「あー」
「その様子だとまた夢見が悪かったのか?」
「そうなんですよ聞いてくれますかそねさん」
朝、洗面台に両手をついて項垂れているとそねさんが入ってきた。彼は私の頭を優しく撫でながら「ああ」と頷いてくれた。うん、これだけで少し気分が浮上する。そねさんの手は大きくて撫でる手が優しくてホッとする。
さて今朝の夢もなかなかに気分の悪い夢だった。
ビルの屋上、周囲は暗く、追われる男と追う男が1人ずつ。追いつめられた男性は相手が隠し持っていた拳銃を奪って自分の胸に銃口を向ける。追っていた男は彼を死なせたくはなかったのか撃つのを阻止するが、新たに第三者の足音が聞こえてきて結局追われていた男性は自分の胸を撃って死んでしまうのだ。
しかし後から現れた人物は実は追われていた男の仲間だった―――
「なんかもういろいろと報われない夢だった…」
「そうか」
「うん、聞いてくれてありがとうそねさん。リドルも」
「気づいてたんだ」
「そりゃね。ふわぁ〜あ、なんか寝た気しないなぁ」
ちょうどリドルも顔を洗いに来たのだろう。話の内容が内容なだけに入って来づらかったよね、ごめんね。さて、縁起悪い夢の話はこれで終わり、とばかりに敢えて明るい声を出して洗面所を出た。この匂いからすると今朝は和食だな。背後でリドルとそねさんが何やら話していたけど内容までは聞こえなかった。
「見えたか」
「まぁね。でも僕が来るのちゃんと待ってくれないと。話している間が一番見えやすいんだから」
「そいつは悪かったな」
ライこと赤井秀一はこの一瞬に何が起きたのか理解出来なかった。いや、状況はなんとか把握している。
携帯していた拳銃をスコッチに奪われ銃口を向けられたと思ったらその拳銃が空を舞い、スコッチが前のめりに倒れた。
彼の背後には黒い棒――いや、あれは刀だ。刀を持った袴姿のまだ幼さの残る青年が何食わぬ顔で立っている。
目を見張り、動かなくなったスコッチに駆け寄ろうとした瞬間に自分の右の首筋に感じた冷たい金属の感触。視界の端に映ったのは微かに月の光を反射する銀色の鋭い切っ先。同時に「動くな」と短く声を掛けられたが正直動ける気がしなかった。
静かだが凄まじいほどの殺気を向けられている。動こうものならおそらく次の瞬間には頭と胴体が斬り離されていることだろう。
嫌な汗がぶわりと全身から溢れる。
だが、どうして。どうやって。
この場には自分とスコッチしかいなかった。気配なんてまるでなかった。
だが今目の前には青年と、姿は見えないが自分の背後に男がいる。
いつの間に現れたんだ。思考が追いつかない。
「一つ、聞く。お前はこの男を殺す気はなかったな」
「何?」
「俺たちはこの男に死なれては困るのでな。確認だ」
「…組織の人間ではないのか?」
「組織?って何?」
袴姿の青年がきょとん、とこの場に不釣り合いなあどけない顔で赤井を見た。
心底なんのことかわかっていないようだ。
暗くてわかりづらいがグレーの袴に青っぽい着物、そして白いマフラーを巻いた彼の格好は確かに組織の人間らしくない。何より得物が日本刀というのが違和感も甚だしい。
スコッチに死なれては困る、ということは彼の仲間だろうか。だが問答無用で昏倒させたところを見るに違うような気もする。
「…では、日本の公安か」
「何それ。よくわかんないけど僕たちは主のためにこの人を死なせたくないだけ」
「主?」
「俺たちのことはいい。質問に答えろ。この男をお前は殺すか?」
「いや、ここで死ぬべき男ではない…と思っている」
組織でも公安でもなさそうだが嘘をつくべき相手ではないと本能的に悟り、赤井は素直に答えた。
その返答を聞いて背後の男ー長曽祢は刀を下ろす。やはり主の夢のとおり、この男は倒れている男を殺す気はなかったようだ。纏う気配も邪なものでもなし、ならばもう用はないと安定が昏倒させた男へと歩み寄る。
やけにあっさりと解放されたことに赤井は面喰らった。まだ気は抜けないがとにかく生き存えたようだと詰めていた息を吐く。
これまでたくさんの修羅場をくぐり抜けてきたつもりだったが、ここまで生きた心地がしなかったのは初めてかもしれない。この仕事をしている以上死は覚悟しているが、刀を当てられただけで自分の首が文字通り飛んだようなイメージが見えて肝が冷えた。それほどの威圧をかけてきた男を注意深く観察する。
歳は自分より少し上だろうか。黒い着物姿だが羽織は白で、こちらも組織の者には見えない。黒髪だが襟足は金髪でなかなかに派手な外見だ。着物の上からでもわかる鍛え抜かれた肉体は男の自分が見ても惚れ惚れするほどの長身の美丈夫。手には先程首に添えられていた、美しく恐ろしい刀が握られている。距離は開いたが、もし自分が下手な動きをしようものならすぐさま斬りつけられるだろうと感じてごくりと喉が鳴った。
