編入。



なんと、かの氷帝学園(中等部)に通うことになった。この世界は、結構なんでもアリらしい。
制服が着られるような年齢はとうに過ぎた、と云ったけれど、行きたくないのかと聞かれて詰まった。
既に編入処理は済ましている、と聞けば、もう「No」とは云えなかった。

とはいえ。クラスのドアの前まで来て、尻込みしてしまったのは仕方ないと思う。
リドルはよく似合うと云ってくれたけど、どう考えたって今の自分の姿は中学生には見えない。初々しさとか若々しさとか青い感じとか、全くない。
クラスに溶け込める気がしない。考えてみれば学生の頃は年相応に見られたことがなかったけど、そういう次元じゃない気がする。
しかも昨日は遅くまでリドルに魔法をみっちり特訓させられて、寝不足気味。こんな顔が疲れた中学生なんて見たことないし。
やっぱりなんとしても断固拒否するべきだったと思っても後の祭り。
担任の先生により、無情にもドアは盛大な音を立てて開かれた。

クラス中から集まる視線、視線、視線。
ああ、痛い。まともに前を見らんない。担任の後にくっついて、教室の真ん中まで行かなくちゃいけないのが拷問のように思えた。
じゃあ、挨拶を。ってなって、いつまでも下向いてても暗い子って思われるし、一瞬だしって頑張って顔を上げた。ら。

いた。

キングが。

強烈なオーラを放って、そこにいらっしゃった。
その瞬間、しゃっきり背筋が伸びた。自信がついたと云ってもいい。

うん、私、中学生に見える。

です、よろしくお願いします。」
「じゃあ、あの空いている席に座って」
「え・・・」

空いている席、というのは、お約束にもキングの隣だった。
じっと見られているのが気になったけど、隣ってことは私一人浮く心配がないってことだ。まことにラッキーである。
不安しかなかった中学生生活だったけど、杞憂になりそうだと思った。

新学期だから、HRが終われば今日はもう帰れる。先生が終わりの合図を告げ、皆が思い思いに動き出した。
誰か話しかけてくれるかなぁ、とドキドキしていたら、教室の外が騒がしくなったのに気付いた。
なんだろうと思って視線を向ければ、なんだか尋常じゃないくらいの人だかりが出来ている。
何、何事なのこれは?と目を白黒させていたら、隣の跡部氏が一言。

「お前目当てだろ」
「は?」
「ウチの学校は転入生が珍しいってことね」
「え?」

跡部氏の言葉にクエスチョンを返せば、逆方向から補足説明が入った。
振り返れば、可愛らしい女の子が。

「えへへー、私若葉コトネ!よろしくね、さん?さん?ちゃん??」
「あ、はぁ、好きなように呼んでいいよ?」
「じゃあ、ちゃん!」
「うん、よろしくコトネちゃん」
「や!私はコトネって呼んで!ちゃん付けってなんか変な感じ!」
「はぁ、じゃあコトネ」

にこにこと笑う彼女は溌剌としていた。ああ、若いってこういうことか。なんてオバサンみたいな考えがよぎる。
が、今問題なのはそこではない。

「転入生が珍しい、ってなんで?」
「編入試験が難しいってことね〜、なんでも、噂じゃ高校入試と同レベルらしいよ?」
「へぇ、そういえばやたら難しかった記憶が」

あったりなかったり。いかんせん自分がじかに体験したワケではないので、リドルに埋め込まれた記憶は曖昧なものが多い。
それにしても、転入生が珍しいからってこんなに人だかりができるものだろうか。動物園のパンダになった気分である。

「しかもしかも!ちゃんは満点合格だったって噂〜。だからみんなどんな子なのか一目見たいってことね〜」
「はぁ」

ことね、って語尾に付けるのがクセなんだろうか。コトネなだけに。やだカワイイじゃない。マンガみたいだけど。
あれ、そういえばコトネってどっかで見たことあるような聞いたことあるような・・・うーん、どこでだろう。

「ていうか、私は普通にひっそり地味な生活を送りたかったんだけど・・・」
「えー、何ソレ!ていうか無理じゃない?」
「目立ってるよねぇ。ああ、どうしてこんなことに・・・あ、でもこういうのって最初のうちだけだよね」
「いや、無理だと思うよ。普通に。ちゃんじゃ」
「え、なんで」

だって、ねぇ。跡部くん。
俺に振るんじゃねぇ。
なんて遣り取りを2人がしているのを不思議に思っていると、新たな訪問者が現れた。

「おー、なんやものすごい美人さんやんか」
「俺もっとすげーガリ勉女みたいの想像してた!」
「そうやなぁ」

他の生徒たちが教室の外から窺っているのを尻目にずかずかと入りこんできたのは伊達眼鏡こと忍足くんとオカッパくんことがっくん。
あらぁ、テニス部さんが向こうからいらしてくださるとは。それにしても忍足くんを見てると、うん、私中学生に見える、と再確認。

「おい樺地」
「ウス」
「?!」

いつの間にか跡部氏の脇に樺地くんが立っていた。なんだこれ、すげーなオイ。
跡部氏は樺地くんにジロちゃんを起こすように指示し、(あ、同じクラスだったんだ、)席を立った。


「は、はい」
「俺は跡部景吾だ。覚えておくんだな」
「はぁ」

なんか、面白いんですけどどうしましょう。見事な俺様っぷりで、ある意味感動です。
忍足くんとがっくんにも「オラ、行くぞ」なんて顎で命令しちゃってるし、それを「ハイハイ」とあっさり受けてる2人もすごいし、こりゃ学生生活退屈しそうにないわ。

「ほなまたな、さん」
「まったな〜」
「はぁ」

手を振るD2コンビに手を振り返し、「また」ってなんだろうと思う。コトネがうふふ、と不気味に笑った。

ちゃん、テニス部に気に入られたみたいだね〜」
「え?」
「頑張ってね!」
「は?」

何やら楽しげなコトネと反対に、私はなんだかよくない予感がして顔が引きつった。
退屈はしなさそうだけど、波乱万丈になること必至だった。ああ、私のまったり中学生生活計画が・・・