エイチ湖のほとりで〜
ユクシーと〜出会った〜
「おい、大丈夫か」
「大丈夫じゃないですね」
夢を見ていると思いたいけどそうじゃないことはとっくにわかっています。
目の前にいる青年が自分はユクシーと呼ばれていると云うのだから、これはあれです。
何度目かの異世界越えですよ。わーお。
唖然呆然としている私を見て、ユクシーと名乗る青年は少し呆れたように溜息をついた。
「“時空を渡りし少女”だな」
「なんですかソレ」
「我らに伝わる伝説だ」
「はぁ」
「“世界に悪がはびこる時、時空を渡りし少女が現れ、我らを導く。”」
「それが、私?」
「だろうな。名前は」
「ですけど」
ってか、今更だけどこの世界ではヒト型なんだなぁ。擬人化かぁ・・・ちょっと好物なんですけど。
ユクシー男前だし。可愛い感じかと思いきや男前だし。某乙女座の金きらのお兄さんとどことなく似ている気がするけど(目閉じてるとことか)男前だし。いや、彼も十分男前だけど、そう、性格に難アリだから。
またも何処かにぶっ飛んでる私に溜息を零したユクシーは、懐からまん丸の小さな玉を取り出して、私に差し出した。
反射的に手を伸ばせば、手の平に乗せられたまん丸の玉。これは、もしや“きんのたま”だろうか。金きらだけど、まさか黄金聖衣で出来てるとか云わないよね、ははは。
「。これを持ってこの先の街へ行け。そして物を売買できる店に行き、これを売って、手に入れた金でボールを買ってこい」
「・・・なんで」
「いいから、云う通りにしろ」
ちょっと訂正。この方もちょっと性格に難アリかもしれない。威圧的な態度までおシャカさまとそっくりなんですけど。兄弟ですか、と聞きたいくらい似ているんですけど。
何ですかねこの上から目線。早くしろとうるさいので、云われた通りにすることにした。
降りしきる雪の中、凍えそうになりながらもフレンドリーショップに行き、“きんのたま”を売って、売ったお金でモンスターボールを買い占めた。
そして律義にユクシーの元に戻る。だって、他にどうしていいかわかんないし。
「戻ったか」
「うん」
「ボールは」
「いっぱい買ったよ」
「では、ひとつ私に向かって投げろ」
「は?」
「だから、私に向かって投げろと云ったんだ」
「え、なんで。それって私の持ちポケになるってこと?」
「それ以外にないだろう」
「そうだと思うけど・・・なんで」
こういうのって、バトルして体力削って状態異常なんかにしてボール投げて「よっしゃあユクシー、ゲットだぜ!」っていう感じが定石なんじゃないの。
いや、私は一匹も持ちポケがいないのでバトルなんかできないけど。
「お前がこの世界に来た理由だからだ」
「意味わかりません」
「つまり、私のような希少な種を邪な者の手から守るために、お前は此処にいるんだ」
「・・・そうなんだ」
「そうだ」
「そうならそうと、先に云って欲しかったっていうか」
ホントにいいのね?って確認して、ユクシーが頷いたのを見て、ボールを投げてみた。
コツン、と彼の肌に当たると、ボールはパカリと開き、赤い閃光がユクシーを包み込む。
赤い光とともにユクシーはボールの中に吸い込まれて、投げたボールは私の手中に戻ってきた。おお、ハイテクだなぁ。
アニメやゲームじゃ当然だけど、実際に見るとちょっと感動。したのもつかの間。
ぶるり、とボールが震えたと思ったら、ユクシーが飛び出してきた。モンスター姿で。
「か、」
「可愛いと云うな」
「えー、なんで」
っていうか、一瞬にしてヒト型に戻っちゃった(?)んですけど。もったいない。やっぱり元の姿は可愛らしかった。
非常に可愛らしかった。もうちょっと堪能したかったんだけど、本人は可愛いと云われるのが嫌だったらしい。
「非常に不愉快だからだ」
「なんでぇ。素の姿でしょ?キライなの?」
「なワケがあるか。私は自分の姿に誇りを持っているんだ。それを可愛いと云われるのは非常に心外だ」
「ほめてるのに」
「そうは思えん」
なんだか難しいヒト?だなぁ。プライドが高いんだ。うん、まんま高そうだけどさ。
だからこそ、よくわからない小娘にゲットされるなんて死んでもご免だとか思いそうなのに。
「ねー、ホントに私でよかったの」
「お前以外にいない」
「なんで」
「我らにはわかるのだ。何故と聞かれても答えられない。ただ、わかるのだ」
野生の獣の勘、とでも云うんだろうか。彼自身、言葉に形容するのはひどく難しい、という感じだった。
知識の神と呼ばれる彼でさえ、説明することが出来ない“何か”が、私にはあるらしかった。
へー。て感じですけども。
「ねぇ、シーさん」
「なんだそれは」
「え、ニックネーム」
「センスの欠片もないな」
「酷!」
だってニックネームってつけるの難しいんだよ!苦手なんだよ!
