嵐の出演する舞台を清光と安定と観に行くことになった。
向かうは演劇の街“ビロードウェイ”。神社から割と近いけど行ったことなかったなぁ。
天鵞絨駅とかすごいよね。元の世界じゃありえないけど、だからこそ何か起きそうな予感がする…
「主ー、どっち?」
「右かな。あ、待って地図あるから見よ」
もらった案内にも地図はついていたけど駅前の周辺地図で改めて確認し、よしじゃあ行こうかと振り向いたら清光の姿がなかった。
どこ行っちゃったのかと思ったけどすぐ近くにいてホッとする。でも誰かと話している。誰だろう。
安定がずかずかと近寄って胡乱な目で清光を見た。
「ちょっと清光何してるの。まさかナンパ?」
「はぁ?違うし、どっちかと言うとナンパされてる側だし」
「えっ、ち、違います!あの、私MANKAIカンパニーという劇団の主宰でして…」
20代前半であろう女性はナンパという言葉にとんでもないとばかりに顔の前で手を大きく振った。
差し出されたチラシを受け取ってみると、公演情報の他に『劇団員募集』と言う文字が大きく書かれている。
「すごく素敵な方だったので、もし興味あればぜひ劇団に入ってもらえないかなと声を掛けさせていただいたんです」
「え、スカウト?」
「どういうこと?劇団に入るって、役者にならないかってこと?」
「はい。あの、よかったらあなたもどうですか?」
「え、僕も?うーん、興味ないかな」
「俺たちそういうのできないから。主がやったら?」
「いやいや、声掛けられてるの清光と安定だからね」
「あの、うちの劇団は男性のみで構成されていまして…すみません」
へえ、男性しかいない劇団か。じゃあ女性役も男性がするのかな?
清光と安定ならどっちもいけそうだし(言ったら怒られそうだけど)スカウトしたくなる気持ちもわかる。
でもなー、いろいろと問題があるからな…2人がやりたいって言うならなんとか力になりたいとは思うけど。
しかし当の2人は興味ないとばかりにひらひらと手を振った。
「もう行かないとだから、ごめんねー」
「さようなら〜」
「あ、待って…あの、公演がんばってください」
「ありがとうございます」
主宰さんに会釈して先に行ってしまった2人を追う。
興味なさそうにしてはいるけど、そもそもお芝居観に行くの付き合ってくれている時点で全く興味ないわけでもなさそうだと思うんだけど、考えすぎかな。
「本当に興味ないの?」
「んー、だって稽古とかあるんでしょ?主と一緒の時間減るし」
「だねー」
「そういう理由…」
「立派で大事な理由なんですけど」
「そうだよ。今日観に行くのだって、主と一緒にいたいからだよ」
「主が一緒ならやってもよかったけど、男しか入れないんじゃね」
そうですか。まぁやる気ないならいいんだけどね。でも、あの女の子なんか気になるな…キレイな子だったしなぁ。
無事目的地について芝居を観劇。元の世界では何度か舞台を観たことあったけど、久しぶりに観た生の演劇は熱気があって感動した。
嵐の男言葉もなんだか新鮮だし…いやしかしくそぅやっぱりかっこいいなぁ〜。もはやファンである。いや、ファンだけど。
「ちゃーん!来てくれてありがとね!」
「こちらこそ誘ってくれてありがとう!楽しかったよ」
終わった後面会に来てほしいと言っていたので楽屋前まで通してもらうと熱烈なハグでお迎えされた。
相変わらずいい匂いがするわ〜。本番を終えたばかりの嵐は少し上気した頬が色っぽくてキラキラしていた。
アイドルだな〜。今は普段の彼ではあるんだけどさっきの役の印象もあってなんだかドキドキしてしまう。
「あら、1人なの?」
「ああ、うん。一緒に来た子は外で待ってるんだ」
「そうなの。連れて来てくれればよかったのに」
「いや〜、別にいいって言うから。あ、でも面白かったって言ってたよ」
「従兄弟くんたちでしょ?会いたかったわ〜」
「見えたんだ」
「カーテンコールの時にね。また神社にも遊びに行くわね!」
さすが抜け目ないな。他にもお客さんがいるからと言ってすぐにバイバイしたけど、元気そうでよかった。
まぁ連絡は取り合ってたしSNSで姿は見ていたけど最近は嵐も忙しそうだったしなかなか会えなかったからなぁ。
後でLIMEも送っておこう。
劇場の外で待っていた清光と安定と合流して歩きながら劇の感想を言い合う。二人ともどうやら本気で楽しんでくれたようだ。テレビでもよくドラマとか見てるし、結構演劇好きなんだと思うけどなぁ。ま、見るのとやるのは別か。
「あれ」
「ん?どしたの」
「これ、さっきの」
「ああ、本当だ」
安定が何かに気づいて立ち止まった。視線の先を辿ってみると駅前でもらったチラシが貼ってある。
どうやら此処があのお姉さんの劇団が芝居をやっている劇場らしい。しかしなんともまぁ…
「すんごいボロいな」
「めちゃくちゃボロいね」
「うん、年季入ってるね…」
ぶっちゃけて言うと、かなりボロっちい建物だった。耐震なんて絶対ないだろうなって感じである。
しかしながら『MANKAI THEATER』という看板が入り口の上にあって、専用劇場のようだ。すごいじゃないか。
「そんなにボロいって連呼しないでください」
「あ、さっきの…すみません」
「いえ、まぁ本当のことなんですけど…でも芝居はすごく面白いのできてますよ」
さっきのお姉さんとまた出くわした。
そりゃあ、劇場前なのだからいてもおかしくないけど、それにしても遭遇率よ。
「できてるって、ああ、もう本番期間なんだ?」
「はい、今日も19時開演です」
「へー。主、観に行ってあげる?」
「え?」
何を言うんですか清光さん。もしやさっきの舞台見てちょっとハマりそうになってるな??
