「あ、さん・・・・・と一年は組」
「・・・懐かれてるなぁさん」
教室の掃除中、ふと窓の外を見るとさんの姿があった。一緒に掃除をしていた兵助も俺の言葉に視線を外に向ける。
めちゃくちゃいい笑顔の一年は組のよいこたちに揉みくちゃにされんばかりに囲まれているさんは、どうやら校庭の掃除の手伝いをしていたようだけど今や掃除どころではなさそうだ。
は組のよいこたちは暴走しだすとなかなか止まらないからなぁ。遠すぎて何を話しているかは聞こえないけど、少し困ったように笑うさんの表情から容易にそのやりとりが想像できる。
しかし困ったように笑うさんも
「かわいいなぁ」
「え?」
「兵助もそう思うだろ」
「さんのこと?」
「当たり前だろ。そりゃあ一年は組のよいこたちもかわいいけどさ」
話している間も互いに視線はさんに向いているんだからさんのことに決まってるじゃないか。さんはなんて云うか・・・目が離せないんだよなぁ。
見た目がかわいいからってのもあるけどそれだけじゃなくて、なんと云っていいのかわからないけど、とにかく初めて見た時から俺たちはいつもさんの姿を追っている。
「なぁ、兵助はさんのどんなところが好き?」
「えっ、なんだよ藪から棒に」
「そんなに驚くことないだろ。で、どうなの?」
「どうって・・・」
ちらりと横目で見ると、兵助は少し赤くなっていた。お互いにさんに好意を抱いていることはわかってるんだから、今更照れることもないのに。
「やっぱり豆腐好きって云ってくれるところ?」
「なんでだよ。まぁ、もちろん、それもあるけど」
「あるのかよ」
「かわいくて優しくてノリがいいとこじゃないか?」
「じゃないか?って疑問系?」
「正直わからないよ。感覚的な部分が大きい。実際さんのことまだほとんど知らないし」
「だよねえ」
「だよねえ、ってそういう勘右衛門はどうなんだよ」
「似たようなもんだよ。云うなればビビっと来た!って感じ」
兵助ならもっと何か掴めてるかと思って聞いてみたんだけどなぁ、と云うとなんでだよと苦笑された。だって兵助頭いいし。
「「あ」」
兵助も同時に声を上げたのは同時に同じものを見たからだろう。さんが伊助をぎゅうっと抱きしめたのだ。
いいなぁ、伊助。そう思ったのは何も俺たち(兵助も絶対思ったはず)だけではなようで、一年は組の他のよいこたちがぼくもわたしもと一層さんに詰め寄っていた。
さんは相変わらず困ったように笑っていたけれど、ひとりひとり伊助と同じようにぎゅうと抱きしめてあげている。いいなぁ、一年は組。
「俺も今度頼んでみようなかなぁ」
「ええっ?!」
「だってうらやましいじゃん」
「やってくれるわけないだろ」
「そうかなぁ?さん俺らのこと完全年下扱いだし」
「実際年下だろ」
「意外とやってくれるかもよ」
「まさか」
うーん、云うだけ云ってみる価値ありだと思うんだよね。兵助も云ってたけどさんて結構ノリいいし。
「「あ!」」
またしても兵助と声がかぶった。どこからか七松先輩が出現し、さんをさんにぎゅうとされていた金吾ごと背後から抱きしめたのだ。・・・いいなぁ、七松先輩。
「俺も今度やってみようかな」
「ええええっ?!」
「だってうらやましいじゃん」
「けど・・・ほら、七松先輩怒られてるぞ」
「うーん、でも本気で怒ってないよ」
「それは多分相手が七松先輩だからだろう」
「俺も本気で怒られない自信あるよ。多分兵助がやっても大丈夫だと思う・・・三郎だったら、アウトかな」
「・・・俺もそう思う」
さんて何故か三郎には当たりがきついからなぁ。でも嫌いだからそういう態度なんじゃなくて、一種のスキンシップのようだから、ちょっとした特別扱いみたいでうらやましいんだよね。ホントに三郎にだけだもんなぁ。そういう思いもあっていつもさんに便乗して三郎をいじり倒してるんだけど。
「兵助はさんのことぎゅーってしたいと思わないの?」
「なっ、したいとかしたくないとかそういう問題じゃないだろ」
「そういう問題だよ。俺が思うに、さんの世界ではああいうの普通なんじゃないかな」
「え?」
「だってそうじゃなきゃいくら一年相手だからってあんな簡単に抱きしめたりしないよ」
「そうかもしれないけど・・・じゃあなんで七松先輩は怒られてるんだ?」
「突然はびっくりするからやめろとか。それに、ホラ、怒ってるっていうより注意してるって感じだし」
さんは腰に手を当てて眉を少しばかり吊り上げてはいたけれど、悪びれない態度でにこにこ笑っている先輩にそれ以上云うでもなく仕方ないとばかりに息を吐いて苦笑した。
あんな簡単に許しちゃうんだもんなぁ、人がいいっていうのもあるんだろうけど、さんにとってあのくらいは別に怒ることでもなんでもないんだろう。やっぱり今度俺もやってみよう。
兵助はあまり納得がいっていないようで「だとしてもやっていいことと悪いことってあると思う」とか云って顔を顰めた。ほんっと真面目なんだから。本心では自分もやりたくて仕方ないだろうに。
「面白そうだから三郎けしかけてみようか」
「はぁ?さんがかわいそうだろ」
「それもそうか」
この時、まさかろ組でも同じようなやりとりをしてたなんて俺たちは知る由もない。