「源氏の重宝、膝丸だ」
「いらっしゃいませ膝丸さん」
「ああ…」
「え、あの、何か?」
じっと見下ろされて、居心地が悪い。蛇に睨まれた蛙…てほどでもないけど、膝丸さんは眼光鋭いなぁ。髭切さんがぽやぽやした感じだから、正反対な兄弟だよな。スタイルの良さは完全に似ているけどね!!
「いや、なんでもない。兄者が何か迷惑をかけなかっただろうか」
「ああ~…」
「…そうか。すまない。兄者はあの性格だからな」
「いえ、そんな。膝丸さんが謝ることでは」
しかも、そうは言うけどだからと言って髭切さんをどうこうしようっていう気はあんまりなさそうですよね膝丸さん。まぁ言ったところで暖簾に腕押しなんでしょうね…
「兄者は君を大層気に入ったようだったな」
「あはは、なんか、そのようで…ありがたいです」
「そうか。そう言ってもらえると俺もありがたい」
あ、これ全部兄者の話で終わる気がする。いやいや、膝丸さんのお話ししたいです。もっと他の話題を!
「あの、膝丸さんて薄緑っていう呼ばれ方もあるんですよね」
「ん?ああ、他にも蜘蛛切や吼丸と呼ぶものもあった」
「へえ。あの、髪の色すごくキレイですよね。薄緑で」
「ああ…綺麗だろうか。いや、そういう目で見たことがなかったが、君に気に入ってもらえたのなら悪くない」
髭切さんのことが絡まないとキリッと爽やかな美青年だよね、膝丸さんて。いや、常に美青年なんだけど、ちょっとヘタレっぽくなっちゃうっていうか、振り回されてる感が出ちゃうから…そこが可愛いんだけど。
「君も美しい髪をしているな」
「えっ、あ、ありがとうございます」
まさか褒め返されるとは思わず、しかも髪を手で掬われ梳かれるという動作までつくもんだから変な声を出してしまった恥ずかしい。こういうことさらっとやれちゃうんだなあ。兄者兄者言ってるイメージが強かったけど、言い方は悪いかもだけど割と手が早いかもしれないぞこれは。げにおそろしきかな平安クオリティ。恥ずかしさに俯いていると、頭上から小さく笑う声が聞こえた。えっと思って顔を上げると、存外膝丸さんの麗しいお顔が近くにあってまた驚く。
「いや、笑ったりしてすまない。主が思っていた以上に愛らしいのでつい」
「え…」
「兄者が気に入るのもわかる。いや、兄者だけではないか。皆が君に惹かれている。まあ、主なのだから当然と言えば当然だが」
「そ、そうですよ。別に私が特別というわけではないですよ」
ドキドキと心臓がうるさい。みんなが優しいしあんまりにも甘やかしてくれるから勘違いしそうになるけど、そうだよ、私が主だからってだけだから。暴れる心臓を抑えながら自分に言い聞かせるように言葉を吐くと、「それは違う」と膝丸さんに胸に置いた手を取られた。
「我らにとって、君は特別だ。主だからと言うのは、一つの要素に過ぎない。それだけで君を慕っているわけではない。君自身の素質や、心持ちなども好ましいと思う要因だ」
「素質や心持ちって…でも、初めて会うのに?」
「千年も刀をやっていれば、わかるものだ」
千年も刀やってない方々もそうなのでしょうか。まあ、あまり深く考えるのはやめよう。厚くんも「よくわかんないけどわかる」って言ってたし、みんな慕ってくれているのは本当なんだろうから。変な疑いは彼らの思いすら疑うことになる。それはきっと、反対の立場だとしたら悲しいことだ。膝丸さんの大きな手が温かい。こうして手を握ってくれることが、何よりの証だろうな。
「ふむ、君の手は温かくて柔らかくて気持ちがいいな」
「膝丸さんの手も温かくて気持ちいです」
「そうか。ああ、離しがたいな。どうだ、主。このまま本丸(あちら)へ行くと言うのは」
「…行きませんよ?」
ちょっと待て。さては髭切さんに言い含められてますね?だめですよ?その手には乗りませんよ?
「何故だ、主も俺の手が気に入ったのだろう?」
「いや、嬉しいですけど、それとこれとは違いますし、とにかく行きませんよ?」
「…なるほど、手強い。まあいい。徐々に口説いていくとしよう」
それ、本人の前で言います?とっても自信ありげだけど、望みうすですからね。え?千年も生きてきたのだからたった数年待つくらいどうってことないって、怖いよ平安生まれ。
「まあ数年もかけるつもりはないがな」
「?!」



やっぱり似てるよ源氏兄弟。