お呼ばれ。
「あ」
ふと昨日のカノンの後ろ姿が脳裏に浮かんだところでそういえばと彼らの基本情報も一緒に思い出した。
今日、あの双子誕生日のはずだ。
残念ながら連絡の取りようがないし、よしんば取れたとしても何よりなんでそんなこと知ってるんだって感じになっちゃうよね。
「うーん」
「何、どうしたの?」
「うん、ちょっとね。今日誕生日の人思い出したんだけど、連絡先知らないやって思って」
「ふーん、それはどうしようもないね」
「でしょ」
不毛な会話だ。リーマスはすぐに興味を失ったようで家事に戻っていく。
まぁとやかく云っても仕方がない。私も中断していた支度に戻ることにした。
今日は常陸院家にお呼ばれの日だ。なんでもお茶会をやるとか云ってた。そろそろ迎えが来る頃だしって慌てて支度をした。
のに。
「え、お茶会は午後?」
「そうだよ」
「じゃあなんでこんな早く呼んだの」
「に早く会いたかったから」
「準備もしなくちゃならないし」
現在午前10時。常陸院家に到着するなり双子に引きずられて連れられて来たのはとある一室。
告げられたのは、お茶会はまだまだという話と準備という言葉。
広い部屋にも関わらず所狭しと並んでいる服の数に、どう考えてもこれは着替えさせられるよなとは思ったけど。
まぁ、毎回着せ替え人形のごとくなんだけどさ。一応私だって気合い入れて準備してるからさ(だって適当だと双子に相当文句を云われるし)、がっくり感は否めない。
にしても並んでいる服はなんだかいつも着せられるものより華美で・・・服というかこれはドレスだ。なんだか、嫌な予感がする。
「・・・ねぇ、聞くけどお茶会って2人とだよね」
「ぼくたちも勿論いるけど、その他大勢もいるよ」
「そ、そのその他大勢とは・・・」
「さあ?母さんが呼んだ人たちだから、ぼくらは知らないよ」
お茶会って・・・!いつものティータイムを想像していた私の考えは打ち砕かれた。
それ、もっと早く云って!!
白いレースのミニドレス。ビジューの付いたヘッドドレスにパンプス。いつもより念入りに施されたヘアメイク。
満足そうに隣を歩く双子も白のスーツで、さながら新郎新婦みたいである。こっぱずかしいことこの上ない。
やって来たのはまるでイギリスの貴族がやるような野外パーティーだった。
既に多くの人たちが集まっていて、一度はぐれたら見つかるまでに時間がかかりそうだ。
はぐれないようにしなきゃね、と後ろを振り向いたら、既に双子の姿はなかった。
「・・・・・・」
何コレこの放置プレイ。わざとか。わざとなのか。
一気に心細くなった私は不審でない程度に辺りを見回す。しかし探し人はそう簡単に見つからなかった。
探し人は見つからなかったんだけど・・・なんだかとっても見覚えのある後ろ姿を見つけてしまった。
いやしかし。何故居る。
今朝も思い浮かべた昨日の彼の後ろ姿。それと同じものが今目の前にある。しかも×2。どう考えてもさ・・・あの双子だよね。
「あらさん、こんにちは」
「・・・こんにちは沙織さん」
私に気づいた沙織さんがころころと嬉しそうに笑った。
近いうちに会うって・・・まさかこういうことだったんだろうか。
けれど沙織さんの後ろの2人は驚いたように目を見開いている。
「さんも招待されていたのですね」
「いえ、私は招待というか常陸院の双子に無理矢理連れてこられたというか」
「常陸院家の方と親しいのですか?」
「そうですね、お世話になってます。」
「そのお2人は今どちらに・・・」
「さぁ。置いていかれましたので」
「まぁ」
沙織さんもまさか今日こんなところで会えるとは思ってなかったみたいだし、あの言葉は別のことだったんだろうと思う。
後ろのサガとカノンにもこんにちは、と挨拶をした後で、そういえばと思う。
2人、誕生日なんだよね。でも、いきなり云えないよね。心の中で思っておこう。
「それにしても今日さんにお会いできてよかったですわ」
「え?」
「実はこの2人、今日が誕生日ですの」
「え、あ、そうなんですか」
いきなり何を云い出すかと思いきや、沙織さんは私が2人をお祝いできる機会をくれた。
もしかして、気づいているんだろうか。にこにこと微笑む彼女の心のうちはわからないけれど、これで表立っておめでとうと云える。
「お誕生日、おめでとうございます」
「あ、ああ」
「ありがとう・・・」
歯切れ悪く返事をした2人は形容しがたいような複雑な表情を浮かべた。
・・・あれ、嬉しくないのかな。それは私のおめでとうの言葉が?それとも、別のこと?
