なんて格好つけている間に夜が明けました。
さて約束通り今日はアスラン、ニコル、ラスティと街におでかけです。
彼らの隠れファンは意外と多いので、アカデミー在学中からも背後には気をつけよう、と密かに震えたのは内緒の話。
待ち合わせ場所に行くと、彼らはすでに待機していた。

「ごめんね、お待たせ」
「いいえ、時間通りですよ」
「わー、私服可愛いね」
「あ、ありがとう」

さらっと褒めてくれるラスティにちょっと照れる。この世界の流行がイマイチわからないからシンプルな服装なんだけどな。
街までは車移動だ。運転はアスランがしてくれるらしい。
助手席にニコル、後部座席に私とラスティが乗り込んで車は発進した。

「街に行く予定としか聞いてなかったけど、どこか行くの?」
「買い物するつもりではあるんですけど、具体的には決めてません。は行きたいところありますか?」
「うーん、何があるのかよくわからないから、特には」
「ねぇ、は甘いもの好き?地元で有名だったカフェが最近出店したらしくてさ、行かない?そこのスペシャルパフェがほんとにスペシャルでおすすめなんだ」
「行く!」
「はは、いきなり休憩の話か」

珍しくアスランが会話に入ってきた。イザークとディアッカがいないからかな、なんて。
男3に女1の奇妙なグループだけど、みんな特に気にすることもなく車内は和気藹々としていた。

街に着いて適当なところに車を停めて外に出る。
アカデミーに入ってから外出は初めてなので、なんだかすごく開放的な気分になった。
それは他のみんなも同じだったみたいで、心なしか表情が柔らかい。

士官学校で学ぶのは戦場で生き残る術だ。
この街を歩く大多数の人と同じように普通の生活を送ってきた彼らにとって、教官のしごきについていくのは容易ではないだろうし、体力の限界で泥のように眠ることはあっても精神的に休める時間なんてほとんどなかっただろう。
実際、休日は何度かあったけど新しい環境に慣れるのにいっぱいいっぱいで、これまではあんまりゆっくりできなかったとニコルが笑った。

「まーねぇ。なんだかんだ、オレってやっぱお坊ちゃんだったんだなって、アカデミー入って痛感したよ」
「僕もです。でも、だからこそ、このままじゃいけないなって思えたのはのおかげですよ」
「え、私?」

急に私の名前が出てきて目をぱちくりすると、先行く3人が揃って私を見た。え、何、危ないから前見て歩いて。

「そうだな。俺もだ」
「え、アスランもなんだ。へーえ、お前はいっつもむっつり平然としてるから全部当然のごとくやってるんだと思ってたけど」
「むっつりってなんか違くないか」
「つっこむとこそこ?」
「ラスティ、アスランだって最初からなんでもできるわけじゃないですよ」
「わかってるよ」

あれ、なんだろう、会話についていけてないの私だけなんですけど。
すぐに視線を前に戻した3人は会話を続けるけど、お願いだからなんのことか教えてください。

「男女差別するわけじゃないけど、やっぱって女の子じゃん?しかも小柄な方だし、いくらザフトに入隊希望って言っても、前線に出て戦う気はないんだろーなって最初見た時思ったわけ。でもそんな第一印象裏切って、鬼のような教官の出す鬼のような課題に初っ端から文句も言わず物怖じもせず果敢に挑んでいく姿っていうのはさ、結構度胆抜かれたっていうか」
「それも、好成績だしな」
「そーそー。吃驚したし、アカデミーで出される課題くらいで四の五の言ってるようじゃ戦場になんか出られないんだなって、見てたら思った」
「僕、最初のナイフ戦の訓練の時、なんだか見惚れちゃいました。、すごく真剣で、他の人にはない緊張感が伝わってきて、きっとこれが“戦う”ってことなんだって思いました」
「まぁつまり、俺達は君に負けていられないなって火が点いたってことさ」

あれ、なんかいろいろ誤魔化せてないよ。でも褒められているよ。イザークにはあんなに「本気出せ」と罵倒されるんですけどね。
そう言うとラスティは両手を頭の後ろで組んで「イザークは単細胞すぎるから気にしなくていいよ」と笑った。

