キッサキ神殿の最深部に、奴はいた。
ほとんど苦も無く最深部に辿り着いた。途中何度も野生のポケモンに出くわしたけれど、シーさんやナイトの云う通り襲いかかって来る者はいなかった。
いなかったのはいいけど、なんていうか、この世界の醍醐味は・・・て感じもしなくもない。
「ねえ」
「なんですか?」
「彼・・・で合ってるかはわからないけど、私ゲットしてもいいのかな」
最深部の部屋の中央にずっしりと構えてるポケモンを見て、激しく疑問を抱いた。
私たちが来ていることも気付いているだろうに、彼(仮)は微動だにしない。まるで銅像のようにそこに鎮座していて、生きているのかすら微妙なんですけど。
「いいと思いますよ?不安なら聞いてみたらいかがですか?」
「う・・・返事、くれると思う?」
「それは話しかけてみないとわかりません」
果たして返答はあるのだろうか。そもそも、この会話すら聞こえてるはずなのに何の反応もないのは何故・・・
無機物みたいなそのポケモンに、私は怖々近づいて、思い切って話しかけてみた。
「あのー」
「・・・・・・」
「もしもし?」
「・・・・・・」
「ダメだこりゃ」
全くレスポンスがございません!なんていうか、これってもしかして寝てるんじゃないの?!
「もしもーし、ボール投げちゃいますよ?いいんですか?いいんですね?」
「・・・・・・」
「ナイトー」
情けない声を出して縋った私に、ナイトは苦笑を返した。もう問答無用で投げてしまいましょう、なんて云っているし、ナイトって案外強引。
大丈夫大丈夫、と繰り返し云うので、私も意を決した。寝てる方が悪い。そうだ、寝てる方が悪いんだ、と云い聞かせて。
「とりゃ」
「お見事」
ボールは綺麗な弧を描き、対象となったポケモンに当たった。ナイトがよくわからない賛辞をくれるけど、寝てる相手にぶつけるくらい簡単ですからね。
それでも戻ってきたボールを手にした私を見て嬉しそうに微笑むナイトを見ると、ちょっと嬉しかった。
「ところで、このポケモンって?」
「レジギガスですね」
「ふうん」
「どうしますか、彼を連れて行きますか。それとも此処に置いていきますか。」
「そうだねぇ」
手の中のボールをじっと見つめて、考えることしばし。結局本人の意思を酌もうと一度外に出すことにした。
赤い閃光が走って、巨体が元の位置に戻る。と、初めて相手から反応があった。ただし、ぴぽぴぽぎがぎが云ってるだけで何を云ってるかさっぱりわからなかったけど!
「彼は出来ることならこの場に留まりたい、と云っています」
「あ、そうなんだ。うん、いいよ。無理に一緒には連れて行かない」
ぴぽぎがぎが
「ありがとう、と云っています」
「うん、いや、こちらこそ??」
なんか、結局彼は寝ていたのか起きていたのか判断しかねるんですが。ていうかレジギガスはヒト型になれないのかな?
いやにあっさりとレジギガスゲットですが即行の別れを告げ、薄暗い神殿の来た道を戻る道すがら、ナイトに疑問をぶつけてみることにした。
「ねー、レジギガスも此処のポケモンたちもみんなモンスターの姿だけど、みんながみんなナイトやシーさんみたいにヒトになれるわけじゃないの?」
「ええ、明確な定義はありませんが、長い間生きていたり、レベルがある程度高くなったりしないと自由にヒト型にはなれません。尤も、レジギガスのようにヒトの姿を好まない者もいますが」
「ふうん、じゃあレジギガスはあえてヒトにはならなかったってことだね」
「そうですね。彼はそれはとても長い間生き続けているはずですから、ヒト型になれないはずありませんし、それしか考えられませんね」
「ナイトは、ヒト型に抵抗ないの?」
「はい。この姿の方が、とたくさん話せますから」
え、そんな理由ですか。なんていうか、ナイトって本当に心臓に悪いよね。そんなキラキラの笑顔付きで云われたら、きゅんときちゃうじゃないか!
えっと、ということは、ナイトもそれなりに長生きか、レベルが高いってことになるんだよね。
「そうですね。オレの場合はそんなに長生きなわけではありませんが、レベルが高いんです。自分で云うのもなんですが。」
「へー!いくつくらいなの?」
「正確な数字はわかりませんが、おそらく100に近いのではないかと」
「えっ!100?!」
おおよそですよ、と照れくさそうに笑うナイトはまた違った意味できゅんとしたけど、それよりもレベル100ってすごくない?
野生のポケモンて勝手にどんどんレベル上がっていくもんなのかなぁ。それとも、前に別にマスターが居たとか??
「オレには以前、マスターが居ました。ラルトスの頃から育ててくれた方が。ですが、その方は数年前に亡くなってしまいました」
「え、あ、そうなんだ・・・」
なんだか悪いこと聞いたかも、と思った。ナイトはとても寂しそうだった。
けれど、彼はすぐにふっと笑った。あ、この笑顔好きだなぁ、なんて思う。すごく優しくて、柔らかい笑みだ。
「がそんな顔をする必要はありません。彼は老衰で死にました。己の生を全うされたのです」
「・・・名前、あったんじゃないの?」
「いいえ、その方は名前をつけてはくださいませんでした。おそらく、自分が先にこの世を去ることをわかっていたのでしょう。」
遺言に、ナイトを野生に返すようにと遺したらしい。そして、それは実行された。ナイトも、そのマスターの家庭に留まることはしなかったと云う。
「ずっと以前から、オレにはと出会う未来が見えていたんです。前のマスターに話したことはありませんでしたが、もしかしたら彼は何か気付いていたのかも知れませんね」
「・・・名前、本当に私がつけてよかったの?」
「ええ、勿論です。とても、嬉しいですよ?貴女が、貴女の声がオレの名を呼ぶ度に、身の内から喜びが溢れてくる」
うっとりと熱を含んだ視線を送られて、かーっと全身が熱くなった。
うう、こっぱずかしいことをどうしてそうさらーっと云うかねこの方はぁぁぁああああ!