み付いて、休み明けの朝から元気なことで。
反対に後ろをのろのろと歩いてくるディアッカは大きな欠伸を隠そうともしていない。ある意味これが普通のテンションだ。
「おはようディアッカ」
「はよ。昨日は楽しかったか?」
「うん。ディアッカはゆっくりでき…てないねその様子だと」
「ああ…お前らがいなけりゃ少しは静かになるかと思ったんだけどなぁ…そうでもなかった」
はは、と乾いた笑いしか出てこない様子のディアッカに、何かお土産買ってきてあげればよかったと後悔した。
イザークはラスティに詰め寄るのに飽きたのか、今度はアスランにも勝負を挑んでいた。本当に元気なことで。
結局、マラソンは1位がアスラン、2位イザーク、3位にディアッカ、飛んでラスティ、ニコル、そして私は10位だった。
女子としては大健闘の順位なのに、イザークはやはり納得いかないと喚いたけどもうチワワが鳴いてると思って気にしないことにした。
え?ならその右手に握りしめたディアッカの腕はなんなのかって?ふ、チワワにも恐怖を覚えることがあるのだよ。
いいかイザークよ、私が本気を出したら24時間(もしくはそれ以上)走り続けられるんだぜ…
それでも本気を出せとおっしゃるのか…それはそれで白い目で見られるんだぜきっと…あ、涙出てきた。
午後はMS戦の訓練だった。
チームを組んで初めての模擬戦をすることになり、よりによってイザークとディアッカと同じチームになってしまった。
相手はお察しの通りアスラン・ニコル・ラスティである。こりゃ本気出さなきゃ今度こそ殺られるかもしれん。
案の定、始まる前に散々念を押され、シミュレータに入る寸前には「わかっているな」と射殺されそうな視線を浴びせられた。怖い。
美人が怒ると怖いっていうのはイザークのためにあるような言葉だ。
仕方ない。今回は死ぬ気でがんばらせていただきます。
始まった途端に突っ込んで行くイザークにディアッカと2人で文句を言いつつ、気持ちが先行しまくるイザークの隙を埋めるように援護に回わる。
アスラン対イザーク、ラスティとディアッカがその輪に入って2対2、それに向かってくるニコルを近づけさせないように私は後方から足止めをすることにした。とはいえこのままでは戦局は不利だ。まずは厄介なアスランを潰さなければ。と思うのにイザークがくるくると立ち回るもんだからなかなか照準が合わない。タイミングを計って一度離れてもらおうと通信を入れようとしたけどその前にアスラン機がイザーク機を思いっきり蹴飛ばして距離ができた。
流れでビームライフルを撃とうとしたアスラン機だったけど残念でした私のが速い。
私の攻撃に気づいたアスランはさすがと言うべきか咄嗟に回避行動を取ったけど、やっぱり私のが一枚上で回避されるの前提で撃っていたので見事2発ほど命中した。
アスラン機は右腕と頭部を吹っ飛ばされて戦闘不能。よしよし、あと2機。
アスランの穴を埋めようとニコルが近づいてきていた。近接戦闘になる前に討ってしまおうと集中的に狙撃するけどおやまぁ随分と回避がうまい。しかし私の攻撃に気を取られていたために近づいてきたイザーク機に反応が遅れ、彼のビームサーベルに薙ぎ払われて戦闘不能となった。
残り1機。
ラスティとディアッカは互角の勝負をしていたみたいだけど、3対1になっては圧倒的不利だ。
3機で総攻撃を掛けて結局ディアッカがとどめを刺して、模擬戦は終了となった。
ああ、よかった勝てた。これでお小言はなしかな。
教官の合図でシミュレータを出てフゥと一つ大きく息を吐くと、イザークがずかずかと近づいてきた。
その眉間にはくっきりと深ーい皺が刻まれている。え、嘘、私今回はかなり本気でがんばったよ?
「」
「はっ、はい」
「さっきは助かった」
「は、はい?」
私は幻聴でも聞いたのだろうか。イザークがお礼を言ったように聞こえたよ。
すんごいしかめっ面だけど、お礼を言ったような気がするよ。
「お前なー、それ礼を言ってる顔じゃないぜ」
「うるさい。顔は関係ないだろ」
「大有りだよ。ほら、固まっちゃってんじゃん」
ディアッカが言うとおり、私の脳は一気に処理能力が落ちていた。
いや、イザークだって本当は優しい人だってわかってるし、お礼くらいたまには言うだろう…すんごい稀にかもしれないけど、言わないことはないだろう。
ただ毎日毎日般若も真っ青なお顔で怒られまくっていたせいか、どうもイザークのしかめっ面=怒られるという方程式ができあがっていたようで、まさかお礼を言われるとは微塵も思ってもいなかったのである。
「全く、貴様は俺をなんだと思ってるんだ」
「だ、だって」
「イザークが悪いだろ。毎日毎日怒鳴られてれば、こういう反応にもなるさ」
「そーそー。これを機に女の子には優しくしなよ」
ディアッカと、いつの間にか合流していたラスティがかばってくれる。
イザークは多少の自覚はあるのか小さく呻いて「すまなかった」と言った。あれまぁ。どうしたもんでしょ。
いきなりの素直なイザークに私の思考は停止です。しかしすぐに「がいつも本気を出していれば俺だって怒鳴ったりしない」と責任転嫁してきたコノヤロウ。
こうなったら私だって言いたいこと言ってやらぁ。
「イザークは猪突猛進すぎ。チーム戦なのに連携気にせず突っ込むし。あれじゃすぐやられるよ」
「何ィ?ニコルをやった時は連携しただろ!」
「あれは連携とは言いません」
「んだとぉ!」
「イザークが猪突猛進だってのには一票。でもとにかく勝ったんだしよかったじゃん?」
「そうだよー、くっそー、こっちはすげぇ悔しいっての」
「全滅しちゃいましたもんね…」
「ああ」
ラスティ、ニコル、アスランが悔しげに顔をゆがませた。
確かに、全滅で負けなんて完敗は彼らにとっては悔しいことこの上ないだろう。
イザークがそれにふふんと得意げに胸を張った。
「聞けば貴様ら、昨日は街に遊びに出ていたらしいな。そんな軟弱なことをしているからだ!」
「いや、も一緒だったし。というか今の勝ちもほぼのおかげだし」
「そうだな。イザークが威張るようなことじゃない」
「なんだと!!」
ラスティとアスランの言葉に激昂するイザーク。ああ、ほんとうに君って…ある意味本当に愛おしいですよ。
ぎゃあぎゃあと毎度のごとく騒がしい彼らを見て、できることならこんな時間が続けばいいのにと感傷的になってしまった。
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