6年生に囲まれました。

あの後土井先生は先に食べ終わって授業の準備があるからと心配げに振り返りながらも行ってしまった。(行かないでほしかったよー)
仕方がないので七松くんと立花くんとしばらくご飯を食べていると潮江くんをはじめ他の6年生が食堂にやって来て・・・何故か囲まれる図になってしまいました。

皆もやはり私の話とやらを知っていて(またとんでもない話ばっかりだった)、それを訂正しつつ箸を進める。
徐々に食堂内の人口密度も増えて来て私に気づく子も多かったけど最上級生に囲まれているからか声を掛けて来る子はいなかった。



「文次郎、何故さんの事を教えなかったのだ」
「はぁ?なんでもかんでもお前に教える義理はねーだろ」



ばちばち、と立花くんと潮江くんの間に火花が散る。こ、怖〜。
しかしぎょっとしているのは私だけで他の皆は平然とご飯を食べてるし・・・いつものことなのかな。



「そーいや留三郎、伊作はどうしたんだ?」
「さあな。あいつの方が先に部屋を出たんだが・・・また何処かの穴に落ちてるんじゃないか?」



・・・また?穴に落ちてる?それって大丈夫なんだろうか。
学園内には落とし穴がいくつもあるって聞いたけど、最上級生である6年生をも落としてしまうなんて恐ろしい。
私も気をつけないと。



「・・・・・・・」
「え?何、中在家くん」



ぼそぼそ、と何か小さな声で呟いている中在家くんに気づき声をかけると、皆もまた中在家くんに注目した。
隣に座っていた立花くんが通訳してくれたことには「さんはこの後どうするのですか」ということだった。
この後か・・・どうするんだろ。とりあえず学園長のところに戻らないとだけど。てか食堂に来てるって学園長知らないよね。探されてるかなぁ、どうしよー。



「へむへむ!」
「あ、ヘムヘム」
「へむへむへむ、へむへむ〜」
「あー、ゴメンね、七松くんに無理矢理連れ出されちゃって・・・」



なんというタイミングで現れたんですかヘムヘム!すみませんが学園長によろしくお伝えくださいな。
・・・あれ、私ヘムヘムと会話してた?うわー。



「食べ終わったら戻るって伝えておいてくれる?」
「へむへむ!」
「えー、食べ終わったら戻っちゃうのか?」
「声も掛けないで出て来ちゃったんだもん。当然でしょ」



えー、とぶーたれる七松くんだけど、そう云う君は授業があるんじゃないんですか。
あ、でも悪いんだけど学園長の庵まで送ってってくれないかなぁ。道わかんないから。そう云うとにっかと笑って七松くんは頷いた。



「なぁなぁさん、私の事名前で呼んでほしい!」
「え?何急に」



朝食を終えて、七松くんに庵まで送ってもらっている最中にいきなりそんなことを云われた。
私も名前で呼んでるから、って云ってたけど・・・まぁ別に断る理由もないので頷く。えーと



「小平太くん」
「なんださん!」
「いや呼んでみただけだけど」



ニコニコと嬉しそうに笑う小平太くんは・・・まるで犬だ。尻尾をぶんぶんと振っている姿が目に浮かぶ・・・。可愛いなぁ。
思わず手を伸ばしてよしよしと頭を撫でてあげたら、へらーっと笑った。うわー、何この可愛い子はぁ。今までの奇行も全て許してあげたくなってしまうじゃないか。実際特に気にしてないんだけど!得な子ね!



「あ」
「え?」



またいきなり小平太くんが声を上げた。彼の視線は私ではなく、私の肩の向こう側・・・つまり私の背後ですが、そこに向かっている。
その視線の先を辿ってみれば、数メートル先の地面にぽっかりと穴が開いているのが見えた。小平太くんはぴょん、と廊下から飛び降りて穴に向かって行く。なんだなんだと後を追えば・・・穴の中には人が落ちているようだった。



「ええええ!」
「おー、伊作。やっぱまた落ちてたのかー」
「小平太!いいところに!」



落ちていたのは先程の会話に上がっていた伊作くんという子のようでした。小平太くんは伊作くんを軽々と穴から引き上げる。力持ちなんだなぁ。
いてて、と擦りむいたらしい肘をさする伊作くんは私に気づいて目をぱちくりとさせた。



「あれ、こちらの方は・・・」
さんだ。ほら、例の!」
「ああ、例の・・・話のイメージと大分違うね」
さん、こいつは6年は組の善法寺伊作だ」



よろしく、と答えながらどんな話を聞いたんだろうとちょっと泣きたくなった。怖いから聞かないけど。
で、何故に穴に落ちていたのですか君は。え、不運だから?・・・なんだろうそれは。でもさっきの皆の会話から察するに、よく穴に落ちるんだろう。だから不運、なのかな。なんか可哀相だ。



「伊作、早くしないと朝食食いっぱぐれるぞ」
「ああ!そうだった!ええと、じゃあ僕はこれで」
「あ、うん・・・気を付けてね?」



はい、ありがとうございます!と云って善法寺少年は爽やかに去って行った。
ああ、あの土まみれじゃ食堂に入れないんじゃないかなぁ。
心配する私を余所に小平太くんは「じゃあ行こう」とこれまたマイペースに歩き出した。
・・・ほんと、日常茶飯事なんだな、アレ。