学校出た時にやべーかもとは思ったけどまぁ行けっかなって予想してでもそれは見事に外れた。
最寄りの駅の1コ前の駅で本降りになった雨は結構な強さで電車の窓を叩き出す。
今日雨降るなんて朝の天気予報のおねーさんは云ってなかったと思うんだけどな。
駅前にはほら、オレと同じように傘をあいにく持ち合わせていないって人が少なからずいるし、やっぱりおねーさんは嘘つきだ。
そうは云っても相手は自然で、ため息ついたところで止む訳もなくて、迎えに来てくれる人がいないオレはこのまま走って濡れて帰るか駅前のコンビニで傘を買うかどちらかしかない。
あー、こないだもそれでビニール傘買ったばっかなんだよな。ていうか4月から通算してこのパターンはもう5〜6回はやっている。秋は梅雨よりも降雨量が多いってなんかで聞いたことがあるし、今度から折り畳み傘を持ち歩こうと毎回思って毎回忘れるオレはほんと学習能力がないバカだと思う。
はぁ、仕方ない。これ以上家にビニール傘が増えても困るし、今日は走って帰ろう。と決めて、せめて頭にタオルくらいかけようとカバンに手を掛けたところで後ろから聞き慣れた声が掛かった。

「仙道くん」
ちゃん」

雨の影響で下がった気温と自分のアホさ加減に冷めていた心と体がぽわっと熱を帯びたのを感じた。
オレを形作る細胞ひとつひとつがちゃんに会えた嬉しさに震えているみたいな感覚。
今朝も一緒に駅までの道を歩いたけど、一分一秒だって長く一緒にいたいと思っちゃったりするわけで、でも帰りに一緒になることなんて今までなかったから、いつもだったら短くてもあと30分は会えない時間があるはずなのに今日はそれが一気に短縮したわけで、その思わぬ幸運に胸が高鳴った。
ちゃんは「珍しいね、帰りが一緒になるなんて」と笑い、「うん、初めてだな」ってオレが云うとそうだっけ?と首を傾げた。ええー、ちゃんにとってはそんなレベルの出来事なのか・・・と若干落ち込む。ちぇ。
ふと気づいたように「あれ、もしかして傘ないの?」と云うちゃんの右手にはしっかりと傘が握られている。これは、もしや、相合い傘ができちゃうラッキーな展開なのでは?と、落ち込んだのもつかの間でまたもや走り出す鼓動に追い打ちをかけるように、ちゃんははにかんで頬を少し赤らめながら「じゃあ、相合い傘しちゃおうか」と笑った。
ああ、もうホント今すぐ抱きしめてキスしてぇ。という心の叫びはひた隠しにして「ありがとう、助かる」と返すとまた可愛い笑顔を向けられた。ああー、以下同文。

ただでさえデカイオレの図体が女の子用の傘にそもそも収まるはずはない。ていうか普通にビニール傘でもはみ出るし。オレが濡れるのは全然かまわないからとにかくちゃんを雨から守らなければ。という使命にかこつけて体を極力近づけた。
2人並んで歩き出すといつもの帰り道が特別なものに変わった。朝も通った道だけど、また別のものに感じるから不思議だ。いつもより距離が近いからかな?
雨の独特な匂いに混じってちゃんの甘い香りが時折鼻腔をくすぐる。あー、なんて幸せな時間なんだろう。
ドキドキするけど、それ以上にふわふわと幸せな気持ちが胸に溢れる。抱きしめてキスしたいって気持ちも本当だけど、こうやって隣を歩いているだけでも嬉しいし満たされる。
オレって本当にちゃんが好きなんだなってまた再認識。会う度に思うんだけどね、うんうん。
オレがちゃんの方にめちゃくちゃ傘を傾けているのに気づいたちゃんはさらにぴったりと体を密着させてきた。おおおお、これは!ヤバイぞ!ちゃんの香りがさらに濃厚になって、オレの体を熱くさせる。嬉しいけど心臓に悪い。
甘い香りは香水か何かをつけてるのかと思って聞いたらつけてないって。シャンプーの匂いじゃない?と首を傾げた拍子に細い首筋が見えてドキッとした。
ちゃんは首筋にひとつホクロがあって、それがまたエロくていつもそこに噛みつきてぇって思うんだけどガマンしてて、いつかそのガマンが限界にくんじゃねぇかってオレは結構マジに心配してたりする。あ、やべ、ちょっと別なこと考えよう。

