まだ帰ってないし。呟いた声は誰もいない部屋に吸い込まれて行った。目が覚めると時計の針は午後4時を指していた。
パンケーキに添えていたミニトマトを摘んで口に放る。すっかりぬるくなったトマトは何とも云えない感じだ。美味しいけど。
はぁ、と溜め息をついて立ちあがり玄関へ向かう。もう一度だけ周辺を探してみよう。もしかしたら本当に行き倒れてるのかもしれないし、と玄関ドアに手をかけた時でした。
「え!?」
「・・・出かけるのか?」
外側からドアが開けられました。開けたのはクロロでした。クロロが不思議そうに私を見下ろしていました。
ていうか一瞬不機嫌そうに眉を顰められたんですけど。え、なんですかそれ。顰めたいのこっちなんですけど。とムッとして私の身体は無意識に動いていました。
「クロロのばかー!」
「おっと。なんだ、どうしたんだ」
ムッとして殴ろうかと思ったのに・・・何故か私はクロロに抱きついていました。超無意識。
クロロは普通に私を抱きしめ返してきて、これじゃなんだか抱き合ってるみたいじゃないか!っていうか抱き合っているんだけど!
「ちょっと離してよ」
「から抱きついてきたんだろ」
にしてもいきなりバカとは酷いな、俺が何をしたって云うんだ?そう云って面白そうに笑うクロロが憎たらしい。このやろー、人の気も知らないで!そら確かに私から抱きつきましたが離してと云ったんだから離してくださいよ!しかも何をしたんだ?ってわからないんですかいこんちくしょー。
「遅い!」
「ああ、遅くなったな」
「遅くなったとかいうレベルじゃなくない?」
俺は遅くなると云ったぞ、とか云ってますけど、日をまたぐのであればそれは遅いとかそういう話じゃないでしょっていう話であってですね。
「なんだ寂しかったのか?」
「ち、違うし!」
そうよ違うんだから寂しくなんてなかったんだから。ただどっかで行き倒れてたらなんか目覚めが悪いっていうか一応同居人なわけで心配だったっていうか。
まぁクロロに心配なんかしても意味ないかもしれないけど一応確かめておきたかったっていうか。しかしなんで私はこんなにホッとしてるのでしょうか。別にクロロが帰って来なくたってよかったのではなかったのでしょうか。
ああ、なんていうか、これだ。拾った猫が数日後に脱走してしまって、車にひかれたりしてないかって心配して、けどまぁそんなに長い間飼ってたってわけでもないし、他に帰るところがあったならそれでいいと思ってたし、でもそう思ってたところにひょっこり帰って来た時のような感じだ。わかります?とにかくそんな感じで寂しいとかそういうのではないのだ断じて!
「そんなに寂しかったなら連絡すればよかっただろう」
「だから違うって云ってるし。大体私ケータイ持ってないしクロロの連絡先だって知らないし」
「あ、そうか。じゃあ買いに行くか」
「え、今からですか?」
「善は急げって云うだろ」
「・・・・・・」
善とかあるんですかあなたに、と突っ込みそうになったけど飲み込みました。まぁ、そういうことにしておいてあげます。
しかしケータイってお金かかるし、なくても不便に思わなかったし(今日は思ったけど)いいよ?と云うと、遠慮するなと男前の笑みが降って来た。
・・・だから、そういう顔は反則なんですよお兄さん。普通にイケメンなんじゃい!至近距離で見るには心臓に悪すぎるんじゃい!
「ところで今すぐ買いに行きたいくらいだが、少し疲れててな。一休みしてからでもいいか」
「勿論」
パンケーキあるよー、と云うとクロロは嬉しそうに笑った。
だからー!その笑顔やめてください!!破壊力ぱねえっすからー!!
その日以降、クロロが過保護ちっくになりました。
え、なんで。セクハラ酷くなってんですけど。本気でやめてえええええ!!!!