後日。無事に千秋楽を終えて時間ができたと連絡をもらったのでMANKAI劇場の事務所に向かった。
主宰兼監督の立花さんと、支配人の松川さんと3人での話し合いです。
松川さんが私を見て驚いて目を丸めていた。一応立花さんから話は聞いていたみたいだけど、まさかこんな若い女が来るとは思っていなかったようです。不躾なほどじろじろと上から下まで見られたけど、うーん、まぁ仕方ないか…
いうて松川さんも支配人にしてはだいぶ若そうだけどな。
彼は薄い笑みを浮かべて丸い背をさらに丸めながら手を揉みだした。なんつぅありがちな…
「あの〜早速で申し訳ありませんが、出資して頂けるというのは大変ありがたいのですがいかほどを…?」
「ひとつの公演にどれくらいかかるものなのかわからないので逆に伺いたいのですが。例えば次回公演の予算は決まってたりしますか」
「え?えっと、前回がこのくらいだったので同じくらいかなと」
「なるほど、じゃあまずその予算分出しましょう」
「ええっ」
「全額、ですか?」
「はい」
松川さんの顔がわかりやすいほどに変わった。立花さんもまさかそんな額を予想していなかったようで瞠目している。
私は逆に提示された金額が思ったより少なくてびっくりしたけど、新体制になったばかりで初期費用が全然なかったのかもな。いや、前回と同じ予算ということは、現在進行形で資金が十分にあるとは考えられない。
千秋楽はチケット完売したらしいからざっと計算しても予算分はおそらく回収できていると思うけれど…劇場の維持費も馬鹿にならないだろうし、劇場のボロさから見ても資金難は一目瞭然か。だからこそ出資を申し出てみたんだけども。
しかし衣装と舞台装置は豪華だったよな〜。格安で請け負ってくれる人がいたのか。
劇団の概要を聞くと、松川さん以外は先月入ったばかりの新人で役者はロミジュリに出ていた5人のみ、しかも全員未経験者。給料や出演料の代わりに寮と食事を提供しているっていう感じで経営はやはりかなりかつかつのようだ。
ていうかこれよっぽど元々お金があったか借金してるかしないと帳尻が合わないぞ。数年間公演やっていなかったらしいし、後者の確率99%…
そこで劇団の抱える借金の話や、1年で“とある条件”をクリアしないと劇場が取り壊されるなんていうことを聞いてしまった。
それでもよければお願いしますっていうか何卒救いの手を〜って松川さんに泣きつかれた。
まぁ私としては投資というか寄付みたいなものだと思ってたから、リターンは求めてないからいいですけど。
毎公演席用意してくれればそれで。
「それは勿論!」
「であれば、私からは何の条件もないです。あ、いえ、強いていえばその劇団存続のための条件をクリアしていただければって感じです」
「そのために頑張ってますから!何とかします!」
「ならOKです」
「ありがとうございます!本当にありがとうございます…!」
「さんは神ですか!女神ですか!」
「…立花さんも松川さんもまっすぐと言うか何と言うか。私が言うのもなんですが、おいしい話には裏があったりしますし変な人には騙されないでくださいね」
「え?だ、大丈夫ですよ」
「ハッ、それってまさか裏があるとかそういうことですか?!ひいい、女神じゃなくて悪の大魔王だった?!」
「いやいや、あったら言わないですよ。大魔王とか失礼ですね」
悪い人も世の中一定数いますから気をつけてくださいという忠告です。全く、この2人だけで運営とか心配しかない…
よくよく聞けば立花さんが主宰になったのも流れでみたいだし、彼女はお人好し感がぷんぷん漂ってくるよ…まぁ人のこと言えないか…
さて、では事務的な話をしましょうか。担当者は松川さんてことでいいんですか?え?詳しくない?…でしょうね。
だからお金のやりくりできなくて借金なんか作ってしまったんですよね察しました。
「面目ないです!」
「かるっ!ちょ、支配人自覚あったんですか?!」
「あの〜もしよければ、私暫く経理やりましょうか」
「え?!」
「あ、無論お給料はいりません。あくまで、人員確保までの間のボランティアっていうかたちで」
「い、いいんですか?!」
「はい、お金出す分ちゃんとしてほしいし…」
「ですよね〜」
たはは、と苦笑した松川さん。当たり前であります。無計画よくない。
あ、でもちゃんと簿記の資格も取ってるし、神社の管理もやったりしてますから大丈夫です!
「神社?」
「あ、家が神社なんです。私一応代表でして。出張での祈祷・お祓いなんかもしてるんで何かあれば言ってください」
「へぇ…!監督、お祓いしてもらった方がいいですかね!」
「いや、成功祈願の方がよくないですか?」
「お待ちしてます。でもそれは料金かかりますからご利用は計画的に」
「えーと、まずはみんなでお参りに行きましょうか」
「そうですね…いや〜しかし何から何までありがたいっ!経理の方もぜひお願いします!」
神様仏様女神様!って松川さんの調子良さには呆れますな…
いろいろスルーしてはいけないところスルーしてる気がします!マジで私だったからよかったものの…あ、だから借金しちゃってるのか…まだ1000万でよかったよな…
なんなら肩代わりしてあげないこともないけど、それはさすがにお人好し過ぎるってリドルあたりに止められそうだし彼らの為にもならないと思うので1年間がんばってもらってからにしましょう。
というわけでMANKAIカンパニーのパトロン兼経理担当(代理)に就任してしまいました。
自分から言い出したこととはいえ、どうしてこうなった…
早速これまでの帳簿(らしきもの)を見せてもらったけどこの5年くらいのものがめちゃくちゃだった。
松川さん…むしろよくぞここまでもったよな…意外とこういう人って運がいいんだよな。
悪運とも言えるけれども。
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