だから私はいつもニックネームつけてないんだよ。でもさ、街中で「ユクシー」とか呼べないじゃん?
ユクシーです、ってバラしちゃいけないんじゃん?よくわかんないけど。危険増しちゃうじゃん??
「で、なんだ」
「私はこの先どうしたらいいのでしょう」
「だから、先程も云っただろう。私のような希少な種を守るのだ」
「どうやって」
「探し出して今のように捕獲すればいい」
「探すの」
「当然だろう」
なんと、面倒な・・・そりゃあこの世界に来たからには冒険の旅に出るのも楽しかろうが、面倒なもんは面倒っていうか。
ゲットして欲しいならそっちから来て欲しいっていうか。ってぼそりと呟いたら開眼された。ナニコレホラー!!ぎゃあああ!
「わ、わかった!わかったよ、探せばいいんでしょ!じゃあ、早速行こう!」
「ああ、行ってこい」
「・・・・・・。」
「・・・・・・どうした」
「いや、行ってこいって」
おかしくないですか。そんな、まるで、自分は行かないみたいな。
「何故私が一緒に行かねばならんのだ」
「いや、だって、シーさん私の持ちポケになったんでしょ」
「だからって一緒に行く理由にはならんだろう」
「いや、普通一緒に行くもんなんじゃないの」
「私は普通ではない。諦めろ」
「あちゃあ」
自分で云っちゃったよ。え、じゃあ何。私1人で探し出せってこと?
いや、普通に無理だよ。何処に誰がいるかなんてさっぱりわかりませんよ。
ていうか土地勘もゼロだから!此処何処!エイチ湖だけど!最北端てことくらいしか覚えてないよ!
「一緒に行こうよ」
「私はこの場を離れるつもりはない。」
「ええええええ」
何、酷い、この扱い。この世界で旅するのにポケモン一匹連れてないって無理なんじゃないの?無謀なんじゃないの?
って泣きつけば、盛大な溜息をつかれた。えええ、溜息つきたいの私なんですけど。
「力になってくれそうな者なら、この先にいる。そやつに頼め」
「何ソレ、誰?ポケモン?」
「そうだ」
「それも1人で行かなきゃいけないの」
「お前は子どもか」
「子どもよりダメダメだと思う」
自分で云うのもどうかと思うけど、多分ホントにこの世界の子どもより全然しっかりしてないと思うよ。
なんせ未知すぎる世界なのだ。
「安心しろ、我らモンスターがお前に危害を加えることはない」
「どうして」
「お前は質問が多いな」
「いや、なんでもかんでも知ってるシーさんがすごいんだと思うんだけど」
「お前が特別だからだ。理由は先も云った通り、“わかる”としか云えない。」
「うーん」
「・・・ぐずぐずしている間に、相手の方が来たようだぞ」
「え?!」
え、の一瞬で目の前に別の青年が現れた。叫ばなかっただけ褒めてほしい。だって何、これってテレポート??
その青年はニコリと綺麗な微笑みを浮かべて、私の手を取った。
「はじめまして、マスター」