さて問題のコスチュームをどげんかせんといかん。
とはいえ。なんと幸いなことにテーマがハロウィンらしいのでローブでも着て魔女でぇーすと云って乗り切ろうと思ったりしている。
日にちもないし、それでいいよね?

「神くんはなんのコスチューム着るの?」
「オレ?海賊だよ」
「ジョニデ的な?」
「そんな感じ」

マジでか。よくよく聞いたらどちらかというとジャックよりもウィル寄りだそうな。似合いそう!
さんは?って聞かれたのでお楽しみにとはぐらかしておいた。まだ未定だとは云えない・・・。
そして文化祭まであと3日となった夜、事件は起こったのである。

夕飯を作っているとピンポーンとインターホンが鳴った。おや、誰だろう。

「あ、オレ出ようか」
「ほんと?助かるー」

ちょうど野菜を炒めていたので仙道くんがそう云ってくれて助かった。まぁ知り合いなんてほとんどいないし、もしそうならば事前に連絡くらいくれそうなものだし、売り込みか配達かそんなような類だろう。
案の定ネコさんとこの配達業者だったらしく、荷物の受け取りまで仙道くんはしてくれた。

「ありがとうーって、え、何それ大きいね」
「心当たりないの?」

ありません。仙道くんが抱えて戻ってきたその荷物はそれなりの大きさだった。
一度手を止めて伝票を見たら聞いたことのある名前が差出人欄に書かれていた。

「誰から?」
「常陸院さんだよ」

ああ、とリドルが頷く。常陸院さんと云うのはこの世界の母親の遠縁で、職業:デザイナーという気風のいいおばさまである。
何かの折には必ず自身がデザインした服を送ってくれるので、今回も中身はそれだろう。ただいつもは段ボール4〜5箱どでんと送ってくるのに今回は1箱だし大きさや重みからしてそんなに入ってないと思われる。
はて、一体なんなんだろう。
いつもと違うその存在に好奇心が疼き、その場で中身を確かめてしまったことを後悔しました。

「・・・・・・」
「うわー、何それ可愛いね。あ、もしかして文化祭用?コスプレするんだ?え、うそ、教えてくれればよかったのに。っていうかちゃんそれ着るの?うわ絶対可愛いな」

見たい見たい着て見せてよ、と興奮気味な仙道くんの声をBGMに私は中身を半分持ち上げた状態で固まっていた。
その間にリドルは同封されていた手紙を読んだらしく、ぺらりとフリーズしている私の目の前にその紙をぶら下げる。
未だに思考回路がうまく作動しない私の代わりに仙道くんが読み上げてくれた。

「えーと、『ちゃんへ。文化祭の出し物でハロウィンの仮装をすると聞きました。張り切ってデザインしたので是非着てね!PS.当日、着用した写真を必ず送ってください。絶対ですよ!』えーと、あれ、これってなんて読むんだっけ?うーん、じょうりく?違うな、つねりく?」
「うん、ひたちね、常陸院て読むの」
「おっ、そうだ常陸だ。すごい名前だね?」
「うん、親戚の人でね、デザイナーさんなの」
「へーっ、すごいな」

うむ、世界的に有名なすごいデザイナーさんなのである。そんなデザイナーさんがデザインしただけあって送られてきたその衣装はとてつもなく可愛かったが、クオリティが高過ぎて絶句です。
こんなん着たらすごい気合い入ってる子みたいになっちゃうじゃん。無理無理、私そういうキャラじゃない。

