のっぴきならない事態に陥ってしまったが故正直に「あれは魔法です」と告白したというのに彼はといえば「魔法?ふーん」と興味なさそうに淹れてあげた紅茶をすするだけ。ちょ、そりゃないですってお兄さん。いやね、俺が聞きたいのはそういうことじゃないとか思ってると思いますけど本当のことなんですよ。
だから「で?」とか云われてもそれ以上答えようがないんですって。え?方法?HOW?そんなもん“びゅーん、ひょい”としか云えないです。あ、“びゅーん、ひょい”は浮遊呪文の時だけど。
「杖を使う?へえ、本当に魔法みたいだな」
「だから本当に魔法なんですって・・・だから内緒って云ったのに」
云っても信じてくれないと思ったから内緒にしたんだ、と云うとクロロさんはふっと鼻で笑った。
・・・かっこいいけど、なんかムカつく。
いや、そんなこと死んでも口にできないというか口にしたら即刻あの世にいってしまうのではないかと思いますけど。
「その杖は何でできてるんだ?」
「え?私のは確か不死鳥の羽と柊ですけど」
「不死鳥ねえ。私のは、ってことは他の誰かも“魔法”とやらを使うのか?」
「そうなりますね」
さすが抜け目ないというか。さりげない一言を拾ってくるなぁ。こりゃホントやっかいな相手だ。下手な事云えない。
いやもうむしろ彼の云う通り“洗いざらい”本当の事を云ってしまった方がいいのかも知れない。ていうかこのままじゃどうせ根掘り葉掘り聞かれるんだろうし、嘘ついてもバレて本当の事云うまで解放なんてしてくれそうもないし、本当のところを云うしか解放される手だてはない。そう早々に諦めをつけ、私は溜め息をついて立ち上がった。
「クロロさん、この際私は腹を決めました」
「は?」
「きっとこれも何かの縁と云うか思し召しと云うか、そういうことなんでしょう」
相手が稀代の極悪犯罪者だろうが私の知る物語の登場人物ということは私がこの世界に来たなんらかの理由に関与するとみて間違いないだろうからきっとちょっとやそっとのことでいきなり問答無用に殺されたりするってことはないだろう。と無理矢理思い込む事にした。
ええ、そうですよ、極限状態になりゃ人間奇行に走るもんですよ。なんでもできちゃう気になるもんですよ。そんなに知りたいと云うのであれば納得がいくまでご覧に入れて差し上げますよフフフ。
「クロロさん、これから話す事は真実です。頭がおかしいと思ってもらってもいいですが、私にとっては紛れもない現実です」
ひょいと杖を振って数冊の本を呼び寄せ、私が異世界から来た事や魔法についていくつかの魔法関係の本を見せながら詳しく話して聞かせた。
さあどうよ。どうなのよ。信じてくれたのくれないの。信じるかどうかはあなた次第なのだよ!
「・・・一つ、いいか」
「はい?」
一通り本に目を通していたクロロさんがふと顔を上げた。
何を云うかと思えば、怪我を治した魔法を見せてほしいということだった。
見せてほしい、と云われても、もうクロロさんは怪我をしていないし、私だってどこにも怪我なんかないし、見せようがない。
そう云うと彼はあろうことかナイフをどこからともなく取り出して迷わず自分の腕を斬りつけた。
「いやああ!何やってんですか!」
「何って、これでいいだろう」
「よくないです!ああ、ホントに、もう!」
心底何がよくないのかわからないとばかりに首を傾げるクロロさん。ちくしょう、こういう類の人にこういうこと云っても仕方ないのかもしれないけどもう少し自分を大切にしてえええ。
急いで傷を治してあげると、クロロさんは「おお」と短く感心した声を上げた。もう、「おお」じゃないですって。云っても無駄なんだろうけど。でも一言云わせてください。
「いくらなんでも自分を斬りつけるなんてありえないです」
「別に、大した傷でもない」
「いやいやいやそう云う問題でもないし今のは結構大した傷ですよ!まったく躊躇いもなくやるなんて、クロロさんは普段どんな生活してるんですか」
いや実際あんまり聞きたくないけど。クロロさんは意味深な笑みを浮かべるだけで答えなかったけれど、答えてくれないでよかったです。
しかしまぁともかくこれでなんとか魔法については理解してくれたらしい。異世界から来たってことについては触れられなかったけど、まぁその辺は別にいい。
さ、満足していただけたならどうぞお帰りくださいませ。と、そこまであからさまには云わなかったけれどそう匂わすとクロロさんはきょとんとした顔をした。
・・・なんですかその顔。一瞬可愛いとか思ってしまったじゃないですか。
髪を下ろしてるバージョンは卑怯ですよ。普通にさわやかなイケメンですよ!
しかしながらなんでその反応。ちょっと待て。なんだかうっすら嫌な予感。
「気が変わった」
「へ、へ?」
あ、あれなんだこのやり取り。ついさっきもしたような気がするぞコレ。うわああああ嫌な予感濃厚!!
そしてその予感は見事(最悪な事に)的中するのである。にっこり、彼の端正な顔に悪魔の笑みが浮かべられ、死刑宣告にも近い台詞が一言紡がれた。
「、俺と一緒に来い」
がっでえええええええむ!!
やっぱりハンター界は過酷でした。