夕食を取ろうと向かった食堂の手前で喜八郎くんと遭遇し、当たり前のようにくっつかれたけど私も私で気にせず彼をくっつけたまま食堂に入った。



「ちょ、なっ」
「喜八郎!」



少しばかり遅い時間だったからか、食堂内は上級生ばかり。一番手前の席に座っていた6年生たちが私たちにいち早く気づいてぎょっとしたような声をあげた。まぁ、この体勢だからだろうけど・・・仙蔵くんはものすごい表情で喜八郎くんに詰め寄り説教モードだ。さて、私は何を食べようかなぁ。



「なんですか立花先輩」
「なんですかじゃないだろう!」
「?」
「よし、私A定食にするー。喜八郎くんどうする?」
「じゃあ僕もAで」



おばちゃんにA定食2つお願いします、と伝えると仙蔵くんや留三郎くんに「いやいやいやいや!」とツッコまれた。
え、なんで?



「喜八郎も喜八郎だが、さんもなぜそんなに普通なんですかッ」
「え?何が?」

「何がじゃないでしょう!おかしいと思わないんですかッ?」
「この体勢のこと?」
「それ以外にないです!」



ですよねー。まぁ、私も一応放して欲しいなとは思ってるんだよ。歩きづらいし。
と云ったら「違うだろ!」と怒られた。ううーん、だって、別にいいんじゃない?可愛いし。



「可愛いは嬉しくないです」
「そうなの?」
「だーッ、もうッ!なんでもいいからさっさと離れろ!」



私の可愛い発言がお気に召さなかったのか喜八郎くんはむうと頬を膨らませた。そういう仕草がすんごい可愛いんですけどね。
マイペースな私たちのやり取りに焦れた留三郎くんが実力行使で喜八郎くんを私から引きはがした。
そのタイミングでおばちゃんからA定食を受け取れたので、私はコレ幸いと空いている席に腰を下ろす。さすがにくっつかれたままじゃ食事はできないからね。
ごつん、と痛そうな音が聞こえたので振り返ると喜八郎くんは仙蔵くんにゲンコされたみたいだった。あらまー。



「痛い」
「当然だ馬鹿者」
さん、本当になんとも思ってないんですか?」
「え?」



ことの成り行きを見守っていた伊作くんがおそるおそるとでも云うように声をかけてくる。なんとも思ってない、てことはないんだけどね。



「もう、慣れ?云っても無駄だってわかってるし」



私もよく人にくっついちゃうし、と笑うと伊作くんはぽかんとした。あれ、何その反応。



さん、私がぎゅーってしてもあんまり動じなかったもんな」
「えッ?!」
「小平太アアアアア?!何を事も無げにさらっと云っちゃってんだ?!」
「いつの間にそんなことをしていたんだっ」
「えーっと、こないだの昼間」



1年は組がさんにぎゅーってしてもらってて羨ましかったから混ざってみたぬはは、と笑った小平太くんを他の皆がもみくちゃにしていた。なかよしだねー、皆。
喧噪を余所に食事を開始すると、隣に座った喜八郎くんがくいくいと袖口をひいてきた。だから、そういうのが可愛いんだけどなぁ。



「どしたの?」
「今のホントですか?」
「何が?」
「1年は組をぎゅーっとしてたって」
「うん、ホント。だって皆可愛いんだもん」



そう云うと、喜八郎くんは少し何かを考えてから「可愛いとぎゅーってしてもらえるんですか?」と小首を傾げた。
うん、可愛いとぎゅーってしたくなるよね。今まさにぎゅーってしたい衝動が沸き上がって来たんですけどね。可愛いは嬉しくないって云うからがまんがまん。



「可愛いとぎゅーってしたくなるよ。喜八郎くんもそうじゃない?」
「・・・そうですね」
「でしょ?」
さん」
「ん?」
「ぼく、可愛いでいいです」



だからぎゅーってしてください、と云われ、これがぎゅーっとせずにいられるだろうか。いやいられない。承諾も貰えたわけだし、本能の赴くまま喜八郎くんをぎゅーってしたら仙蔵くんがキッと眉を吊り上げて割り込んで来た。



さん!喜八郎を甘やかさないでください!」
「あ、ごめん、食事中だったね」
「そうでなく!」



お行儀悪かったねー、と笑って喜八郎くんから離れるけどまたしても「違う」とおこらりた。えー、だってぎゅーってしていいってお許しが出たんだからいいじゃん。



「なぁなぁさん、ってことは私がさんのことぎゅーってしてもいいんだよな!」
「小平太・・・お前はまた何を云って」
「うん、別にいいよ」
「ええええ?!さんっ?!」
「やったー」
「ちょ、何云ってんですかアンタっ」
「えー、ダメだった?」



ダメでしょ!と方々からツッコミが入りました。あれま。
ん?しかしよくよく考えてみると、私をぎゅーっとしてもいいかって聞いてきた小平太くんは私を可愛いと思ってるのか?!
いやまさかそんなワケないよね、うん、そんなワケない。