「でも落ち着いた色だし浮かないんじゃないかな」
「いやいやどう見ても質がいいもん。絶対浮くよ」
「んー、そうかなぁ。やっぱ着てみてくれないとなんとも云えないな」

だから着て見せて?とせがまれて押しに弱いわたくしは結局仙道くんの希望通り着替えることになった。

自室で着替えて鏡の前に立って見ると、確かに仙道くんの云う通り落ち着いた色合いだからかそこまで派手派手しく目立つ印象はない。
黒に近いダークパープルのスーツベストにペチコートたっぷりのプリーツスカート(さりげなくチェック柄)。前立て部分がデザインされた白ブラウスの襟には黒のリボンをつけてブリティッシュトラッドな雰囲気だ。簡単に云うと制服風。まるでA○Bの衣装みたいだ。最後に黒マント(裏地は紫)を羽織って完成…じゃなかった歯を入れなきゃ。ちなみに足は黒ストッキングにレースアップのミドルブーツで、ニーハイじゃなかったことにホッとした。
うん、はっきり云ってしまえば大変私の好みである。コスプレとか今までしたことなかったけどハマってしまいそうなくらいに今テンション上がっています。
えー、だって私も女子だもーん可愛いカッコしたら嬉しくなるもーん、とそのままの勢いで部屋を出るとその前までのテンションと明らかに違う私にリドルも仙道くんもびっくりしていた。

「うわ、想像以上に可愛いんだけど」
「なんだかんだ乗り気だね、
「仙道くんの云ったように想像以上に可愛かったもんで」

衣装が。え、意味合いが違う?なんのこっちゃと首をかしげると、リドルが小さく「こんな可愛いヴァンパイア見たことないよ」と囁いた。
え・・・リドル本物のヴァンパイアに会ったことあるの?確かヴァンパイアってどちらかというと闇の勢力側の存在ではなかったかしら。
え、リドルさんはとっくに世界征服を断念されたもんだとばかり思っていたのですが違うのですかガクブル。

「えー、着なよ。皆絶対喜ぶよ。いやでもこんな可愛いちゃんを他の奴らに見せるのはなー。もったいないなー。やっぱやめるか」
「ええええええなんかこのやりとりデジャヴ」
「あっ、ちゃんと歯も入れてるの?やばいなー、それなんかエロい」
「ええええええ嬉しくない」

とその時ケータイが振動したので見てみれば伊乃ちゃんからのメールで、『明日コスチュームの確認をするので実物を持参するか、着用している写真を撮って来てほしい』という内容だった。彼女はクラス委員長でクラスの出し物の責任者なのである。
うーん、どうする。この衣装でいくか当初の予定通りローブのみにするか。悩んでいるとリドルが「手紙の内容忘れたの?」と云った。
そうだ、証拠写真を送らねばならないのだ。当日の写真をご所望なので背景が伴わなければダメだ。常陸院さんには大変お世話になっているので無視するのは心苦しいし後が怖い。何かされるわけではないだろうけど埋め合わせは必要になるだろう。そうなった場合嫌な予感しかしない。
よし、女は度胸だ。これでいこうと決めて仙道くんに写真を撮ってもらった。

「あー、ちゃんになら襲われた・・・イエ何でもないです」
「ん?どうしたの?」
「いや、ちょっとね」

リドルに着替えてきたら?と云われて料理の途中だったと思い出して自室に戻った。
仙道くんがなんとなく涙目のように見えたけど気のせいだよね、うん。

翌日、昨日撮った写真を伊乃ちゃんに見せたらものすごく興奮された。

「何これめっちゃ可愛い!どうしたのこの衣装!自前?」
「ううん、親戚にこういうの得意な人がいて」

作ってくれたんだよね、と云うと「すごい」「いいな」を連発される。
そういえば常陸院さんはどっから情報を仕入れたのだろうか。まぁ大方担任の先生とかだろうけど。
騒ぎを聞きつけた咲良ちゃんが加わりさらにクラスメイトが集まりだしたので慌てて画面を隠す。ブーイングの嵐だったけどどうせ当日着るんだからと伊乃ちゃんが場を収めてくれてなんとかなった。
この調子だと当日が怖いけどもう見せてしまった手前やっぱ無しとも云えず(常陸院さんのためにもそれは無理だけど)、いざとなったら部活の方に逃げようと決めたのであった。