ザフト、士官アカデミー。

“血のバレンタイン”の混乱に乗じて私は此処に入学することに成功した。
入学理由は勿論、物語の中枢に入るためだ。思っていた通り、同期にはアスランたちがいる。
私の記憶にあるよりも少し幼い彼らに、なんだか複雑な気持ちになった。

と感慨深く思っていられたのも最初だけで、いざ訓練が始まるとやたら絡んでくるイザークに辟易することになった。
実はですね、これまでいろんな世界で培ってきた戦闘経験のせいで(おかげで?)私ってばほんといつの間にか常人と呼べるレベル以上の能力を身に付けてしまっていたのですよ…
いや、うん、なんとなく気づいてたよ…もはや私は普通の女子ですとは言えないって…(年齢的にもだけどさ)…
でね、それでね、あんまり目立たないようにしようって“普通の人”を意識して訓練受けていたら、イザークの反感を買ってしまったのです。

曰く、「貴様、本気を出していないだろう!」と…

他の人にはばれてない(はず)なんだけど、全く目敏いと言うか細かいと言うか…
何事にも全身全霊一所懸命、不正も不真面目も嫌う彼です。
彼としては適当にやっていながらもいい成績な、しかもそれが自分より下っぽい(身体的にね)女子っていうのが気に食わないようで。
そんなことない、真面目にやっている、と言っても中々信じてくれないんだよぉ〜
自分の方が成績いいんだから放っておいてくれてもいいのに〜〜イザークってば相変わらずしつこいわねっ。

「きっさまぁ!今日も今日とて馬鹿にしおって!」
「もおおお、してないって何度言ったらわかってくれるわけ?」
「しているだろうッッ!」
「してないよぉぉぉ。ねぇ、ディアッカ!」
「だからオレに振るなよ」

ぎゃんぎゃんと詰め寄るイザークに泣きそうになりながらディアッカに助けを求める私、という図が最早アカデミーの日常になっていた。
昼食時の食堂という大勢人が集まる場所であるというのに誰も私を助けてくれない。冷たい。
冷たいと言えば手に持っている食事もすっかり冷えてしまっている。
お腹すいた。いい加減食べさせてくれ。それがだめならせめて座らせてくれ。
いろんな意味で泣きそうになっているところに、天使の声が降ってきた。

「イザーク、いい加減にしてあげてください。泣きそうじゃないですか」
「ニコルぅ!」
「女性にそんな形相で詰め寄るなんて、紳士的じゃないですよ」

そうだそうだ!もっと言ってニコル!と唯一味方になってくれる人物の登場に私は水を得た魚とばかりに小さく拳をあげる。
しかしイザークはそんなことで引くような男ではなかった。

「アカデミー内で…ましてや戦場で男も女もあるか!それにこの女は女として扱う必要もないッ」
「ひどっ」
「イザーク…さすがにそれはどうかと思うぜ」
「最低ですね」

今まで黙っていたディアッカやいつもにこやかなニコルにまで冷ややかに言われて、さすがにイザークも失言だったと思ったらしい。
珍しく少し口ごもった。

「お、俺が言いたかったのは女とか関係なくこいつは高い能力を持っているということだ!それなのに…それなのにッ」

まぁ評価してくれているということはわかる。だからこそ本気を出していないような私の態度が気に入らないんだろう。
わかってるんだけど、さすがに本気を出したら引かれそうだし…

ああ、こんなことならもっと目立たないようにドジっ子演じてしまっていればよかったか…いやいやしかし物語の中枢に入るには上位にいた方が何かと都合が…ああ、でも10位にぎりぎり入るくらいにしておけば…

と思っても後の祭りなんだけど。

「毎日毎日、飽きもせずよくやるね〜」
「ラスティ」
「よっ、も大変なのに目つけられちゃったね」
「大変なのとはなんだ!」
「イザークさぁ、毎日そんなんで疲れないの?オレ尊敬しちゃうよ」

ふらっとトレイ片手にやって来たラスティはイザークのせいですっかり人がいなくなってしまった近くの席に何事もなく座って食事を始めた。相変わらずのマイペースで私尊敬しちゃいますよ。

「ニコル、遅れてすまない…またやってるのか?」
「ええ、またやってますよ」

ニコルと昼食の約束をしていたのだろうか、入ってきたアスランは集まっている私たちを見て苦笑した。
それにまた機嫌を損ねたイザークがふんっと鼻息荒く腕を組む。

「なんでもできる優秀なザラくんには到底わからないのだろうな」
「え?」
「やめとけよイザーク、アスランに言ったって無駄だろ」
「うるさいっ!貴様らはなんとも思わないのか!」
「やめましょうよ。だって努力しているんですよ」
「そーそー。それに土台の出来が違うんだからとやかく言ったってしょうがないっしょ」

ぐぬぬ、とイザークが唇を噛んだ。これでは完全にイザークが悪役だ。
いや、実際イチャモンつけられてるんだけど、なんか、ごめん。すごい申し訳ない気分になってきてしまった。

