泣いたせいでまだ少しだけ目が赤かったけど、一応化粧は整えたのでお次の方を呼びました。きっと、彼は細かいことは気にしないでいてくれるだろう。うん。
そうして現れた彼は、手に切り分けたカステラを持っていた。…ある意味、しっくりくる組み合わせだと思ってしまうのは何故だろう。
「やぁ主。さっそくだが食後のでざあとを持ってきたんだ。茶でも飲みながら一緒に食べよう」
「あ、はい、お茶ですね。今用意します」
「うん。ああ、道具だけ出してくれれば、後は俺がやろう」
「え?でも」
「茶くらい、俺でも淹れられるさ。まあ、主はゆっくりしていてくれ」
鶯丸さんが優しいです。ていうか、自分から仕事(て言ってもお茶淹れるだけだけど)しようだなんて、そういうイメージなかったんだけどな。やらないことはないけど、やってくれるならお願いしようみたいなスタンスだとばかり…はっ、もしかして、これテンション高まってるのか。大包平さんお迎えできる喜びが、こういう普段しない行動を引き起こしているのか。ありえる。お茶っ葉(昨日買ってきておいたのだ)など用意しながら隣に立つ鶯丸さんを見上げると(近いな)にこやかな顔で並べられる道具を見ている。んー、鶯丸さんはいつも笑顔な感じだからな。顔色だけではよくわからないですね。…ところでひとつだけ言ってもいいですか。その胸筋の厚みが大変眼福ですありがとうございます。
「これがお茶っ葉で、これティーポットですけど急須として使ってください。あと、お湯は今スイッチ入れたので、すぐ沸くと思います」
「へえ、たったそれだけで湯が沸くのか。わかった。ほら、主は座っていてくれ」
「は、はい」
ぽん、て頭に手が置かれて、きゅんとしてしまいました。なんか、お兄ちゃんて感じ。こんなかっこいいお兄ちゃんいたら完全にブラコンになるけどな!石切パパにうぐお兄ちゃんか…なんて素敵家族。
「光忠がな」
「えっ、はい」
「とっておきの加須底羅を出してくれたんだ。主のためだと言っていた」
光忠さんが。そういえばなんだか慌ただしく行ってしまったけど大丈夫だったかな。
「そうなんですか。私カステラ大好きなんです。嬉しい」
「そうか!それはよかった。俺も好きだ」
「えっ、あ、はい、カステラ美味しいですよね…」
びっ、くりしたぁ。私のこと見つめながら「好きだ」ってそんないい笑顔で…はぁ、ドキッとしちゃった。青江くん、どうぞ思い切り突っ込んでください。……『カステラのことだよ?』まだ見ぬ青江くんの声とハモった気がした。
「あー、あの、光忠さんなんだか様子おかしくなかったですか?」
「光忠が?いや、どうだろう。今日は皆浮足立っているからな。そういう意味では、光忠もいつもと違っていた。勿論俺も、いつもとは違う心持ちだ」
え、そうなんだ。それって、あれだよね?歌仙が言ってたけど、私に会えるからってことなんだよね?鶯丸さんもなんだ。全然そんな風に見えないけど。ふつふつと音を上げていたお湯が静かになったところで鶯丸さんが慣れた手つきでお茶を淹れてくれた。
「いつも自分でお茶淹れたりするんですか?」
「まあ自分ですることもあるが、大抵は前田や平野が淹れてくれるな。あの2人は何かと俺の世話を焼いてくれてありがたいことだ」
「へえ~いいなぁ。私も前田くんと平野くんにお世話されたいです」
「あの2人なら喜んでやってくれるだろう。…なんなら、俺が主の世話をしてやってもいいが」
「………え?」
「さあ、いただこうか」
なんだかすごいことをサラッと言われた気がするけど、鶯丸さんは何事もなかったかのようにカステラに手を伸ばして大きくぱくっと食いついた。世話をする?鶯丸さんが?私の?
「うん、うまい。主も食べるといい」
「は、はい…ん、おいしい!」
「そうだろう。なんと言っても、とっておきの一品だからな」
結局流れてしまったけど、さっきのは本気だろうか。………たぶん、私が結局お世話してるような気もする。
「主」
「は、はいっ」
「大包平はいつ来るだろうか」
「あ、えと、計算ではイベント…連隊戦演習期間終了間際になるかと」
「そうか。楽しみだな」
言葉は少なかったけれど、本当に楽しみにしているようだった。そうだよね、何かにつけ大包平だったもんね。堀川くんの兼さんよりはまぁ、マシだとは思ってたけど。やっぱりすごく喜んでるんだ。きっと静かに桜舞ってるんだろうなぁ。その様を思い浮かべたらなんだか微笑ましくなった。よし、連隊戦、引き続き気合い入れていきましょう。
「はい。連隊戦、がんばりましょうねっ」
「ああ。……元気そうで安心した」
「え?」
「いや、がんばるのもいいが、程々にな」
またもやぽんと頭に手を置かれて、机挟んでるのに腕長いなぁ~とか変な感想を抱いた。やっぱりお兄ちゃんになってください。
「そういえば」
「はい?」
「光忠はこちらから戻った際、顔を真っ赤にしていたな。言われてみれば、少しおかしかったかもしれない」
「そうなんですか?え、大丈夫かな。もし不調なら、今日は出陣なしにしましょうかって伝えておいてもらってもいいですか?」
「拝命した。まあ、元気そうではあったがな。むしろ何やら高揚していたような。ああ、返事は誰かに託そう」
元気?高揚?うーん、カステラ用意してくれてるくらいだから具合悪いとかそういうんじゃないとは思うけど。よくわからないけど、よろしくお願いします。
「いやあ、主のおかげで美味いものにありつけた。感謝する」
「こちらこそ。お茶も美味しかったです。なんでもそうですけど、誰かにやってもらうのって嬉しいですよね」
「ああ、その気持ちよくわかる。よし、今度俺が主のために握り飯を作ってこよう。握り飯は好きか?」
「はい、好きです」
そうか、楽しみにしていてくれと微笑まれて、なんか幸せだな~と感じた。私も鶯丸さんに何かつくってあげよう。しかし、意外と世話焼きなんだな、鶯丸さんて。ちょっと驚きだけど、こういう驚きはいいもんです。


泣いていたの、気づいてるんだよ。