彼らの言う主とは一体何者なんだ、とようやく回り出した頭で考えたところで男がスコッチを肩に担いだのでギョッとしてまた思考がストップした。
「おい、そいつをどうするつもりだ」
「よくわからんが此奴は危ない立場にいるのだろう?安全な場所に移す」
「安全な場所?それはー」
どこだ、と聞こうとした赤井の言葉は途中で途絶えた。カンカンカンとこの屋上に駆け上がってくる足音が聞こえたのだ。
「…まずい、組織の者かもしれん」
「いや、おそらく大丈夫だ」
「何?お前は一体何を知って」
「ッ、スコッチ?!」
赤井の言葉はまたしても最後まで紡がれることはなかった。足音を響かせてやってきたのはバーボンこと安室透。いや、スコッチと同じく公安警察として組織に潜入している降谷零だった。降谷は見知らぬ男に担がれている男がスコッチだとわかると懐から拳銃を取り出して長曽祢へと銃口を向ける。
「どういうことだライ!こいつらは誰だ?!」
「落ち着けバーボン…っ、左だ!」
「なっ、うッ?!」
「はいはーい、物騒なものは没収ってね」
他にも仲間がいたのか、と赤井は小さく舌打ちをした。新たに現れた青年は先の二人とは違いジャケットにスラックスという服装だったがやはり日本刀を携えている。どうやら柄で降谷の拳銃を弾いたらしい。衝撃で痛めた手を摩りながら降谷は青年ー清光を厳しい目で見据えた。
そんな鋭い視線も意に介さず清光は悠々とした態度で転がった銃を拾い上げ、「そねさん、そいつちゃんと生きてるよね?」と呆れたような声でスコッチの安否を確認した。「もちろんだ」と頷いた長曽祢に一番反応したのは降谷だ。
スコッチは生きている?気を失っているだけか?まだ制裁はされていない?こいつらは組織の人間ではないのか。ならばこいつらはライの本来の仲間か?いや、あの様子では違うようだ。だがスコッチは死んでいない。何がどうなっている。
「なーんかよくわかんないけどさ、あんたあの男の仲間なんでしょ」
「?!あ、ああ」
「あの人自殺しようとしてたから俺たちが止めたんだよ」
「何?!」
くるくると拳銃を回しながらなんてことないように話す清光の言葉に降谷は混乱した。
スコッチが自決するつもりだったのはわかっていた。だから止めようと思って彼がいそうな場所を探してやってきた。こいつらもそうだって言うのか?ならば警察側の人間か?スコッチの協力者だろうか。だがそんな奴がいるなんて聞いたことがない。無論、お互いに秘密が多い立場だが、それにしたってこんな、まだ子どもと言ってもいいような青年を巻き込むだろうか。いや、年若く見えるが腕は相当のものだというのはわかる。だがしかし。
ぐるぐると思考の海に入り込みそうになったところでライの存在を思い出してハッと赤井を見る。赤井は降谷ではなく3人組を警戒しているようだった。
「話を戻そう。そいつを安全な場所に移すと言ったが、どこに運ぶつもりだ」
「安全な場所だと?!」
「んー、詳しくは言えないけど、神社だよ」
「神社?」
「そう。多分、ある意味世界で一番安全な場所」
「悪い奴らは入ってこれないからね」
安定と清光の言葉に赤井も降谷も困惑した。神社が安全な場所とはどういうことだ。世界一安全な場所だと言い切れる自信はなんだ。
わからないことだらけで怪しい3人組に、だがしかしどう手を打てばいいのかもわからず2人は固まる。特に降谷はなんとかスコッチを取り戻したいという焦りが募るばかりでそんな場合ではないのに泣きそうな気持ちになった。
それに感づいた長曽祢はふっと小さく笑って降谷に声を掛ける。
「少し預かるだけだ。本人が目を覚ましたら、どう身を振りたいか確認する。まぁ、死ぬという選択肢は与えないから安心しろ」
「な、に…?」
「こいつを死なせたくないというのはここにいる全員の総意だ。それだけは信じてほしい」
「あ、おいっ?!」
言うなり「じゃあな」と長曽祢は大柄なスコッチを肩に担いだまま屋上から飛び降りた。驚きに目を見開く赤井・降谷。慌てて駆け寄ろうとするが「あ、これ返すね〜」と投げられた拳銃に気を取られた間に清光も安定も屋上から飛び去っていた。数秒遅れて屋上の端へ到達した2人の視界には、もう彼らの姿はなかった。
「な…なんなんだあいつらは?!」
「わからん…まるで幽霊を見たような気分だ」
公安警察とFBI、2つの組織が誇る優秀なエージェントは人生で最も理解不能な状況にただただ茫然とするしかなかった。
朝起きたら家族が増えていた。
は?
