「和泉守兼定だ。おう、主。ようやくオレの出番だな!呼ぶのが遅いぜ」
「ごめんなさい兼さん。お待たせしました」
「お、おう。まあ、たくさんいるんだから仕方ねえがな」
わー、えっへんと言わんばかりに胸を張った最近流行りのかっこよくてつよ~い兼定さんはやっぱりとっても美形ですね~。背たか~い。ガタイいい~。みっちゃんと同じくらいかな?和装だからかすごい迫力ある~。もうあなた達モデルとかやった方がいいんじゃないかな?ところで前髪邪魔じゃないんかな?とか思いながら見上げていると、「見惚れてんじゃねえよ」と言って顔を掴まれた。痛いわ。
「頭小さいな。オレの手にすっぽり収まるじゃねえか」
「いきなり何するんですか痛いです」
「あ、わりぃ。いやでもアンタがじっと見つめるから…ってなんでもねえ!」
えー、ちょっと、何をぼそぼそと。顔赤いみたいですけど何を照れてるんですか。審神者よくわかりませんよ。
「兼さんひとまずお座りください」
「おう。つーか、なんでアンタまでそんな呼び方なんだよ」
「え?呼び方?兼さん?あ、すみません和泉守さんの方がいいですか」
「いや、別に構わねえが。国広の真似か?変な感じだ」
いいのかよ。いやあアレだけ連呼されればうつるよね…前から兼さんて呼んでたからそれ以外の方がしっくりこないし。「和泉守」って誰かに言われてもごめん多分正直一瞬誰?てなる…ごめん。
「まあそもそも主に名前呼ばれるっていうこと自体、変な感じなんだけどよ」
「兼さん」
「なんだ」
「呼んでみただけです」
「なんだよ!」
「呼んで返事が返ってくるって、変な感じです」
「あ、ああ…そうだな」
「でも嬉しい」
「…おう」
いやあ、なんか兼さんていじりやす…話しやすいなあ。すごい美形だし迫力はあるんだけどたんじゅ…親しみやすいっていうか。しかも割と照れ屋っぽい。すぐそっぽ向くの可愛い。
「ふふ」
「何笑ってんだよ」
「いや、兼さんて仲良くなれそうだなって」
「はあ?なんだよ藪から棒に…まあ仲良くしてやってもいいけどよ。オレが刀だってこと忘れんなよ」
「…というと?」
「仲よしこよしだけじゃ話になんねえ。もっと戦場に出させろってこった。連隊戦も悪かないけどよぉ、実戦にも出させろよ」
「はい、わかりました」
新撰組の刀の皆さんはやっぱりなんとなく考え方が似ている感じがするな。皆個性的だけど、本質は一緒っていうか、信念が同じっていうか。じっと何か言いたげに見つめられる。さすがに「さては見惚れてますね!」なんて言えるような太い神経もなければ、冗談を言えるような雰囲気でもない。さっきまでの気安い彼とは明らかに纏う空気が違った。
「アンタ…いや、なんでもねえ」
「なんですか、言ってください。せっかくお話しできるんですから」
「…わかった。アンタは、オレたちのことどう思ってんだ」
「え?刀剣男士の皆さんのことですか」
「そうだ」
「好きです」
「ばっ、そういうことじゃねえ!」
えっ、違うの??だってどう思ってるって聞かれたらねえ。好きとしか言えない。真っ赤になった兼さんだったけど、コホンと咳払いをして改めて見据えてきた。変なこと言うなって言うかのようなすごい圧ですけど、すみません、別にふざけたわけじゃないんですよ…
「だから、オレたちのことをなんだと思ってんだ」
「刀剣の付喪神」
「そうだ。オレたちは刀だ。さっきも言ったが、それを忘れんなよ」
「はぁ」
「気ぃ抜けた声出すんじゃねえよ」
「だってよくわからなくて。忘れてないし忘れるつもりもないし」
「なら戦うことが辛くないかなんて聞くのはやめろ。そういうの、いらねえから」
清光たちから聞いたんだろうか。なんで、聞いたらダメなの。だって辛そうにしている刀もいるじゃない。そういうの、表に出せない刀だっているかもしれないじゃない。聞かないと、わからないじゃない。
「オレたちは戦うための道具だ。そして戦うために顕現した。それなのにアンタがそんなこと言ってどうすんだって話だろ」
「確かにそうかもしれない。でも実際に会ったら、手を握ったら、貴方たちは人と変わらなかった。体温があって、血が流れていて、心があった。だから、だから私は」
酷なことを聞いてしまっていたのだと気づいた。存在自体を否定されたと取られてもおかしくないことを言ったのだ。自分の言っていることが偽善ぽいとも思った。でも、思うままに出てくる言葉を止められない。それでも私は。選んでほしかった。悩んで苦しんで辛いと思っているのなら、やめる道を選んでもいいのだとわかってほしかった。エゴだと言われたらそれまでだけど、でもそれが私の素直な思いだ。
「否定するつもりはないの。だって刀を産んだのは人間だもん。戦うために、作ったのだもの。でも、皆戦うため戦うためって言うけど、守るためだってことは忘れてない?」
「何?」
「戦う理由。大切なものを守るためでしょ。人でも、信念でも、大切にしたいものがあるから戦うんでしょ。ただ殺し合いのためだけじゃないでしょ」
「…そうだ」
「私は十分守られているから。だから、私は皆を守りたいと思う。皆の思いや心を守りたい。何を選んでもいい。ただ、選べることを知ってほしかった」
「……そうか」
ぽん、と兼さんの手が頭に乗った。話が飛びまくっている自覚もあったけど、兼さんはじっと聞いていてくれた。そして、多分、私の思いを受け取ってくれた。見上げると、兼さんは存外優しい顔をしていた。それを見た瞬間、思わずぽろりと涙がこぼれた。
「守る為、か…忘れてたのはオレの方かもしれねーな」
「え?」
「ったく、泣くなよ。折角見直したっつーのに」
「な、泣いてない。もう、涙出てない!」
「ハイハイ」
おざなりに言いながら、袖で涙の後を拭ってくれる。堀川くんがお香でも焚き染めているのか、いい香りがした。いい男は、いい匂いがするもんだな…でも兼さん、さっきも顔掴まれた時思ったけど、手加減できないのですか、痛いです…
「い、いたい」
「ああ?こんなもんで痛いのかよ。よわっちいな、ったく…ほんとに大事に守られてんだろうなぁ、アンタは」
「え?」
「主、アンタは今幸せか」
「は、はい」
「そうか。なら、いい。…なあ、オレの幸せはなぁ、やっぱ戦うことなんだわ。だから、アンタの気持ちは有り難いが、やっぱ戦場に出させてくれよ」
「勿論。あなたがそれを望むなら」
応、と挑戦的な笑みが返ってきて、この人はこういう表情がとてつもなく似合うなと思った。



厳しいけど優しい兼さん