「ぬしさま、お会いしとうございました」
「私もです。小狐丸さん」
「そうですか。同じ気持ちでいたとは嬉しい限りです」
小狐丸さんは、ふわっさーとしていました。いや見事な毛並みだという話です。実は小狐丸って、よくわからない男士だなぁと思っています。口調は優しいし、丁寧だし、物腰柔らかいんだけど、常に微笑を湛えている感じだし、物事に頓着なさそうだし、腹の底では別のこと考えてそうだなぁ~とかいう印象があります。勝手なイメージですけども。
「ぬしさま?」
「あっ、ごめんなさい。えと、好きに座ってくださいね」
「わかりました。では、ぬしさまもこちらへ」
「えっ、まっ、ちょいちょい」
どうしてこうなる?三日月さんに引き続き!膝の上です!まて、三条はこうなのか!よくよく考えてみたら岩融も膝抱っこだった!え?まって私の中のイメージが音を立てて崩れていきますよ。
「いかがいたしましたか、ぬしさま」
「いかがいたしましたか、ではなく、あの、何故私は小狐丸さんの上に座らなくてはならないのでしょうか」
「ぬしさまが好きに座ってよいと仰るので、好きに座らせていただいただけですが」
そうです、好きに座ってくださいって言ったんですよ。好きに座らせてくださいとは言っていないんですよ。私は座らなくてもいいし、座るとしても別の場所に座りたいです!とテンパってる私をよそに小狐丸さんは首筋に顔を寄せる。ああああ、ちょ、くすぐったい!
「ああ、ぬしさまはよい香りがしますね」
「あのね、小狐丸さんっ」
「小狐丸、とお呼び下さいぬしさま。はあ、なんと柔らかくて愛らしいのでしょう」
「あ~、もうくんくんしないで~」
「何故です」
「くすぐったいから!っ、ちょっと、首だめだって!」
「甘い香りがしてたまりません…食べてしまいたくなる」
ひょえええええ、舐められた!首筋舐められた!ぞわっと背筋に悪寒が走る。喰われる。やばい。かぷりと軽く歯まで立てられて、叫んだ。
「小狐丸っ!待て!」

【しばらくお待ちください。】

結論、小狐丸は単なる野生の犬…科でした。しゅんと項垂れている姿は同情を誘いますが、ここで甘やかしては後々のためになりません。躾は大事です。
「いいですか。みだりにくんくんしないこと。わかりましたね」
「はい」
「だっこもですよ」
「お姫様だっこもですか」
「お姫様だっこもです」
だいたいなんでお姫様抱っこなんですか。よくわかりません。
「折角ぬしさまに触れられる機会ができたというのに…ぬしさまは小狐がお嫌いなのですか」
「うっ、そんなこと、ないけど」
「では少しでよいです。情けをかけてくだされ」
「ううっ」
正座させているので必然的に上目づかいになっているのですが、身長推定185cmオーバーの大男にしてはそれがまた破壊力ばつぐんでして。せっかく会えたのにとか言われると弱い。まぁ、つまり、なんというか…折れた。
「わ、わかった。ちょっとだけならね?」
「ぬしさま…!」
「あ!でも、待てって言ったらちゃんと待ってね!わかった?」
「はい、ぬしさま。小狐はきちんと待てができるよい刀ですよ。ええ、時折、忘れてしまうこともありますがね…野生ゆえ」
…………………だめじゃん。呆れてぽかんとしていると、さっきまでのしゅんとした小狐丸はどこへ行ったのか(演技だったのか…?)、にっこりと余裕の微笑みを浮かべた彼は懐から櫛を取り出した。
「ぬしさま、毛並みを整えていただけませんか」
「え?ああ、うん…」
まさに狐につままれたような気分だが、確かに私がいろいろ暴れたからか、小狐丸の自慢の銀髪は乱れていた。まあ、それくらいはいつでもやってあげるけど…ていうかやっぱり気になってたし、やりたかったよ実は。わあ…ふわふわ…さすが毛艶がいいです。
「いかがですかぬしさま。丹念に手入れをしている甲斐はあるでしょう」
「あるある…綺麗な髪だねえ」
「ぬしさまの御髪もとてもお綺麗ですよ」
「あ、ありがとう…」
髪をひと房手取られて、唇を寄せられる。その上艶のある微笑みを浮かべられては照れるしかない。
「もっとも、ぬしさまは全てが美しくあらせられる」
「それは言いすぎ」
「いいえ。そんなことはありません。…ああ、本当に、全身隈なく食べてしまいたいほどです」
「……」
ぞわっと背筋に震えが走る。三日月さんといい、この二振りは確かに要注意だわ…。真っ赤になった私に、小狐丸はにっこり微笑んだ。


油断してたら食われる…野生ゆえ。