小平太くんがやって来る気配がない。忘れてるのかな・・・さっきの様子だとそういうワケでもなさそうだけど。
もしかして中断した委員会でも続けてるとか?・・・あり得る気がする。
そうだ、待ってる間に薬作ろう。ほら、備えあれば憂い無しって云うし、時間がある時にアレ作ろうと思ってたんだよね。そうと決まれば早速開始だー。



さーん!来たぞ!」
「え、うそ、このタイミングで?!」



外から声をかけられたけど、丁度手が離せない行程に差し掛かってしまっている時だった。
仕方ないので奥まで入って来てもらうように促す。



さん、此処に居たのか!お、何をしているんだ?」
「薬作ってるだー。ごめんねー、今ちょっと手が離せなくて。あれ、皆も一緒?」
「おー、皆も行きたいって無理矢理ついて来たんだ」
「すみません、こいつら云う事聞かなくて」
「なんだと文次郎!」
「本当のことだろうが!」
「いーよー、謝らなくて。もうちょっとかかるから、隣の部屋で座ってて?」



入って来たのは小平太くんや潮江くんだけでなく、6年生が勢揃いだった。いやいや、謝る事はない少年よ。だからケンカもするでない。せっかく来てくれたのにお構い出来ずこちらの方が申し訳ないし。とりあえず居間の方でゆっくりしててもらおうとソファを勧めたのだが、私の手元をひょいと覗き込んだ立花くんや善法寺くんは「いえ」と首を振った。



さんさえよろしければ、見ていてもいいですか?」
「いいけど・・・後は材料入れてくだけだよ?つまんなくない?」
「いえ、僕達も自分で薬を作ったりするので、興味深いです」
「そお?」



はい、と柔らかな笑みを浮かべる2人はまるで女の子のようである。はわー、改めて近くで見ると2人ともキレーな顔してるなぁ。これで女装したらすんごい美少女になるだろーなぁ。と半ば見蕩れていると、2人が何かに気づいたようにぎょっとした。お、どした?



「な、さん、その格好は・・・」
「え?何か」
「ももももしかして、さんの世界の寝間着ですか?!」
「うん、そだよ。寝間着って云うか部屋着だけど」



だって夜だし、自分の部屋だし、薄手のワンピースにガウンを羽織った状態ですが、それが何か。
「もっと前を締めてください」とゆったり羽織っていたガウンをきっちり巻いてくる立花くんも、「はわわわわ」と変な声を上げる善法寺くんも、顔が赤い。
・・・そうか。此処じゃちょいとNGだったか。しかしもっと薄着のネグリジェ姿を小平太くんと潮江くんに見られているけど、2人は何も云わなかったよ?



「って、やばっ」
「えっ」
「あー、よかった、セーフ!」
「どうしたんですか」
「驚かせてゴメンね、薬草入れるタイミング間違えると大変なことになるからさ」



魔法薬はタイミングが命なとこあるでな。今のはちょっと危なかった。あとちょっとで出来るし、此処に来て失敗はしたくないよー。目を離さないようにしなければ。
さて次の手順は、と教科書を覗き込むと、同じように覗いて来る影が複数。



「もそもそもそ」
「あ、うん、南蛮の言葉とはちょっと違うかな。もう少し西の国の言葉だよ」
「あれ、さん長次の云ってる事聞こえるようになったんですか?」
「静かなとこだったらね」
「おい、色が変わったぞ」
「あっ、次の材料入れなきゃ!」
「わー、なんだこれキラキラしてる!」



って、なんだ、結局皆薬作り見学してるんだ。色が変わったりきらきらと光が舞ったりするのが面白いみたい。
私も最初に見た時は同じ反応したなぁ。作るのは結構大変なんだけど、見てる分には楽しいんだよね。



さん、なんだか変わった薬を作ってるんですね」
「え?別に普通の薬だよ」
「え?何の薬を作ってるんですか?」
「毒消し」
「毒消し?そりゃまたなんで」
「だって毒蛇とか毒虫とかが頻繁に脱走するって聞いたんだもん」
「あー、成る程」



皆納得したように苦笑いを零した。ね、備えあれば憂い無しでしょ?
あっ、小平太くん水草の水槽に手突っ込んじゃんダメだよ!手咬まれるよ!ちょ、潮江くんと食満くんはなんでケンカしてんの?テントの中で暴れないで!
とかなんとかやってる間に完成したよー。後は瓶につめて冷ますだけです。



