災難からの。
唖然呆然何この事態。うちのマンションの玄関がほぼ全壊状態なんですけど。
学校から帰って来てみればこんな状態ってどうなの。超局地的な大地震が起こったのかって感じなんですけど。
なんでどうしてこんなことになってるんだろう。と一瞬パニくりかけたけど、どうやら事の元凶は瓦礫と化した玄関前で口論している男たちにあるらしい。リーマスはどこ行った。ていうか、何この人たち。
人様の家の玄関を壊しておいて(もはや決定)逃げも隠れもせず、とてつもなく下らない云い合いをしている。
スーツ姿ではあるけど長髪だし、どう見ても日本人じゃないし、怪しすぎる。
2人の間にごおっと何やら凄まじいオーラのようなものが取り巻いているのが見えるけれど、大の大人が揃ってお前の所為だと罪を擦り付け合い、更にお互いの些細な悪口を延々と繰り返している様は大変滑稽と云うか無様である。
あまりに低レベルなその云い合いに、常人とはおよそ思えない2人ではあったけれども、私はなんだか腹が立ってきた。
非常に、腹が、立ってきた。
「ちょっと」
「なんだ!」
「邪魔をするな!」
「邪魔を、するな、だって?」
声を掛けると、間に入って来るなとばかりに怒鳴られたけど、ちらとも視線を向けてこない2人に恐怖よりも怒りしか湧いてこない。
珍しく、私は怒っているのだ。引きつった私の声に、怒りのオーラに、2人組は漸く視線を互いから逸らし、私の方を見た。
そして我に返ったらしい。「ヤバイ」という表情を同じ顔に浮かべた。
「人んちぶっ壊しておいて、邪魔をするな??ちょっと、責任者呼んできなさい」
「いや、これにはワケが・・・」
「いやワケというかなんというか」
「ワケは責任者が来てからたっぷりじっくり聞きますから、責任者呼んで来い」
「「ハイ・・・」」
にっこりとリドル直伝の微笑みを向けると、2人は大人しく頷いた。よく見れば、同じ顔。どうやら双子らしい。
1人が何処やらに電話をかけ始めたのを見て、私はもう1人に話しかけてみることにした。
「で、一応事の経緯を聞きますけど」
「いや、そのだな・・・ちょっとしたはずみで口論になり」
「ほーお、勤務中に兄弟喧嘩を始め?そんで勢い余って人のマンション壊しましたって?」
「ま、まぁ、そんなところだ。よくあることだ」
「そうですねー、よくある話・・・なワケないでしょーが。よくあってたまるか」
「いやオレたちにとっては・・・イエ、ソウデスネ」
ぎらっと睨みを利かせると、男は黙り込んだ。よくよく見れば、かなりのイケメンである。
がイケメンだろうがなんだろーが、建造物等損壊罪である。云ってみれば財産を壊されたのである。
きっちり責任を取ってもらわねばならぬのだ。ああ、リーマスはどこに行った!
2人組が呼んだ責任者とご近所さんが呼んじゃった警察と到着が同時だったけれど、2人組の責任者を見て私はすぐに示談にすることに決めた。
うん、これは、警察沙汰にしたらマズイと思う。なんていうか、バチがあたりそうって云うか。
警察の方には早々にお帰り頂いて、私は責任者の女性・・・女の子?と向き合った。彼女は深々と頭を下げている。
「この度は部下が大変なご迷惑をおかけしまして、まことに申し訳ございませんでした。」
「ええ、まぁ、そうですね。大変な迷惑ですけれども」
「更に示談にまでしていただいて・・・寛大なお心に感謝いたします。」
「まぁ、ちゃんと償ってはもらえるみたいですし」
「勿論ですわ!ご希望でしたらリフォーム・改修も我が財団の子会社が無償で承ります。」
そう云って「ああ、ご挨拶が遅れました」と名刺を差し出してくる彼女。名刺にはやはり“グラード財団”の文字がでかでかと書かれていた。
そして。
「わたくし総帥の城戸沙織と申します。」
「それはまた・・・最高責任者が出てきましたね」
「ええ、ちょっと彼らは特殊な社員でして・・・」
「まぁ、ちょっと普通の社員ではなさそうですよね」
世界のグラード財団の総帥を前にしてなんとも砕けた話ぶりだが、そこはホレ今は被害者だし。
相手は同じ年頃の女の子だし。大変神々しくはありますけれども。だって沙織さんですよ。アテナですよ。女神ですよ!
「それにしても、貴女のようなお若い方がこのように立派なマンションの持ち主だったとは驚きましたわ」
「私も世界のグラード財団の総帥がこんなに若いお嬢さんだったとは驚きです」
「あら、そうですわね。普通は驚きますわね」
「ええ、そうですね。吃驚しました。」
うふふ、あはは、と女性陣が和んでいる間に、男共は縮こまっていた。
会話に交われないが黙っているわけにもいかないと、1人がおずおずと声を掛けてくる。
「あ、あのアテ・・・総帥」
「なんです、サガ。ああ、貴方がたも彼女に誠心誠意お謝りなさい。というより、ちゃんと謝ったんでしょうね勿論」
「い、いえ、その・・・」
「謝罪もしていないのですか?なんということでしょう。自分がしたことがわかっていないのですか?彼女が示談でいいと仰ってくださったからいいものの、一大事ですのよ」
「それは勿論承知しております。本当に、申し訳なかったと・・・」
「きちんと彼女にお云いなさい」
アテナの叱責に双子は大層落ち込んでいるようだった。
いや、どっちかというと落ち込みたいのはこっちなんだけどね。被害者だからね。まぁ、直してくれるんだしもうごちゃごちゃ云わないけどもさ。
本当に申し訳ありませんでした、と大人の男性2人に揃って頭を下げられるというのはなんとも居心地が悪い。
勿論彼らは悪いことをしたのだから当然ではあるけれど、相手がかの黄金聖闘士だからというのもあるかもしれない。
あの、黄金聖闘士なのだ。しかも、その中でも最強を誇る双子座の2人に・・・なんだか、逆に悪いことをしている気分だ。
「あの、まぁ、もう終わってしまったことだし、きちんと賠償してくださるんですし、文句はありませんから」
「なんと慈悲深いお言葉でしょう!聞きましたかサガ、カノン。この世界にはこんなにも心根の優しい方もいらっしゃるのです。なんと素晴らしいことでしょうね」
沙織さんはいたく感激なさったご様子で、がしっと私の両手を掴んできた。おおう、近い近い。ていうか美少女だよなぁホントにぃ。
ちょっとドキドキしちゃうんですけどぉ。
「さん」
「はい」
「このマンションに空き部屋はございますか?」
「え?はぁ、結構ありますが」
「そうですか。では2部屋ほど買いますわ」
「へ?いや、うちは賃貸しか・・・」
「ではお借りいたします」
そういう問題でなく。何この展開。咄嗟に至極まともな返事をしたことを自分で褒めたいです。
何がどうなってそういうことになったのかわからないけど、とりあえず沙織お嬢さんは以前から部屋を探していたらしいです。
ついでっていうか何かの縁だっておっしゃってはりますけれども。ぜひともお借りしたい、とおっしゃっていらっしゃってますですけれども。
改修工事の業者は既に手配済み、部屋については後で秘書が来るってんで、お忙しい沙織お嬢さんは双子を引き連れて嵐のように去って行かれました。
話についていけないまま1人その場に取り残された私は、買い物に出ていたリーマスが帰って来るまでその場に突っ立って呆然としていた。
ていうか今更だけど、この世界にも神様いたんだ。