「オレはいいと思うよ?能ある鷹はって言葉、イザークは知らないんだよ」
「…能力が高いことが、必ずしもいいことであるとは限らないしな」
「あ…」

ば、ばれてる…ちらと振り返ったアスランと目が合ってなんとなくバツが悪くなった。
いやしかし、別に今アスランは嫌味で言ったわけではない。…たぶん。割と負けず嫌いだって知ってるけど、今のは別に他意はない…はずだ。
内心こわごわしているとニコルが隣に並んでにっこり微笑んだ。

「何か理由があるんだと思いますし、僕もが真剣なのはわかりますから」
「…うん、ありがと」

ああ、ニコルはいつでも私を癒してくれます。ありがとう天使よ。
でもその理由っていうのが単に目立たないように、というものだったなんて言えない。
大体それはもう無理な話なのだ…イザークという男に目をつけられてしまった時点で、私の計画は大幅に狂ったのだ。
でもさすがに首席卒業は嫌だから今のままで過ごそうそうしよう。イザークはうるさいけど、そればかりは譲れません。

「そうだアスラン、あれに選んでもらったらいいんじゃないですか?」
「あれ?」
「アスランが婚約者に贈り物を選びたいって言ってたんです。でも何がいいかなんて僕たちよくわからなくて」
「なるほどねー、そりゃアスランには難題だ」

ラスティがけらけら笑うのをアスランは苦笑で見返した。反論しない辺り自覚があるのかもな。わからないからハロばっかり贈ってたんだもんなぁ。
うーん、確かにアスランには難題だ。
そういうことならひと肌脱ぎましょう!とひとまず目に入った雑貨店に入ってみたけどかわいい小物がたくさんあるし、1軒目にしてヒットかもしれない。

「なんの贈り物なの?目的は?」
「そんな大層なものじゃないんだ。なかなか会う機会がないから、挨拶みたいなものだよ」
「あーあ、会いに行けないからって贈り物で済ませちゃうタイプかぁアスランは」
「…いやに棘がある言い方だな」

ラスティの言葉に口を曲げるアスラン。今の嫌味だって気づいたのか。吃驚だ。
もしかしてちょっと自分でもどうかと思ってるのかな。

「羨ましいだけだよ。なんたってあの、婚約者だもんな」
「アスランの婚約者って、ラクス・クライン嬢なんですよ」

首を傾げた私にニコルが耳打ちしてくれる。
確かに人が多い場所であまり大声では言えないだろう。私は一応驚いたフリをした。

「別に贈り物だけで済ませようとかそういうのじゃないよ。ただ会えないならせめてそういうことしろって母さんがうるさいから」
「…そっか」

アスランのお母さん、かぁ。

本来なら“血のバレンタイン”で亡くなっていた人だけど、私が出した強制避難指示によってその命は散らずに済んだ。
勿論、アスランのお母さんだけじゃなくて、他の住民も9割は生き残ったということだ。
残念ながら爆発に巻き込まれて亡くなってしまった方もいるようで、心臓がぎゅうと苦しくなる錯覚を覚える。
思わず胸のあたりを押さえると、ラスティが気づいて顔を覗き込んできた。

?どうしたの?」
「あ、ううん。なんでもない。2人は?婚約者いるの?」
「いないよ」
「僕もいません。は?」
「いたら多分アカデミー入れないね」
「だよな」

けらけら笑うラスティはさっきアスランを羨んだ舌の根も渇かぬうちに、婚約者なんていた方が面倒だと言った。
プラントでは婚姻統制がされているとはいえ、婚約者がはっきりしている方が珍しいのかもしれない。
それで、今はとにかくラクスへのプレゼントね。

「うーん、気持ちだからなんでも嬉しいとは思うけどね」
は何もらっても嬉しい?」
「うん。よっぽど変なものじゃなければ」

ハロだって、選択肢としては悪くない。ただあんなにたくさんはいらないけど!