「い、イザーク、私本当に訓練ちゃんとやってるし、ましてや馬鹿になんて…」
「うるさいっ!もういい!」
「あっ」

堪らなくなったのか、イザークはくるっと勢いよく反転して食堂を出て行ってしまった。
食事、まだだったんじゃないだろうか…と追いかけようとしたらラスティに止められた。

「放っておきなよ。単なる言いがかりなんだし?」
「でも」
「ああいう性格なんだよ。ラスティの言う通り、は別に気にしないでいいと思うぜ」
「…うん。ディアッカ、なんかいつもごめんね」
「お前が謝ることじゃないだろ」
、よかったら食事ご一緒にいかがですか」
「おー、早く食おうぜ。ったく、すっかり冷めちまったよなぁ」

みんな優しいな…。アスランはあんまり口を開かないけど、大多数の人たちのように見て見ぬふりしないところで彼の優しさが伝わる。
まぁ、私が彼らのことを“知っている”っていうのも、あるんだけど。
ニコルの言葉に甘えて彼の隣、ラスティの向かいの席に座る。はぁ、やっと落ち着けた。
いくら全力を出していないと言っても真面目にはやっているし集中力は欠かせないから疲れるんだよ。

「ディアッカも毎度大変だねー、イザークのお守。オレだったら絶対ムリ」
「お守ってお前…もう慣れだぜ。イザークの癇癪は昔っから全然変わんねーし」
「ああ、みんなって前から知り合いなんだよね」
「そ。って言っても、年に数回会うか会わないかって感じだったけど」
「こんなに話すようになったのはアカデミーに入ってからですよね」

そうなんだ。みんな親がプラントの議員さんなんだよね。やっぱりそういうのって固まるもんなんだなぁ。
そういうのこそ人脈大事だし、当然と言えば当然なんだろうけど。

「でもホント、って優秀だよね。今までどんな生活してきたの」
「え?うーん、サバイバル経験があるとだけ言っておく…」

ラスティがけらけら笑いながら聞いてきたけどバカ正直に答えるわけにもいかないのでかなりオブラートに包んだ言葉で濁したらなんだか微妙な空気が流れてしまった。
アスランが咎めるような声でラスティを呼び、彼は小さくごめんと言う。
どうしてこんな空気になったのかわからなくて首を傾げるけど、一拍のちに思い当たった。
こういう世界でサバイバルと言ったら、文字通りサバイバルと受け取られるだろう。
つまり全然オブラートに包めていなかったのだ。しまった。

まあ、全然嘘ではないんだけどもね…

これまでのあれやこれやを思い出して遠い目をしているとニコルが重い空気を払拭するかのように明るい声を出した。

「そういえば、明日の休暇、は何をするか決めてますか?」
「ううん、何も。街に出てみようかなとは思ってるんだけど…未定」
「街に…って一人で、ですか?」

まぁね、と笑う。元々女子が少ないというのもあるけど幸か不幸か宿舎も1人部屋で、女友達というものがいないのだ。
これでも入学当初はちょっとくらい女子と話したりすることもあったんだけど、今やなーんかみんな遠巻きにするんだよね。
きっとイザークが般若面で近寄ってくるからみんな怖がって逃げてしまったんだ。そうに違いない。
私だって逆の立場だったら距離を置きたい。それに最高評議会議員の親を持つ彼に目をつけられたら普通ならたまったもんじゃないだろうしな…
おのれイザークめ。と内心イザークに文句を言っていたところ、目の前の天使がにっこり微笑んだ。
ああ、くさくさした心が潤って行くようです。

「なら、僕たちと一緒に行きませんか?」
「え?」
「明日、アスランと街に出る予定にしていたんです」
「え、そんな、悪いよ」
「全然!ねぇ、アスラン、いいですよね?」
「ああ」

話を振られたアスランはこっくり頷いた。すぐに頷いたところをみると嫌ではないようだけど、前からの予定に加わってしまっていいのだろうか?そりゃあ、彼らとの仲を深められるのは嬉しいけど。

「え、も行くならオレも行こっかな」
「えっ今朝は行かないって言ったのに」
「だから、が行くなら行くって言ったの。ね、一緒にお出かけしよーよ

ラスティの軽い言葉にニコルが口を尖らせた。かわいいかよ。ラスティは気にせずニコニコ笑っている。
その笑顔に押し切られて頷くと、彼は目を細めて「決まりね!」と笑った。
ああ、さすがはコーディネーター、その笑顔にうっかりトキメキましたよおねーさんは。

「ディアッカは?」
「あー、俺はパス。イザークと約束あるんだわ」
「ふうん、残念だったね」
「何がだよ」

ラスティがからかうように笑うとディアッカがむっとした顔になる。こうして見ると、ラスティってみんなと仲いいんだな。
彼のおかげでこの団体(?)はなんとかまとまっているように見えた。
橙色の鮮やかな髪、スカイブルーの澄んだ瞳。
多元(あの)世界”では既に故人となっているラスティ。

たぶん、私の“この世界”での一番最初の救済者は彼だ。

彼を救うところから、物語は始まる…








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