「大将、どうした?具合悪いのか?」
「え?」
もそもそと朝食を食べていたら正面に座っていた薬研に心配された。
どうやら顔色が悪かったらしい。あー、具合が悪いっていうか、夢見が悪かったんだよね。
と言うと、リドルが片眉を上げて「どんな夢だったの?」と聞いてきた。
「えー、悪い夢だよ?聞いても面白くないよ?」
「悪い夢は人に話した方がいいんだよ。だから聞かせて?」
「う、うん…あのね、二つのマンションに時限爆弾が仕掛けられてて、一つは解除できたんだけど一つは爆発しちゃって人が死んじゃう夢…」
他の皆も教えてほしいって目線を送ってくるから促されるまま夢の内容を話した。
結構リアルで怖い夢だった。死んじゃったのは男の人で自分じゃないんだけど…多分爆弾処理の警察の人。一回はタイマーを止められたのに遠隔操作かなんかで爆発しちゃって…
ううう、なんか本当にありそうで怖い。この世界、元いた世界より大きな事件が頻発するしなかなか物騒なんだよなぁ。先月も連続殺人だかなんだか起こったし、通り魔事件とか強盗事件とか多発するし、そういやビル爆破事件て数か月前にもあったよなぁ。
「いやでも夢だよね。夢、ゆめ。うん」
「そーだよ。俺たちに話したからもう大丈夫」
蛍丸が二ッと可愛い笑顔を浮かべるもんだから少し気分が浮上した。
はー、今日もうちの子が可愛いです。
「ねぇ主ー、気分転換に映画観に行かない?ほら、『闇の男爵』公開してるじゃん」
「お、いいね〜。行こっか。みんなも行く?」
「僕行く」
清光の案に頷いてみんなもどう?と聞いたけど一緒に行くと言ったのは安定だけだった。あれ、堀川くんも『闇の男爵』シリーズ好きだし絶対食いつくと思ったんだけどなぁ。
「ちょっと用事があるので」と言った彼は意外にもいい笑顔をしていた。映画より楽しみな用事なのかな?
はい、劇場版『闇の男爵』大変面白かったです。脚本も全て原作の工藤優作氏が書いたらしいけど彼は天才だな。なんかどっかで聞いたことあるような名前だなって思うんだけど人気作家だから当たり前か。
いい時間を過ごせたなぁとほくほくしながら帰ったのですが夕飯前に何気なくつけたテレビで『都内高級マンション爆破脅迫事件が発生したが早期に犯人が捕まり事なきを得た』というニュースを見てガクブルした。私が映画館でドキドキハラハラしている間にガチドキハラ事件があったとは!おそろしや!
「え、うそ、もしかしてあの夢、正夢!?」
「いや、爆発してないんだ。正夢じゃないだろ」
「そうですよ主さん、爆破される前に犯人捕まえてますから」
「死人は出てないってさー、よかったな」
「うん、それはよかったけど」
まぁ、確かにそねさんと堀川くんが言うように爆発はしなかったらしいし正夢ではない、かな??ぎねの言葉にホントにな、と深く頷く。このマンション割と近いし、何事もなくて本当によかったよ…そうだよね、たまたまだよね。
ハッ、それか私ってばもしかして予言の才能が?!占い学、ちゃんと勉強してみようかな。なんてな。
「あ、あのう〜すみません、境内は禁煙でして」
「あ?」
ひぃっ、すみませんすみません!真っ黒なサングラスに胸元が大きく開いたシャツにジャケットとかいかにも堅気っぽくない風体だけど神社内に入って来れるってことはそんな悪い人じゃないだろうと思って勇気出して声を掛けてみたものの返ってきた反応はやっぱりどう考えても堅気っぽくなさそうなお兄さんだったよ怖いよ〜!
なんでこういう時に限って誰も近くにおらんのじゃ。私だってできればこういった人に声を掛けたくなかったけど此処はれっきとした神域であり、さらに現実的に言えばお社は木造建築なのである。
たばこ、ダメ、絶対。火気、厳禁!一応此処の主という立場である以上やはり注意をしなくてはならないのだ私は!がんばれ私!大丈夫だ、もっと怖い相手と戦ったりなんだりしてきたんだいくら目の前のお兄さんが堅気っぽくなくてもきっと大丈夫なんとかなる。
と自分を激励しつつお兄さんを見上げると彼は「あー」と言いながら懐に手を突っ込んだ。その仕草にまたびくっとしてしまったのはしょうがない。もももももしや、ちゃちゃちゃちゃちゃか?!という私の予想は外れ、彼は携帯灰皿を取り出して口に咥えていたまだ長かったたばこをためらいなく捨てた。
「わりぃな」
「あ、いえ…」
あっさりとした態度に面食らう。なんだ、やっぱり悪い人じゃないんだ。ていうかこの声どっかで聞いたことあるぞぅ。
目をぱちくりしながら背の高いお兄さんの顔を見上げる。サングラスに阻まれて目は見えないけれど、わりと整った顔立ちなんじゃなかろうか。見覚えはないけど声から察するにどこかの誰かさんじゃないだろうか。原作的な意味で。
いやいや、あんまりじろじろ見るのもよろしくないな。悪い人じゃないかもしれないけど堅気じゃない人ではないとは言い切れない。よし、任務は完了した速やかに撤退だ。「失礼します」と踵を返したところで「おい」と呼び止められた。……すみません、やっぱりじろじろ見つめすぎましたか!すみませんすみません!何卒ごかんべんをー!