安定もなんだかそわそわしているし観に行きたいんだな?でも夜は帰るって言ってあるからなー。
と思っていたら「1回帰って、ご飯食べてくればいいじゃん」とまで言いだした。
「なんなら皆も誘ってあげれば?」
「いやいや、そもそもそんなにチケットあるかもわからんし」
「チケットなら3枚でも5枚でも10枚でもあります!」
「いやそれもどうなんですか」
鼻息荒く言われましたけどそれ大丈夫なんですか。
え?団員を一新しての劇団復活公演で?まだまだこれからなんです?だから団員も募集してるんです?
うーん、ひとまず一度帰りましょうそうしましょう。
来れたら来ます、と言い置いて後にしたけど、清光も安定も乗り気だからなぁ。
何か起きるとの予感はやはり彼女だったか…
帰宅して皆に相談すると、堀川くんと蛍ちゃんが行きたいと言ったので結局総勢5名で早めの夕飯を食べて観に行くことにした。
『5枚も10枚もある』というのは本当だったようでちゃんと全員入れてホッとした。
演目はロミジュリベースだけど男同士の友情物語。爽やかでなかなか面白かった。なるほど悲劇でないのがとても好みである。
「面白かったですね!生で見ると迫力があって…昼間の舞台も行けばよかったなぁ」
「昼のとは全然違うけど、こっちもよかったね」
「殺陣のシーンはまだまだだけどね」
「俺たちと比べたらかわいそうでしょ」
確かにガチ剣士のみんなと比べたら可哀想である。
でも若い子たちががんばってる姿はなー。いいよなー。それだけでもグッとくると言うか。嵐がいたら激しく同意してくれることだろう。
こういうのは素直に応援したくなるなと思っていると主宰のお姉さんとロビーで出くわした。
「来てくださったんですね!」
「はい」
「なかなかよかったじゃん」
「うん、楽しかったよ」
「ありがとうございます!あの、興味持ってもらえましたか?」
「入るのは無理だよ」
あ、ばっさりですね。さすが刀ですね。
まぁ、清光たちの入団は諦めてもらうしかないけど、あまりにもがっかりと肩を落とす彼女の姿を見ていると他に何かできることがある気がして思いついたままに声を掛けていた。
「あの、出資という形でよければ、お役に立てるかと思うのですが」
「え、出資?!」
声が大きいです。他のお客さんが何事かと言うように見ております。
まぁ予想外の展開ではあるだろうけどもね。私も外見は20代だし、そんなこと言われるとは思わないだろう。
「成る程…そういう手があったのか!」とお姉さんはぽん、と手を叩いたけど私が首を傾げると「いえいえ」と手を振った。
昼間も思ったけどリアクションの大きい人だよなぁ。この人も演劇経験ありそう。
「差し出がましい申し出でしたらすみません」
「滅相もないです!あの、本当に新体制になってから日が浅くてそういうの整ってないんですけど、とっても助かります。ぜひお願いしたいです」
「そうですか。なら後日いろいろご相談させてください」
「ありがとうございます!」
「ああ、投資したいって前から言ってたやつ?」
「ここにするの?」
「うん、まぁそんなとこ」
神社は政府からの助成金をもらっていて維持費かからないし、それ以外に各自の収入とか資産とかそこそこあって、使うところを前々から探していたのである。こういうがんばっている人たちの役に立てたらいいなと思っていたのでちょうどいい。
袖振り合うも、だし私の場合こういう縁は本当にただの縁では終わらないからなぁ。
今日のところは時間もないし、主宰さんと連絡先を交換して帰宅した。
ちなみに余談だけど、暫く我が家にはロミジュリブームが巻き起こった。
いや、ロミオもジュリアスもそんなオラオラな感じじゃなかったからね…
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