「私は挨拶がございますから、サガ、カノン、あなた方はさんとお話でもしていらっしゃいな」
「し、しかし我々は護衛で・・・」
「辰巳もおりますし、遠くまで行くわけではありませんから」
それにさんをお一人で置いていくわけにもいかないでしょう?そう云って沙織さんはさっさと辰巳さんを連れて人ごみの中に消えていってしまった。
ていうか辰巳さん、いたんだ。ちらりと2人を見上げると、困惑げに私を見下ろしていた。
「あの、沙織さんが気になるなら私にかまわなくていいよ」
「しかしそういうわけにも・・・」
「多分光も馨も近くにいると思うし、大丈夫」
「だが・・・」
沙織さんの命は絶対なのか、2人は渋りながらも沙織さんを追いかけようとはしなかった。
なんだかとっても気まずい。えーと、えーと、となんとか話題を探した。
「ふ、2人は何歳になったの?」
「ん?ああ・・・29、だったか」
「そうだな、そのくらいだ」
「へーえ」
沈黙。
「あ、沙織さんに昨日のお菓子のお礼云うの忘れてた」
「それなら俺が云っておいたが」
「そうかもだけど、ちゃんと云いたかったな」
「ならば後ほどその旨伝えておこう」
「ありがとう」
沈黙。
「このドレス、今日の主催者の常陸院さんのデザインなんだよ。可愛いでしょ」
「ああ、よく似合っているな」
「え、ほ、ホント?」
「ああ、可愛いよ」
え、あ、う。と言葉にならない声が口から漏れた。
まさかそんな褒め言葉が返ってくると思わなくて、思わずかぁっと顔に熱が上ってくる。
「何真っ赤になってる」
「だ、だってそんな風に云ってくれると思わなくて」
カノンが意地悪げに笑った。ううう、ひどい。だって、サガが優しく笑うから。
君を一人にできない理由はそれもある、とサガが云った。
「え?」
「邪な輩が寄って来ては困るからな」
そんな物好きいないよ!と叫びたかったけど、サガの目が真剣だったから突っ込めなかった。
な、なんだか無駄に小宇宙燃やしてない??密度が増したような空気にごくりとつばを飲み込む。
カノンは少し呆れたように息をついた後、何か取ってくると云って軽食やスイーツが用意されているテーブルに行ってしまった。
2人きりにしないでって感じだったけど、ふとサガの顔を見て先ほどの2人の表情がどうしても気になった。
「・・・ねぇサガ」
「ん?なんだ」
「誕生日、嬉しくないの?」
「何?」
「さっき、複雑そうな顔してた」
サガは少し狼狽えたようだった。いけないこと聞いちゃったかな。
「・・・素直に喜べる歳でもないからな」
「ふうん」
困ったように笑うサガに、これ以上は聞けないと思った。
そういえば、聖戦って本当にあったんだろうか。
今更だけど銀河戦争なんてイベント・・・記憶にないし。ただこっちの世界に来てからテレビとかほとんど見ないし、世界的な津波の被害やら原因不明の日食とかはあったし、アレかぁーと勝手に思ってたけど・・・だからと云ってそれが本当に聖戦の影響だったとは云えないし。
でも仮にもしあれが起こったんだとして、今彼らがココにいるっていうのは生き返ったからだよね。
もしかしたらそのことを受け入れられてないのかな。
「普通に考えてこの歳の男が誕生日を嬉しがっていたらキモイだろう」
「あ、カノン」
聞いてたんだ、っていう具合に戻って来た片割れはちょっと自虐的な笑みを浮かべていた。
それにしてもこの2人って、顔はほんとそっくりだけど作る表情が全く違うよね。
生きて来た境遇が違うからなんだろうけど・・・カノンからスイーツの乗ったお皿を受け取りながら、かなり上の方にある2人の顔を見つめる。
「んー、そうかも知れないけどさ、沙織さんはちょっとは楽しんでほしいと思ってるんじゃないかな」
「え?」
私の言葉に2人は困惑気に顔を見合わせた。
鈍感だなー、もう。
「多分だけどさ、この日にこういう所に連れてきたのってそういう意味なんじゃないの」
「・・・・・・」
「まぁこういうところが楽しいとかそういう歳じゃないのかもだけど」
「大きなお世話だ」
「自分で歳だって云ったくせに・・・甘いものは嫌い?此処にあるの全部一級品だと思うし、嫌いじゃなかったら食べた方がいいよ〜」
普段聖闘士がどんなもの食べてるのか知らないけど、なんとなく質素なイメージが・・・
でも絶対甘いもの好きじゃなかったとしても今日は食べておくに越したことはないと思うんだよね!
甘いもの好きとしては天国のような場所だけどね!
「は甘いものが好きなんだな」
「そりゃー、女子だからね」
「よく食うな」
「別腹ですからね」
カノンが持ってきてくれた分がぺろりと私の胃袋に収まってしまったのを見て、2人は笑った。
そして沙織ちゃんが光と馨と一緒に戻って来るまで、3人でこの優雅なティーパーティーをそれなりに楽しんだのでありましたー。
ていうか、私はほとんどカノンにからかわれてたんだけど。サガ、にこにこしてないで助けてよね・・・え?私の反応が面白くて可愛いからって・・・結局似たもの兄弟か!!