そして彼は期待を裏切らない男だった。いや期待してないよ。むしろ裏切ってほしかったよ。
「こ〜ま〜つ〜だ〜く〜ん!!」
「うわーんすみませーん!」
事務室を案内してもらっている時だった。彼は勝手知ったる場所だと得意満面の笑みを浮かべながら中に入った。
が、そこでやらかしました。お約束過ぎる。いやむしろ此処まで何事もなく来られた事自体が奇跡だったのかな。
彼は何もないところでずべっと転んで詰まれていた本や書類や備品諸々を見事にひっくり返してしまい、室内は凄まじいことに・・・。
しかも吹っ飛んだ何かの壷が吉野先生の頭にクリーンヒットして吉野先生の頭には見事なたんこぶが出来上がっている。
あらー、痛そう。吉野先生激怒だし。あんな優しそうな人をここまで怒らせられるなんて、ある意味才能だな小松田くん・・・
「あー、ともかく、片付けましょうか」
「そうですね・・・」
怒り疲れた吉野先生は私の提案に頷いた。よいしょ、と膝に手を置いて立ち上がったけど、あのーよかったら私がちょちょいとやってしまいますが。
「え、お一人で、ですか?」
「ま、その、見ててください」
つい、と杖を滑らせるとごっちゃになっていた物品たちが元の場所へと戻って行く。あっという間に部屋は元通りになって・・・吉野先生と小松田くんはあんぐりと口を開けて固まっていた。と、思ったら次の瞬間2人してがしっと私の手を握ってくる。顔!顔近いんですけど2人とも!ちょ、怖!
「貴方は救世主ですか!」
「さんすごいです!今の、今の魔法ですよね?!」
「え、あ、うん、そう魔法。なんか喜んで頂けたようでよかったです」
よかったですから離れてほしいなぁー。吉野先生なんか感動し過ぎて泣き始めてしまったし・・・よっぽど小松田くんに苦労させられてきたんだろうな。
漸く離れてくれた2人はその後も尊敬の眼差しで見て来るのでちょっと居たたまれなくなってきた。
次、次行こう小松田くん!
吉野先生と別れ、学園内探索に戻るとごーんと鐘が鳴った。あ、1限目が終わったのかな。
「あ」
「ん?」
前方に生徒が現れた(普通に歩いてただけです)。藍色っぽい色の制服だけど、何年生なんだろう。「あ」とか云われたけど、また例の話の〜とか思ってんだろうなぁ。小松田くんに何年生か聞くと、5年生だという返答が返って来た。
「5年生は確かこれからクラス合同の実習授業ですよ」
「へー、そういうことも把握してるんだね」
えへへ、と照れる小松田くん・・・可愛いけど別に照れるところじゃないんですけど。と、小松田くんに気を取られていたら生徒が3人近づいて来ていた。
貴方がさんですか、と尋ねられて吃驚する。名前まで知られてるのか。声を掛けて来たのは茶髪の男の子だ・・・って、あれ、同じ顔が2つある。双子?
小松田くんは「さんは有名人ですね〜」とか暢気に笑っているけど、そうじゃなくて何か彼らについての情報をください。
「すみません、突然。本当は朝見かけて声をかけようかと思ったんですが6年生に囲まれていたので」
「ああ、食堂で?」
「はい」
やっぱり先輩に遠慮していたらしい。彼は鉢屋三郎くんで、後ろの2人が不破雷蔵くんと、竹谷八左ヱ門くん。
お、鉢屋くんと不破くんは双子ではないのか。え、鉢屋くんが変装の達人なの?不破くんの変装をしてるんだ。へー、すごいねそっくりだね。
「さんの話、聞きましたよ」
「え」
「異界から来たって本当ですか?」
「あ、まぁ」
鉢屋くんが云う話とやらはまともな話のようだった。というのも朝一緒だった6年生達が改めて正確な情報を流したらしい。
おおおお!ありがとう6年生諸君!流石最上級生!頼りになります!!
「皆こんなとこで何やってるの?」
「あ、もしかして例の人か?」
増えました。ええ、そうです例の人とやらはおそらく私のことです。新たに加わったのは、い組の久々知兵助くんと尾浜勘右衛門くんですって。あー、うん、覚えられる気がしない!皆名札とかつけてくれないかなぁ。そしたらすぐにわかるのになぁ。
「おい、そろそろ行かないとヤバいぞ」
「ああ、さんの話を聞きたい・・・でも早く行かないと授業が・・・」
「雷蔵、此処は迷うところじゃない」
竹谷くんが皆に声を掛けた。不破くんは何やら悩んでいたけれど、確かに迷うとこじゃないよ。授業のが大事ですよ。
1年は組の時と同じように話はまた後でね、と云うと5人は笑顔で去って行った。約束ですよ!とそれはいい笑顔でした。
・・・なんか、皆愛想良過ぎてこの学校って忍者の学校なんだよねって不安になるんですけど。
いや、ダメダメ。気にしないことにしたんだから!