今日も部活はハードだったな。田岡監督は絶対ドSだ。誉めてはくれるけどシゴキが半端ない。福田は今日もすげー怒られてたな。あいつはいつかきっと爆発すんじゃねーかと密かに思ってる。ああ見えてプライド高ぇもんなあいつ。越野は相変わらずクソ真面目で、オレにやたらプンスカ怒ってくるけど疲れねぇのかなっていつも不思議だ。
おし、落ち着いてきた。

チラリとすぐ下にあるちゃんの顔を伺うと、ちゃんは黙ってまっすぐ前を見つめていた(まつ毛長ぇな)。
沈黙が続いているにもかかわらず、ちゃんは何も気にしていないようだったし、オレも気まずいとは思わなかった。これもまたちゃんのすごいとこで、一緒にいて沈黙が気まずくない相手って案外いないし、だからと云ってしゃべっていれば気まずくないってもんでもなくてオレはうるさいの苦手だからあんまりおしゃべりな相手でも息苦しくて、その点ちゃんはすごくバランスがいい。
女子なんて特におしゃべりな子が多くて、聞いてないよってことまでペラペラと話してきたり、逆にそんなこと聞くなよってことを無遠慮に聞いてきたりして不快に思うことも多いけど、ちゃんは口数が少なくて、でもそれが自然だし、変な気を使ったりしないし、黙っててもオレの気持ちを汲み取ってくれたりするし、かと云ってコミュニケーションがゼロってこともなくて他愛のない話だって聞いてくれるししてもくれるし、とにかくいい意味で一緒にいて楽だと思える。
まぁ、好きな相手だから何しても楽しいって思うのは絶対あるけど、オレがちゃんを好きだなって思う理由の一つであることに間違いはない。
いやもう本当にすごいとしか云い様がない。
そう、すごいんだよ。全部がいちいちオレの好みなんだよ。
悔しいくらいにどんぴしゃで、もう完全降参ってお手上げ状態なんだよ。

不意にちゃんが顔を上げてオレを見た。
ほっぺ柔らかそうだなぁ、触りてぇ。とまた邪な考えが浮かんだのを押し込めて、ん?と首を傾げると、「急にシュークリームが食べたくなったからコンビニ寄ってもいい?」と申し訳なさそうに眉を下げた。
却下する理由なんて全くないから「いいよ」と返すと「早く帰りたいのにゴメンね」と謝られたけど、全然早く帰りたいとか思ってないし、そんな可愛いお願いならどんな状況であれ大歓迎なんですけど。
むしろこれ断る男がいたら会ってみてぇよ。
あっという間にマンションに1番近いコンビニに着いてしまった。ここを出たらマンションはもうすぐだ。あーあ、ちゃんと2人っきりの時間もあとちょっとか、と残念な気持ちになったけどシュークリームを嬉しそうな顔で買うちゃんにすぐに癒された。
落ち着いていて大人っぽいちゃんだけど、可愛いものや甘いものが好きなところとかすごい可愛いなって思う。
いやもう何してても可愛いんだけどさらにきゅんてするっていうか。ちゃんはギャップの宝庫だなってちょっと思った。

さて、相合い傘のタイムリミットはあと約2分。
次にいつこんな機会が来るかわからないから、ちゃーんと堪能しておかないとな、うんうん。






補足 べた惚れ状態な仙道くん。ちゃんが何してても可愛くてつらいご様子です。マジで理性がぶち切れるのも時間の問題。