翌朝。私はまたしても悲鳴を上げることになった。



「ひにゃあ?!え、あ、七松くん?!」
さんおはよー!朝だぞ!」



いやね、おはよー!じゃありませんよ。女子の部屋に無断で入ってくんなって云ったで・・・云ってなかったか。
七松くんは夜中と同じ体勢で私の顔を覗き込んでいた。あー、なんかこのニコニコ顔を見てると大抵の事を許してしまいそうになる・・・危険だ。



「七松くん、女性が寝ている部屋に勝手に入ってはいけません。ついでに寝顔をまじまじと見るもんじゃありません」
「えー」
「えーじゃない。もー、支度するから外出てて」
「えー」
「えーじゃない!」



ぶーぶー云う七松くんをとりあえず寝室から追い出し、リビングスペースのソファに座らせる。
彼はソファの座り心地が大層気に入ったようで大人しくなった(跳ねてはいたけど)。その間に顔を洗い髪を整え、寝室に戻って着替えを済ます。
準備が終わったところで彼のところへ。さて、御用はなんでっしゃろ。



「朝ご飯、一緒に食べよう!」
「は?」
「よーし行くぞー!いけいけどんどーん!」
「えええええ?!」



問答無用ですか!ちょ、腕ひっぱらないでええええ!って何このハイスピード!あんたはハンターか!あ、忍者だった!
ありえない速度に足をもたつかせながらなんとか目的地である食堂に到着した。
こんな朝っぱらから超ダッシュなんて・・・しんど!



くん?!」
「あ、土井せんせ〜、おはよ〜ございますう」
「だ、大丈夫かい?」



食堂に入ると土井先生に声をかけられた。あー、あんまり大丈夫じゃないかもです。でも先生の顔見たら癒されました。
私をこんなにした当の本人はさっさとカウンターにご飯を取りに行ってしまっている。
土井先生はへろへろな私の肩を支えてくれながら、何故七松くんと一緒なのかと聞いて来た。そんなの私が聞きたいんですがね、ともかく夜中の事から今までの経緯を説明すると土井先生は眉を顰めた。そうそう、お願いします。先生からちょっとびしっと云ってやってください。



「七松!」
「なんですか土井先生!あ、さん、ご飯持って来たぞ」
「え、あ、ありがと」



七松くんは私の分の食事まで持って来てくれていた。そういうとこは気が利くのか・・・不思議な子だ。
土井先生の注意を受けると素直に謝っているし、悪い子ではないんだろうなぁ。ただちょっと暴走癖があるだけで。
流れで土井先生と同じテーブルに七松くんと並んで座ると視線を感じた。食堂内はまだ早すぎるのか生徒は数人しかいない。けれど見慣れない私の存在が気になるのだろう、彼らの視線は私に向いていた。



「あー、土井先生、なんか流れで座ってしまいましたが私このまま此処に居たら騒ぎになっちゃいますよね?」
「あー、そのことなんだが・・・既に騒ぎになっているんだ」
「へ?ど、どういうことですか?」
「乱太郎、きり丸、しんべヱのことは覚えているかい?」



勿論、と頷く。云わずもがなの主人公3人組だ。しかも昨日、私がトリップしてきた瞬間に彼らは(実は)居合わせていたのだ。忘れるはずもない。
その3人がどうかしたんですか?と尋ねると、土井先生は胃の辺りを抑えながら溜め息をついた。



「実はあの3人がくんの事を生徒達に広めてしまって」
「え。ええええ?!」
「へー、あの話の出所ってその3人だったのか」
「ええ?!」



二重で吃驚しました。え、なんですか、つまりもう全校生徒に私のことが広まってるってことですか。情報早くないですか。
学園長がなんかやらかしたって話は特に広まるのが早いって・・・そうですか。しかも今現在は話が一人歩きしていて錯綜しているとかなんとか。ええええ。ちなみに七松くんが聞いた話は「学園長先生が怪しげな殿上人を拉致ってきた」とか「学園長先生が厳つい美人を養子にした」とかいう話だった。なんじゃそりゃ。



「違うのか?」
「違う。断じて違う。厳つい美人てなんやねん。あ、でも学園長先生絡みの被害者だってのは合ってるけど」



てゆーか七松くん、その話を鵜呑みにしていたのなら私を一体なんだと思ってご飯なんぞに誘ったんですか。謎過ぎる!
ご飯冷めるから食べたら?と七松くんはマイペースだ。・・・なんか、キミに関してはいろいろと諦めがついてきたよ。(でも確かにおばちゃんのご飯が冷めてしまうので食べる事にする。)
とその時、第三者の声が割り込んで来た。



「じゃあ、本当のところはなんなのですか?」
「え?」
「おー、おはよう仙蔵!」



いつの間にか目の前に髪がさらっさらの男の子が立っていた。
七松くんと同じ色の制服だし、親しげだし、同じ6年生なんだろう。
土井先生が小声で6年い組の立花仙蔵だ、と教えてくれた。6年い組・・・確か潮江くんもそうじゃなかったっけ。
立花くんとやらはすっと綺麗な所作で向かいの席に座ると、また同じ質問をしてきた。本当のところ、と聞かれても。
困って土井先生を見ると、苦笑いを返される。えー、お願いですから先生から説明したってくださいな。私から云っても怪しさ爆裂、不信感ばりばりじゃないですか。
と視線で訴えると先生は頷いてくれた。ああ、土井先生ってばホント頼りになるな!



「かくかくしかじかだ」
「そうでしたか」
「そうだったのかー」



ずこー!え、ちょ、キミ達それでいいのですか!かくかくしかじかで分かったんですか!忍たまワールドすげー。
(しかし後で聞いたら矢羽音という暗号みたいなもので会話していたらしい。ほうほう、忍者すごいすなぁ。)


「申し遅れました、私は6年い組の立花仙蔵と申します」
「あ、私はー「さんって云うんだぞ」・・・七松くん」



なんだ?と首を傾げる様は・・・可愛いけども。
君ね、人の台詞を取るんでないよ。悪気がないからやっかいだなホントにもう!