「でね、光忠さんがこの服だめって言うんだよ?お家の中でも冷えるからって…言いたいことはわからなくもないけど、家の中だって可愛くいたいっていうか可愛い服は着てるだけでテンション上がるっていう女心をさ~汲み取ってほしかったよね~」

光忠さんならわかってくれると思ったのにな、と少しむくれる主。
多分、燭台切が本当に言いたかったことはちっともわかっていないんだろう。

「せっかく可愛いやつ買ったのに…ねえ、これ可愛くない?可愛いよね?」

主が動くたびにソファが沈み、揺れる髪から花のような芳香が漂う。俺の主はいつもどおり可愛い。
いや、いつも以上に魅力的に見えた。

「うん、可愛い。…だからじゃない?」
「え?」
「だから、可愛すぎるからダメだったんでしょ」
「え、え?何それどういうこと?」
「はぁ、主ってほんと…だから、こういうこと」
「わっ」

無防備に体を寄せる主を押し倒す。あっさり俺の下になった、俺たちとは違うつくりの、細い体。
「一目ぼれして買ったんだ」と着て見せられた新しい部屋着姿の主は、その華奢な首から肩にかけてを外気にさらしていた。
オフショル、っていうんだっけ。がっつり露出しているわけではないけれど、だからこそもう少し見たいと言うか、有体に言うと脱がせたくなるという男心をがっつりくすぐるような服だ。そりゃあ、こんなの見せられちゃ、たまんないよな。
主は想定外のことをされたとばかりに目を真ん丸にして俺を見上げている。

「き、きよみつ?」
「男はさ、こんな可愛いかっこされたら、こういうことしたくなっちゃうわけ」
「こ、こういうことって…ひゃ!」
「だから、こういうこと」

本当にわからないのか、わかりたくないのか(たぶん後者だな)顔を赤らめる主はそりゃあ可愛くて、細い首筋や肩口に散る髪がまた扇情的でたまらなくなる。
その思いの向くままに鎖骨に唇を寄せてちゅっと吸い付けば可愛い声をあげる主。あー、もう、たまらない。

「…燭台切にはこういうこと、されなかったの?」
「されてな!…あ。」
「されたんだ。何されたの?」
「で、でも、首をさらっと撫でられただけだよ!」
「ふーん。こんな風に?」
「ちがっ、ひと撫で、だし…首だけでっ、ん」

指先で首筋を数度撫で上げて、そのまま色づいた可愛い耳までなぞる。その間にもう一度、今度は鎖骨の少し下にキスを。俺のすることひとつひとつにびくりと体を震わせて熱い息を吐き出す主。可愛すぎる。もっと、もっと触りたい。
主のにおいが満ちるこの部屋で、主の気が充満するこの空間で、ふたりきり。何もしないでいられる方が珍しいだろう。
だからきっと俺や燭台切だけじゃない。他の刀だって、主に触れているはずだ。誰も、主とのことを他の刀に話さないから推測だけど。
でも、話して牽制しようとかいうやつはいない。それは、きっと、俺と同じ理由だ。この、主とのふたりきりの時間をひとり占めしたいからだ。
独り占め、したいのだ。

「…ねえ、こういうことされるの、俺だけにしてよ」
「そ、そんなこと言われても」

わかってる。きっと主は誰も拒まない。主は俺たちみんなを平等に愛しているから。
平等に愛するようにしているんだ。誰をも受け入れて、ただひとりを選ばないように、している。
それは正しいことだと判っている。
主は刀剣(俺たち)とは違う。それを彼女はよく解っていて、それでも俺たちを愛したいと思ってくれてるから、拒まないでいる。いてくれる。
正しいことなんだろう。拒まれるよりは、いい。でも、苦しい。
俺は、解りたくないと思ってしまう。頭では判るのに、心は解りたくないと叫んでいる。たまらなくなって額を主の胸元に押しつけた。
どくどくと速い振動と熱が伝わる。生きてる音。人である証。今は可笑しなことに、刀剣であるはずの俺も主と同じ音と熱を持っている。矛盾ばっかりだ。

「…主、生きるっていうのは矛盾ばかりだね」
「そうだね…でも、その矛盾が、この世に生きる特権なのかもなって、最近思う」
「この世に生きる特権、かぁ。…うん、そうかも。苦しいけど、でも、手放したくないもんね」
「苦しいだけじゃないから、手放せないんだよ」

そうだ。苦しいだけじゃない。それ以上の幸せを感じることだってあるし、この一瞬のために生きていたいと思える何かが、この世にはある。
違う。何かじゃない。主だ。主がいるからだ。主と一緒にいたい。矛盾ばかりでもいい。主との時間を、思い出を重ねていきたい。

「主」
「なに?」
「俺の名前、呼んで」
「…清光?」
「うん、もっと」

何度も何度も、その可愛い声で俺を呼んで。耳に、脳に、心にたっぷり染み込むまで。
今だけは、俺だけの主だって、独り占めできるように。