「主、お初にお目にかかります。へし切り長谷部です。お会いできて光栄です」
「こちらこそ!会えて嬉しいです」
「勿体無きお言葉です。今後もこれまで通り…いえ、これまで以上に存分に俺をお使いください」
「え、はい…いや、たぶん十分やってくれてると思いますし…むしろ出陣遠征続きでこき使いまくりではないですか?大丈夫ですか?」
「主、大変ありがたいお言葉ですがご心配には及びません。もっと仕事を振ってください。そして俺に畏まる必要もありません。あなたは俺の主なのだから。さあ、どうぞおかけください」
「あ、はい」
クールですね長谷部さん。シュメイに貪欲なのは予想どおりですけど、大変クールです。クール枠のイケメンです。胸に手を当ててすっと頭を下げる仕草が大変様になっていて…隙がないですね。やる人が違うだけでこんなに印象変わるとは。え、長谷部くんは座らないの?そんな見下ろされると緊張します。えと、仕事を振れと言われてもどうしたらいいのですかね。
「雑事でもなんでもやりますよ、主命とあらば」
「はあ、雑事。その辺りは私もあずかり知らぬところなのだけど…ていうか、そういう私が決めるようなこと以外ってどうしてるの?食事とか掃除とか。当番制で回してるの?」
「現状そのようになっています」
「ならそれでいいのでは?うまくやってるんでしょう?」
「そうですが」
「じゃあ現状維持で。どうせ怠慢は許さん!とか言って率先してみんなのことまとめてるんでしょ」
「まあ…よくお分かりになりましたね」
「やっぱり。他に私から振れる仕事はないよ。むしろ働きすぎてない?大丈夫?」
隙がない長谷部の表情が少しだけ困ったようになって、逆に心配になった。完全なるワーカホリックだな。仕事がないと落ち着かないんだろう。出陣・内番を増やすことはできなくもないけど、出陣に関しては割とレギュラーだし(最近連隊戦以外は遠征ばっかりだけど)、内番しかないよ?
「主が心配するようなことは何もありません」
「本当に?せめてこっちいる間はゆっくりしてってね」
「はあ」
「そんな不服ですって顔しなくても」
「不服ですから」
素直ですね!うちの長谷部くん割とツンじゃない?うん、嫌いじゃないよ。まあ仕事くれって言ってるのに休めって言われたら不服でしょうけど。うーん、でも正直こっちで仕事なんてないし…やってもらいたいこと何かあるかなぁ。
「あ!そうだ!肩揉んでほしいな。私肩こりひどくて」
「肩揉みですか?」
「不服ですか?」
「いえ、主命とあらば…しかし、よろしいのですか」
「何が?いいから言ってるんだけど」
「…あなたに触れるということなんですが、いいんですね?」
「?もちろん」
そうですか、と長谷部は静かに瞑目した。そんな触れるって言っても肩揉みくらいね。もっとすごいことしてくる男士もいる(主におじいちゃんたち)のに、長谷部くんは真面目だなぁ。
「じゃあさっそくお願いしようかな!」
「わかりました。…なにぶん初めてのことですので、痛かったらすぐに仰ってください」
「はーい、じゃあお願いします……………どしたの?やり方わからない?」
肩にかかる髪を邪魔になるだろうからと近くにあった髪留めでまとめ上げて長谷部に背中を向けたんだけど、一向に始めてくれません。やったことないみたいだしわからないのかとも思ったけど違うらしい。首を傾げながら見上げると困惑した表情の長谷部。なんなの。
「主、無防備すぎませんか」
「え?何が?あっ、簡単に背中向けるから?いや肩揉みするんだから、当たり前じゃん?」
「そうではなく…いえ、もう結構です。失礼致します」
戦場でもないし、長谷部が私の命を狙ってるわけでもないし、背後を取られるな!みたいなそういう緊張感いらないでしょって思ったんだけどそれも違うようで結局わからないままマッサージは開始された。なんだったんだろう。長谷部の大きな手が肩に触れる。自分から言っておいてなんだけどあんまり男性に肩揉んでもらうことってないからちょっと緊張。しかし初めてのことで加減がわからないからか、壊れ物を扱うかのように優しく触れられて、揉むというよりも撫でられているようである。全く揉まれている気がしない。むしろ何も感じない。態度は割とツンだけど結局こういとこ優しいとかさ~ツンデレか~もう~長谷部くん王道~嫌いじゃないよ~むしろ好きだよ~。でもその優しさは今は不要です。
「あの、も少し強めで…ああ~そうそう、いい感じ」
「…確かに凝っていますね」
「でしょ~。慢性だからやってくれるのすごい助かる~。あ、後で首もお願いします」
「首もですか?主、俺が刀だってこと忘れていませんか」
忘れて…ないよ?いや、ちょっと忘れてたけど。だから別にそういう意味で首を差し出しているわけではなんだよ??それとも刀としての本能的なもので首を差し出されたら斬りたくなっちゃうのかな??怖いな??
「長谷部は首落ちて死ねとか言わないでしょ」
「主には言いません」
「ならいいでしょ」
「まあ、あなたの役に立てるのなら肩揉みでも首揉みでもなんなら全身でも何でも揉んで差し上げますよ」
すごい。声だけでドヤってる。当然でしょうっていうニュアンスがすごく伝わってくる。ちょっと振り向いたら、思った通りのドヤ顔だった。うん、私、長谷部くんのドヤ顔好きなんだ。生で見れて感動。かわいい。何でも揉んでって、かわいい。
「なんです?」
「なんでもない」
「そうですか。主、本当に痛くないのですか?結構力入れていますが」
「全然平気」
「肩も首も、あまりに細いので心配になります。痛くなったらすぐに…」
「いたっ」
言っているそばから凝っている筋のところをぐりってされて、びりびりとした痛みが全身に走った。
「っごめん、そこの、筋のとこ…ぐりぐりされると痛い」
「そ、そうですか、すみません」
「ううん…そこは少し優しくお願いします」
「こうですか?」
「うっ、うん、そう…んっ、いい感じっ、気持ちいい…」
「………」
「あ、もうちょっと右も」
「…はい」
はあ~すぐコツ掴んでくれて優秀なマッサージ師だわ~。ひと通り解れてきたなってところでやめてもらった。あんまりやりすぎると揉み返しがやばいから短めにしたつもりだったんだけど、ありがとうと振り返った先にあった長谷部の顔は心なしかやつれていた。目元がほんのり赤い…どした。
「慣れないことして疲れちゃったかな、ごめんね」
「…いえ、そういうわけでは」
「そう?無理してない?こういう仕事はあんまり、とかなら他にお願いするけど」
「いえ!俺がやります。むしろ俺以外にはやらせないでください、お願いですから」
そ、そんなに必死に言わなくても、わかったよ。でもそれ、他に仕事取られたくないとかそういう理由じゃないよね?
「違います。いえ、違いませんが」
「何どっち」
「他の男に触らせたくないと言えばわかっていただけますか」
「…そういう突然のデレはやめてよね」
心臓に悪い。そう顔を背けた私の反応を見て、長谷部がクスリと笑ったのがわかった。わー、恥ずかしい。



この後、めちゃくちゃマッサージの勉強をする長谷部。