「あんた見かけない顔だな」
「へ?」
「いや、俺もこの神社に来るのはガキの頃以来なんだが」
「は、はぁ」
「いつからここで働いてる」
「えと、1年ちょっとですが」
ななななんなんだろう。ガキの頃以来てことはご出身がお近くなんでしょうか。久々に帰省されたとかそういう感じなんでしょうか。私の返答に「ふぅん」と言ってサングラスを下にずらしてまじまじと見られてしまっています。じろじろ見てしまった仕返しですか。ジッと見下ろしてくる視線が中々に居たたまれないです。眼光鋭いですねお兄さん!でもやっぱりイケメンだったよ!
「おーい、何巫女さんナンパしてんだよ」
「はぁ?アホか、お前じゃあるまいし」
「大丈夫?見下ろされて怖かったでしょ、こいつ目つき悪いしぶっきらぼうだし」
「え、あ、いえ」
お兄さんの背後からこれまたお兄さんがにょきっと顔を出した。少し髪の長い、たれ目のイケメンさんである。ニコニコと人好きのする笑顔を振りまくお兄さんはサングラスのお兄さんとは対照的な印象だがやはり類は友を呼ぶのか。もしくはこの神社はやっぱりイケメンホイホイなのか。だがしかしこの人の声も完全に聞き覚えがあるのでこのお2人はきっとどこかの誰かさんなのだ!原作的な意味で!全くどこのどなたか見当ついてないけど!
「あれ?警察の方ですか?」
「そうそう。ちなみにコイツもだけど」
「え…えっ?!」
目の前のサングラスのお兄さんがガタイよくて視界に入らなかったけど、たれ目のお兄さんが着ているのは警察の制服だった。お巡りさんがなんの用かしらんと一瞬思ったけどサングラスお兄さんも警察官だと聞いて驚きに思考が止まった。え、いや、だってむしろ警察に御厄介になる側の人にしか…だなんて口が裂けても言えない。私の驚きようにグラサン兄さんは気分を害したようでムッと顔を顰めた。すすすすすみません現行犯逮捕すか!!!!??
「あっはは、いい反応」
「オイ萩原」
「しょうがないだろ、顔が悪い松田が悪い」
「あァ?」
「い、いえ!お兄さんの顔は断じて悪くありません!むしろとっても男前でかっこいいですからご安心ください!悪いのは見た目で判断してしまった私なのです本当にすみません!」
「え」
わぁわぁと捲し立てる私に2人のお兄さんの視線が降り注ぐ。うわ、やっちまった。思わずいらないことまで言ってしまった。まぁ、お兄さんがかっこいいのは本当のことなんですが。
「よかったな、松田。かっこいいってよ」
「うるせぇ」
松田と呼ばれたグラさんの頬は少し赤くなっていた。あれれ、あんまり褒められたことないのかしら。こんなにイケメンさんなのに。警官でイケメンとかモテそうなのに。萩原と呼ばれたたれ目お兄さんも勿論モテメンであろうけども。
話を戻そう。警察の方が何か御用でしょうか。それともただの参拝でしょうか。
「あ、ごめんね。ただの参拝だから気にしないで」
「そうでしたか。ごゆっくりどうぞ。あ、でもお巡りさんならなおのこと禁煙区域での喫煙はやめてくださいね」
もう!けしからんぞぅ!お巡りさんはみんなの見本になってくれないと!参拝者他に誰もいないけどさ!神社の境内がたばこくさいとか格好つかないんだからね!ぷんすかすると何故かフッと笑われた。こらー、笑いごとじゃないぞぅ!
「ああ、すまなかった」
「え、何お前神社内で喫煙とかやめろよバチ当たるぞ」
「昔は誰もいない神社だったから気が緩んだんだよ。本殿は離れてるし大丈夫だろって」
「お前なー、そういう問題じゃねぇだろ」
「ていうかお前バチとかそんなの気にしない方だったろうが」
「改めたんだよ。この間のことがあってからな。だからこうしてお参りにも来たんだろ」
「…そうか」
なんだろう、なんだか深い話になってる?邪魔しちゃ悪いしそろそろ私は掃除に戻ろうかな。2度目の「失礼します」を言って頭を下げると今度は萩原さんに「君、名前は?」と呼び止められたので答える。お2人も名乗ってくれて、また来ると笑って別れた。
その後、「また来る」という言葉通り2人は月に一度はお参りに来るようになった。
セットで来ることはあんまりないけどね。
萩原研二▼
警視庁警備部機動隊爆発物処理班所属。マンション爆破脅迫事件にて、後からあの爆弾が遠隔操作可能だったと知り、更に犯人逮捕が少しでも遅れたら爆破されていたと聞いて血の気が引いた人。いろいろ調べた結果、犯人特定にこの神社が何か関係していると突き止め、よくわからなかったもののとにかくお参りしようと松田を引きつれてやってきた。巫女さんが大変可愛かったのもあり、常連になる。え、中3ってマジ?犯罪じゃん
松田陣平▼
警視庁警備部機動隊爆発物処理班所属。実家が神社のご近所さん。小さい頃に境内で遊んだ記憶はあるが、萩原から話を聞くまですっかり記憶の彼方になっていた。かっこいいと言われてガチで照れるハードボイルド系男子22歳。密かに可愛い巫女さんに癒されている。中3、だと…?俺は決してロリコンではない。ていうか今時の中3大人っぽすぎね?
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