「三日月宗近だ。ようやく会えたな、主」
「よ、ようこそお越しくださいました…お、お目にかかれて大変光栄です」
眩しい。だめだ。目が潰れる。薄目にしてぼんやり見ないと失明する。恐るべし天下五剣!恐るべし三日月宗近!!ただ目の前に立っているだけで動悸息切れが!せっかく短刀ちゃんたちに癒された傷が…!
「全くじじいを待たせるとは、主は悪い女子だなぁ…む、どうした?面妖な顔をして」
「す、すみません、三日月さんがあまりにも美しくてめまいが」
「なんと、それはいかん。さぁこちらに座るがよい。そうだ、ほら、ここだ。このまま座れ」
「え、あ、何?!」
おかしい!いつの間にか私は三日月さんの膝の上に横座りしております!あなや!
「ななななんですかこれは!」
「ん?加減がよくないようなので休ませようと思ったのだが」
「いやいや普通に座ればよくないですか?なんで三日月さんの膝の上に…?!」
「はっはっは、スキンシップというやつだ」
ほがらかに笑っていますが、美しすぎますが、言ってることおかしい!わーん、顔が近い!よりひどい!瞳の中のお月様までばっちり見れちゃうこの距離!めまいの原因が一層近づいているのですぞ!本気で気を失いそうですぞ!
「主よ、顔が真っ赤だぞ。熱でもあるのか」
「ない!いや、ある!今出た!わーん、待って待って近い!」
ずいと美しいご尊顔が目の前に迫り、もはやテンパっている私を誰が責めようか。いや、責められまい。(誤用)
ぐいっと力いっぱい肩を押し返しますが、これまた素晴らしい筋肉によりびくともしません。けしからんー!なんだこの素敵な筋肉!戦装束ひらひらしてるからあんまり見た感じわからないけど、素晴らしい筋肉ですよ!知ってたけど!ひーん!こうかはばつぐんだ!審神者はちょっとピンチで泣きそう!と割とガチで抵抗していたら三日月さんはその麗しのお顔をむっとしかめた。やだぁ、その顔もかっこいい。すみません。私のようなものが顔面さらしてすみません。ていう気になってきて両手で顔を覆った。すかさず三日月さんがその手をはがしにかかってくる。もうやめて審神者のライフはゼロよ。
「む、なんだ。そんなに嫌なのか?」
「嫌って言うか恥ずかしいから勘弁してください」
「ふむ、嫌ではないのか。なら少しの間このままでいさせてくれ」
「え、ええええ?!」
「ははは、俺を待たせた罰だ。何、ほんの少しだ」
な、と邪気のない笑顔で言われて断れる人がいたら連れて来てほしい。確かに待たせたのは事実だし、少しだけお好きにさせてあげよう。相手はおじいちゃんよ。孫を可愛がりたいおじいちゃんのようなものなのよ。鎮まれ心臓よ。がまん、がまん…が、まん……
「…三日月さん」
「なんだ主」
「あの、この手は」
「おお、主はどこもかしこも柔らかいと思ってな」
待てまてーい!堂々とセクハラかい!悪びれなしかい!いや、うん、悪いと思ってないもんね!ちょちょ、おしりはやめよう?!撫でまわすのやめよう?!触り方がやらしいよ!
「み、三日月さん、そういうとこ触らないでもらえますか」
「ふむ、こんなに細くてちゃんと赤子を産めるのか?」
「聞いてます?!産めますよ!産んだことないけど!」
「そうか。契りを交わした相手はおらんのか」
「結婚てことですか。そのようなお相手はおりません。なんなんですか突然」
「いや何。包丁藤四郎がな、主は人妻かどうかと気にしておったのを思い出した」
包丁くーん!ぶれないね!ごめんね人妻じゃなくて!三日月さんもこのタイミングで思い出さなくてもいいよ?!やだやだちょっとそれ以上は変な声出ちゃうよ?!
「みっ、三日月さん、もう降りてもいいですか」
「うむ…名残惜しいが、小夜に主をいじめるなと言われておるしな」
小夜くん…!助かったありがとう!!と感動しながら三日月さんの膝から降りる。はぁー、どっと疲れた…。しかし降りたら降りたでもう少しあのままでもよかったかなとか思い始める私どうなの。だって役得は役得だよね!
「めまいは治まったか?」
「え?あ、はい。大丈夫です」
そうか、それはよかったと微笑む三日月さんを見て、そういえば普通に顔を見られるようになったなぁと思う。いやもう美しすぎだけど。美形すぎて驚きだけど。このくらい離れていれば大丈夫になった。人間て慣れる生き物ですよね。だいぶ荒療治だったけど、結果オーライですかね。一応お礼言っておくか。
「三日月さん、ありがとうございます」
「ん?…ふ、よいよい。主は素直で可愛いな」
「えっ」
ふっと微笑みながらぽむぽむと頭を撫でられるんですが何これプライスレス。お金発生しないの申し訳ないレベルなんですけど大丈夫ですか運営さん。
「ところで主よ、今剣が美味い菓子をもらったと言っておったのだが俺にもくれるか」
「あ、は、はい。どうぞ」
「うむ、よきかなよきかな」
ニコニコと上機嫌ぽい三日月さんに、最初に抱いていた緊張感は霧散した。ひとまず、がっかりはされなかったようなのでよきかな。私もお菓子食べよう。甘いもので癒されよう。ついでに紅茶淹れてあげよう。そういえば今剣ちゃんが縁側でお茶を飲みながら待っていたとか言っていたけど、お腹たぷたぷになっちゃうかな?まぁいいか。飲みたいのは私だ。
「三日月さん、本丸での生活はどうですか?私そっちの暮らしがどんななのかわからないんですけど、何か物申したいこととかあればどうぞ。と言っても聞いたところで改善できるかどうかは謎ですが…」
「ふむ、特に不便は感じておらんぞ。以前は人の身自体が多少不便だと感じることもあったが、近頃は慣れたものだ」
「そうですか」
「強いて言えば、男所帯でなぁ。華がないのが不満といえば不満だ。だがこうして主に会えたのだからそれも解消するな。うむ、つまり俺はなんの文句もないぞ、はっはっは」
「そ、そうですか。ならよかった」
もはや女好きな印象になりつつありますけど大丈夫ですか。え?おなごは好きだから間違ってない?そうですか、それはまあ正直でよいですね。紅茶とお菓子(とご本人曰く私)が大層気に入ったようで、三日月さんは終始ニコニコしていた。あ、なんかこういう雰囲気はいいかも。三日月さんは本当に稀に見る美形だし、見惚れちゃうし、どアップは遠慮願いたいけど、雰囲気がのほほんとしているし、おおらかさが滲み出ていて安心感はある。さすが天下五剣という貫禄なんだろうか。時間がゆったり流れているかのようで、私は完全に気を抜いていた。そして三日月さんが本丸に戻る去り際。
「私、三日月さんに会えて本当に嬉しいです」
「そうか。俺も主の愛らしい笑顔が見れて嬉しいぞ。また呼んでくれ」
「は、はい」
「…約束だぞ、主」
「?!」
くいと顎を掬われて親指で唇をなぞられました。あかん。これ、のほほんとしてるとか思って油断してたら食われるぱてぃーんだわ。歌仙も今剣も言うくらいだもん。ただのぽやぽやおじいちゃんであるはずはなかった。カッと顔に熱が上って、それが外にもわかるほどだったのだろう。三日月さんはそれはもう艶のある微笑を浮かべて去っていった。お、おそるべし天下五剣。なんだか腰が抜けて、残された私はその場にぺたりと座り込んだ。
油断大敵えろちかさん。