「それってビードロですか?」
「そうだよ。可愛いでしょ」



小さなガラス瓶は細工が施されていて、薬を入れると香水瓶みたいで可愛い。
ちゃぷん、と揺らしてみせたら皆が頷いた。



さんの世界にはすごいものがたくさんあるんですね」
「“さんの世界には”、と云うより“未来には”、と云った方が正しいのかも知れないがな」
「えっ?」
「違いましたか?」



す、するどいな立花くん。確かにその指摘はあながち間違いではない。



「どういうことだよ仙蔵」
「どういうも何も、そのままだ。さんは未来から来たんじゃないですか?」
「うーん、半分当たりで半分外れって感じかな」
「え?」



どういうことですか、と眉間に皺を寄せる立花くん。どんな顔しても美形は美形だよねー。うらやまし。



「確かに、立花くんの云う通り私は今から何百年も後の日本の生まれだよ」
「マジで?!」
「うん。でもね、私の居た世界の過去と、此処は違うんだ」
「よ、よくわからないんですけど」



まー、そうだよね。わからないよね。平行世界なんて云ったってわからないだろうし。
まぁ単純に考えて、この世界に魔法が使える人間はいないよね。いないと思うんだ。(もしかしたらいるかもしれないけど、この場ではいないって事にしておこう。)そういうことだよって云ったら、首を傾げていた子もなんとか納得できたみたいだ。



「つまり、良く似た歴史を辿る世界から私はやって来たってことだと思ってくれればいいかな」
「わかった!わかったところでさん、私あっちの部屋も見たい」
「はいはい」
「小平太・・・ホントにわかったのか?」
「え?だからさんは異界から来たんだろ?」
「そうだよー」



まあそうなんだろうけど、と皆なんとも云えない顔である。うん、まぁ皆の気持ちもわかる。でもこれが小平太くんなんだよね。いいよマイペースも個性だよ。ちょっと空気読めないとこもご愛嬌だよ。好奇心旺盛なのもいいとこだよ。うん、いいとこだけどね・・・スイッチ入っちゃうとノンストップで暴走するとこはちょっと治そうか・・・居間に移動して話を続けていたんだけどね・・・ホントにノンストップなんですわ。滝夜叉丸くんの苦労が身に沁みてわかりました・・・
だからやたらめったら触らないでえええ!危ないものとかあるからっ!



「もうっ!こへーたくんは私の隣に座ってなさい」
「えー」
「えー、じゃない。ほら、マシュマロあげるから」
「なんだこれ」
「お菓子だよ」
「えっ、なんだこれすんごいふわふわしてる!」



さんのほっぺみたいだ!とか云って空いてる手で私のほっぺをぷにぷにするのはやめい。
僕もいいですか?とか云って善法寺くんも混じるんでない。ま、とりあえず小平太くんが大人しくなったのでよし。あ、でもちゃんと皆にも分けてあげなさいよー。



「・・・甘い」
「お菓子だからね。あ、お茶淹れるね」
「うわっ、う、浮いて?!」
「っぷ、文次郎お前ビビり過ぎ」
「ああ?!んだと!」
「やめろお前ら。ところでさん」
「なんでしょう」
「なんでろ組だけ名前で呼んでいるんですか」
「え?名前で呼べって云われたから」
「お前らいつの間に・・・」
「私は朝イチでお願いしたぞー」



なー、さん!と自慢げにニコニコする小平太くんはマシュマロが大層気に入ったらしいです。
口でもぐもぐしながら手では別のをふにふにふにふにして柔らかさを堪能している。わかるわかる、その柔らかさ癖になるよね!
もぐもぐ動く口が可愛いのでさっきのお返しにと小平太くんのほっぺをぐにぐにしてみる。わー、私のよりよっぽど小平太くんのほっぺのがふにふにしてるよー。かわいいかわいい。



「む、やったなー」
「先にやったのは小平太くんじゃないかー」
「えーい、お返しだ!」
「わっ、ちょ、だから先にやったのは小平太くんでっ」
さん、じゃれつかれているところすみませんが私も名前で呼んでもらえる方が嬉しいです」
「じゃれつかれてるって!わかってるなら助けてよー!」



冷静に意見述べているバヤイではないのだよ立花くん!あ、えと、仙蔵くん!
この子加減てもんを知らないんだからっ、ちょ、私のほっぺはマシュマロじゃないんだからー!いひゃいいひゃい!
僕も名前がいいですー、俺もー、とは組が続き、潮江くんはごにょごにょ何か云ってるけど、今はそれよりも小平太くんをどうにかしてください。