「主が寝てる間に一旦本丸に帰ったよ。主、気にしてたからさ。俺としてはこっちに来れなくなっちゃうんじゃないかって心配だったけど。まぁ結果として本丸にも帰れたし、こっちにも戻れたけど。そしたら向こうで俺いないの安定が気づいててさ、すごい問い詰められちゃって。このこと話しちゃった」
「う、うん、それは仕方ないね」
「でね、自分も会いたいってうるさいんだけど。会ってやってくんない?」
「勿論!え、あ、でもどうしたらいいんだろ?連れて来れなかったんだ?」
「多分だけど、近侍じゃないと来れないっぽい。一振限定なのかなーと思って俺向こう行って安定だけ通そうとしたけど無理だった」
「なるほど」
「あーあ、俺としては主独り占めしたかったのにな」
清光が残念そうに椅子の背に持たれた。嬉しいけど、私は正直皆に会ってみたいなぁ。一番に頭に浮かんだのはやっぱり初期刀の歌仙だけど、すでに話が伝わってるんじゃ先に安定くんかな。
「安定くんの他にはばれてないの?」
「今のところ大丈夫だと思う」
「そっか。じゃあ、帰ってきたらやってみるね」
仕事休んでしまいたいけど、今日が仕事納めだ。挨拶とかもあるし、休むわけにはいかないのだ。出かける時間になったので、清光には一度本丸に帰ってもらった。ログアウトすることに清光は最初渋ったけど、御歳魂10万はまだまだ遠いしスマホで進めたいからと言ったら了承してくれた。鶯丸がそれはもう楽しみにしているらしいのだ。こりゃ私もなんとしても大包平をお迎えするまでがんばるしかない。
仕事中、帰宅後のことが気になり過ぎてずっとニヤけてたらしい。会う人会う人に何かいいことでもあったのかと聞かれた。うん、いいことあった。幸せのお裾分けですって愛想振りまきまくった。結婚でも決まったのかとかいう人もいたけど、そんな人いたらこんなに素直には喜べてなかっただろうなと思って今だけはそういう相手がいないことに感謝した。
帰りの電車でもちまちま御歳魂を集め、ディスプレイに映る向こう側の清光に心の中でもう少し待ってと言って。ようやっと家に着いたのが午後8時。手を洗ってPCの電源を入れ、とうらぶにログイン。
「清光ー?聞こえる?」
「聞こえるよ。主、やっと家ついたの?おかえり」
ログアウト後にもちゃんと繋がれるか心配したけど、何事もなく清光が上半身をディスプレイから乗り出してきた。はあ~清光におかえりって言われただけで疲れが吹っ飛ぶわ。ありがとう。
「よかった、ちゃんと繋がってるね」
「うん。あー、もう少し主と話したいけど、安定がうるさいんだ。早速だけど、いい?」
「うん。近侍を安定くんにしてみればいいんだよね。やってみるね」
清光が向こう側に引っ込んだので、第一部隊の隊長を安定くんに入れ替える。そういえば安定くんを近侍にしたことってあんまりないかもしれない。そういうのって、やっぱり贔屓だーとか思われてたりするんだろうか。なんだか今更だけど会うのが不安になってきた。本丸に戻ってみたけど、ウンともすんとも言わない。あ、あれ。もしかして、うまくいかなかったのかな。
「あ、えっと、安定くん?聞こえますか?」
恐る恐る声をかけてみるけど、いつも通りの本丸が映されるだけでなんの変化もなくて、これはやっぱりうまくいかなかったのではないかと違う不安が湧き上がってきたところでぬっと画面から青い人が現れた。
「…主」
「安定くん!よかった。ちゃんと繋がったんだね」
「あ、うん。うわ、本当に主なんだ」
「うん、あっ、こっちどうぞ」
「う、うん。ありがとう…」
安定くんは丁寧にも「お邪魔します」と言って出てきた。う…可愛い。
「清光の言ってた通りだ」
「え?」
「主、可愛い」
「えっ?!」
じっと見つめられて何事かと思えば何を言っているの清光さんは!いやいやあなた方の可愛さには敵いませんよ?!