「は?お兄ちゃん?マジで?」
「大マジだよ。は小さかったから覚えてないかもしれないけど、孤児院で先にもらわれてっちゃってそれっきりだったんだよ。ね、結緯」
「あ、ああ」
マジでか。トンデモ展開には慣れてきたと思ってたけどまさかここで新たにお兄ちゃん出てくるとか驚きだぜ!
いや確かにこの世界に来た時にもらった記憶ではリドルと同じ孤児院出身っていうのあったけどさ。まさか生き別れの兄ちゃんまでいたとは。
リドルの隣で困ったように笑うお兄ちゃん(仮)はなかなかのイケメンさんだった。
見たことのない顔だけど声は完全に知っている。一体どこのどちら様で。あ、原作的な意味で。孤児院出身てことはハリポタ?いやいや、先にもらわれてったということは魔法使いではない?
まじまじ見つめてしまったがハッとする。この困り顔はもしかして私が覚えてないことへの苦笑いなのでは。すすすすすみません!!!!そうだよね相手からすればめっちゃ寂しいよねそれ!!!!
「えっと覚えてなくてごめんなさい!」
「いや、突然で驚いたよな。すまない。改めて、翠川結緯だ。よろしく」
「あ、えと、です…よろしくお願いします」
ぎこちない挨拶になってしまったのは仕方ないだろう。ううむ、しかしこんなカッコイイお兄ちゃん(仮)ならウェルカムである。なんか知らんけどリドルが仕事のパートナーを探している時に彼を発見して「久しぶりだな〜今んち居候してるしお前も来ちゃいなよ」って呼んだらしい。つまりは住み込みのお仕事的なやつらしいです。リドルがなんの仕事してるのか未だによくわかってないけどあんまりわからない方がよさそうなので深く突っ込まないでおきます。リドルが決めたことに否を言えるわけもないしノープロブレムです。
は かっこいい お兄ちゃん をゲットした!▼
スコッチこと翠川結緯(仮)▼
目が覚めたら美形の男たちに囲まれてて困惑。神さまとか言うしやっぱ俺死んだのかな?と思ったけどまだ現世だと知って混乱した。大魔王リドルに強制的に情報を植え付けられ魔法の世界にこんにちは。え、何それどんなファンタジー。どうやら死んだら美形の神さまたちに殺されるらしいので自決は諦めた。公安に戻ろうかとも思ったが公安内部裏切り疑惑が晴れないうちは身を潜めることにした。悪いゼロ、ひとまず無事だから安心しろ。兄とあっさり懐いてくれるが心配だけど可愛い。お兄ちゃん呼び尊い。髭剃って髪染めてパーマかけて目の色魔法で変えてもらってる。数日後松田・萩原と遭遇しそうになったがなんとか回避した。おい、相手は未成年だぞ自重しろ。てゆーか俺の妹を邪な目で見るんじゃねぇ。すっかりシスコンな25歳
美形な神さまたちと魔王さま▼
死なれちゃ困るから一応は保護するけど早めに出て行ってもいいんだからね。ただし死んだら殺す。公安内の裏切り者?そこまで面倒見ないよ!と放置。こっちの情報は必要とあらば【忘却呪文(オブリビエイト)】するつもり。が思った以上に懐いていてちょっと気に入らない。
トリプルフェイスこと降谷零▼
黒の組織に潜入中の警察庁警備局警備企画課所属の警官。一体何があったんだ、あいつらは何者なんだ、神社ってどこだ!とめちゃくちゃライに詰め寄った。絶対探し出してスコッチを取り戻してやる!え?偽装協力?こいつ俺のこと感づいてたのかムカつく!俺だってわかってるんだからなァ!ぎりぃ!まだまだ青い25歳
情報漏洩の元と神社を必死に探してるけどどっちの進捗も芳しくなくてぐぬぬしている。1週間後くらいに匿名で連絡が入って翠川だと確信。てめぇどこにいるとか肝心なこと残しやがれ!3徹×2中
ライこと諸星大こと赤井秀一▼
黒の組織に潜入中のFBI捜査官。この後めっちゃバーボンに詰め寄られる。聞かれたって俺も全くよくわからん。気になることだらけだが中でもそねさんと呼ばれた男がめちゃくちゃ気になる。強そうな相手を見るとうずうずしちゃう27歳。とにかくまずはスコッチを始末したと偽装しなくては。協力してくれるだろう?バーボン
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