うーん、挨拶程度なら消え物の方がいいかもなぁ。あ、でもこの手鏡かわいい。
アクセサリー系ももらったら嬉しいけどアスランとラクスの距離ってイマイチよくわからないしな。
この頃はどうだったんだろう。お互い大事には思ってると思うけど、挨拶程度の贈り物でアクセサリーは避けた方がいいかもなぁ。
あ、そうだ、髪留め辺りがちょうどいいかもしれない。

と思ったところに何やら優しい音色が聞こえて視線を向けるとニコルが真剣に品物を見ていた。
音の出所は彼の手の中、小さなボックスタイプのオルゴールだ。なんかニコルらしくて微笑ましい。

「キレイな曲だね」
「あ…はい。僕この曲好きなんです」
「うん、いいね。私も好きだな」
「ほんとうですか!」
「え?うん」

ぱあっと明るい笑みを浮かべたニコルはとても嬉しそうだ。まぁ、周囲に理解してくれそうなヤツいないもんな…
アスランとラスティは興味持たなさそうだし、イザークとディアッカには馬鹿にされちゃいそうだもんね。
全く、イザークは人には「馬鹿にするな」って言うくせにね。
ニコルはそのままオルゴールを物色していたので、私は髪留めのコーナーに向かった。

「何かあった?」
「アスラン。あのね、髪留めとかどうかなと思って」
「ああ、いいかもしれないな」

ちょうどいいところにアスランが様子を見にやって来た。私の提案に頷くと、こういうの贈ったことないから驚かれそうだと笑う。
ほんとに今まで何をあげていたんだ…ハロだけとか言わないよね…

「髪留めと言ってもいろんなものがあるんだな」
「そうだね。なんでも似合いそうだし、アスランが選んだやつにしよ」
「え?俺が選ぶのか…大丈夫かな」
「大丈夫!全部私が選んじゃったら嬉しくないよ」
「そういうものか」
「そういうものです」

首をかしげるアスランは困ったように笑いながらもどれにしようかと選び始めた。
まー、色彩的なセンスはさておき、トリィもハロも可愛いしセンスゼロってことはないだろう。
しばらくして手に取ったものを見てホッとした。うん、大丈夫、まともです。

「これなんかどうかな」
「うん!いいと思う」

少し照れくさそうにしながらアスランが選んだのは青いリボンのついたバレッタだった。
ラクスのピンクの髪に映えそうで、なかなかよいではないですか。見直したぞっ。
私のお墨付きをもらえたことにホッとしたアスランは小さく笑って、「じゃあこれは?」と赤と金のひし形が並んだバレッタを手に取った。
可愛いけど、ラクスのイメージではない感じだ。

「可愛いけど、彼女にはリボンの方がいいかな」
「ああ、これは…別の人にって思ってるんだけど、これも悪くない?」
「うん、可愛いと思うけど?」

悪いか悪くないかといえばいいと思うと頷けば、アスランはただ「ありがとう」と言ってレジに向かってしまった。
もしかしてお母さんにかな?よくわからないままアスランの背を見送っていると、ラスティが入れ違いでこちらに歩いてきた。

「決まったんだ?」
「うん」
、自分の買い物は?」
「特に大丈夫かな」
「あんまり欲しいものなかった?」
「逆かなー。ありすぎて衝動買いしそうだから今日はやめとく」
「あはは、なるほど」

はしっかりしてるね、と笑ったラスティの手には手提げ袋があって、いつの間にか買い物していたようだ。
同じように合流したニコルも袋を持っていて、結局買い物しなかったのは私だけらしい。まぁ、別にいいんだけど。

「アスラン、無事贈り物みつかったんですね」
「ああ。、選んでくれてありがとう」
「ううん、最後はちゃんとアスランが選んだし」
「それでも、助かったよ」

お役に立てて何よりと笑うと、アスランは笑みを深くした。はああ、この頃のアスランって、かわいいなぁ。
まだ少年ぽさが残っていて、あどけない感じがたまら・・・げふん、さて、お次はどうしましょうかね。








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