「え、僕も可愛いの?」
「あ、ごめん、嫌だった?」
「別に…嫌じゃないけど。僕は主の方がずっと可愛いと思うな。女の人だし」
「あ、ありがとう」
何なの。神なの。あ、付喪神か。そういえばずっと気になってたんだけど、付喪神ってどっちかというと妖の類であった気がするんだよね。猫又的な。まぁ人間には及びもつかないほど長い年月生きてるから、いいんだけどね。全てのものに神は宿るっていう考え方、好きだようん。
「わー、此処が主の部屋なんだ…あ。主、仕事帰りなんだよね?疲れてる?」
「あ、うん、ちょっと疲れてたけど、安定くんに会えたから癒されたよ」
「え?そうなの?」
癒されるよ。可愛いは正義だよ。これは短刀ちゃんたちはどれだけ天使なのかな。会うの楽しみだな。と思ってハッとする。さっきまで心配していたことを思い出したのだ。
「あ、あのね、安定くん。あっ、ごめん勝手に安定くんとか呼んでるけど」
「いいよ、好きに呼んでくれて。ああ、だからかな、清光拗ねてたよ」
「え?」
「僕のことは安定って気安く呼ぶけど、自分のことは最初加州さんって言って距離感じたとかなんとか」
「あー、あれは、なんか色々混乱してたし、二人ともこんなにフレンドリーだと思ってなかったから失礼のないようにしないとなとか反射で出た日本人としての性で」
「ふふ、変なの。僕らは主のものなんだから、好きに呼んでいいのに」
「あ、うん」
やっぱりそういうスタンスなんだなー。みんなこんな感じなんだろうか。
「それで、言いかけたこと何?」
「あ、えっとね、その…私、安定くんのことあんまり近侍にしたことないよなーって思って。それって、やっぱり、何か思ったりする?」
「んー、別に。って言ったら嘘かな。うーん、でも大体近侍になる刀は決まってたし、一回もなったことないってわけでもないし、そういうものかなって思ってたよ」
「う、ごめん」
「謝らないで。近侍になれなくても、主の優しさとか、大切にされてるなーっていうのは分かってたから」
「え?」
ちょっとびっくりして下がっていた目線を上げると、優しげな微笑みが迎えてくれた。
「怪我したらすぐに手入れしてくれたりとか、できるだけ平等に出陣できるようにしてくれてたりとか、してたよね?今の連隊戦でもそう。分かるよ。みんな分かってる。大丈夫」
「安定くん…」
「僕ね、きっと主は女の人だろうなーって思ってたんだ。あ、正確には僕たち、かな。少なくとも新撰組の刀のみんなでね、そういう話をしたんだ」
「そうなんだ。あ、長曽根さんまだ迎えられてなくてごめんね」
「ううん、大丈夫。あんまり検非違使戦も行かなかったもんね。というより、通常任務あんまりやってないような…京都市中で止まってるよね」
「うっ、私がちゃんとレベル上げしてこなかったから止まってます…」
「ははは、そうか。でも、今回の連隊戦でみんなすごく強くなってるよ。きっと先に進めるね」
「うん、それは私も思ってる」
ライトユーザーなものでレア刀探して周回なんてやったことないし、大阪城イベントだけ張り切ってやる(と言っても毎度50階で終わる)ような弱輩審神者だったからあんまりレベル上げにこだわってこなかったんだよね。さっき安定くんは平等にとか言ってくれてたけど、正直太刀中心の第一部隊ばっかり出陣させてたし…ようやく最近遠征で第四部隊までフル稼働させはじめたけど。ちなみに鍛刀運もないのでドロップじゃなくなった今も全然虎徹兄弟来ません。
「そういえば連隊戦、いつになく張り切ってるよね。普段あんまり出陣できてなかったみんなも出陣できて喜んでるけど、何かあったの?」
「あー、うん、小判貯まってたけど使い道ないなって思ってたところだったし、大包平さんをどうしてもお迎えしたかったしで」
「ふうん、小判て使い道なかったんだ?博多くんがあんなに小判小判言ってるのに?」
「あったのかもしれないけど、あんまりわかってなくて。景趣にしか使えないと思ってた」
「ふうん、まぁ、何にせよ鶯丸さんが主が本気だってすごく喜んでたよ」
そうかー、清光も言ってたけどそんなにかー。普段泰然としているイメージの鶯丸がねー、そんなにかー。10万はまだまだ遠い…がんばろ。ソハヤさんにも早く来てほしいしね。5万はあとちょっとなんだー。と内心決意新たにしていたら、安定くんがじーっと見つめているのに気付いた。
「え、と、何?」
「ううん、さっき新撰組のみんなで主のこと話したことあったって言ったでしょ」
「う、うん。え、あ、もしかして思ってたのと違ったとか…?」
「うーん、そうだね、違ってた」
うわ、ちょっと、ショック。理想と違ったてことだよね…とか思ったら顔に出てたらしく安定くんが慌てた。
「わ、ごめん、いい意味でだよ?」
「え?」
「思ってた以上だってこと。ふふ、主に会えて嬉しい」
そう言って安定くんは私の両手をぎゅっと握った。清光よりもあったかくて、清光と同じように男の子の手だった。
「主の手、小さい。柔らかい」
「あ、うん、女だしね」
「そっか…女の人ってこんなに小さいんだね。可愛い」
なんなのなんなの。清光といい刀剣男士はみんなこんなに褒めちぎってくれるのか。神か。そうだ付喪神だってさっき同じこと思ったんだ何コレすごい褒め殺される。女性ホルモン活発化する。若返りそう。
「あ、のね安定くん。私、歌仙に会いたい」
「歌仙さん?うん、わかった次の近侍にするってことだよね」
「うん。向こう戻ったらね、先に教えておいてあげて」
「じゃあ今清光に頼んどく。時間かかりそうだし。ちょっと待ってて」
安定くんは言うなり体を反転させて頭をPCのディスプレイに突っ込んだ。うわ、なんかこの絵面すごい。体が揺れているので何やらしゃべっているようだったけど、私には聞こえない。おそらく、向こう側に待機していた清光と話しているんだろうけど。ちょっと待つと安定くんが戻ってきた。とてもいい笑顔である。
「よし、これで僕はもう少し主とおしゃべりできるね」
「あ、うん。あー、夕飯食べながらでもいいかな」
向こう側の清光がキーッとなっている様が頭に浮かんだ。



扱いにくい、っていうかマイペース。