仲間内の忘年会から帰宅したのは深夜1時近かった。楽しくてけっこー飲んじゃったし眠いけど御歳魂10万はまだまだ遠いため連隊戦少しでも回数こなそーと最近買い換えた27インチのiM○cを起動させ、とうらぶにログインした。帰りの電車でスマホでもやっていたけれど、大画面てのはやっぱりいいもんだなぁ~とか思いつつ寝る準備をしながら進める。何周かしたところで短刀ちゃんたち数人に疲れも出てきたし、私もお風呂に入るか~と本丸画面で放置決定。いつもならお風呂にスマホ持ち込んでやっちゃうけど、今日は眠いしシャワーで済ませちゃうからこのままにしとく。現在の近侍である加州に「ちょっと待っててね~」と言い置いて背を向けた。ら。
「もしかして…ある、じ?」
背後から返ってくるはずのない、聞いたことのある声が聴こえた。スピーカーからの音声ではない。肉声である。おかしい。妙だ。おそるおそる振り返る。待て待て、ちょい待て。いつからうちのiM○cちゃんは3D仕様になったんだろう。いや単に酔っぱらって2Dが3Dに見えるだけなのかもしれない。そんなにひどく飲んだつもりはないんだけどな~。あはは。27インチ大画面から加州清光がこんにちはしてるよ。え、何コレどうなってんの?
「主…だよね。うわ、主ってこんな可愛かったんだ。え、いや、ていうか、なにこれどうなってんの?」
「…ごめん、それ、私が聞きたい」
上半身だけこちら側に乗り出した格好の加州清光はとんでもなく可愛い。え、嘘これ何これ夢?本物?
「え、加州清光、さん、ですよね」
「う、うん」
「本物?」
「うん」
「えー、あー、そうなんだ。本物なんだ。あの、えーと、はじめまして?」
「うん、初めまして、主」
このどうにもありえない状況に私の脳は思考を停止していた。勿論酔いも合わさってだろうけど。逆に酔ってるからこそ何気に受け入れ態勢なのかもしれない。だって、驚いてはいるけど、割と冷静だ私。
「あー、ひとまずその体制辛そうだし、こっち座る?あ、でも出てきたら戻れなくなったりする?それは困るよね」
「え、あ、ごめんもう来ちゃった」
「あー、うん、そっか。とりあえず、じゃあ、こちらどうぞ」
「あ、うん、ありがと」
「狭い家ですみません」
「いやいやそんな」
私が右往左往している間に加州さんはちゃっかりこちら側に出て来てしまっていた。これはもはや3Dとかいう次元じゃない。本物だよ。ナマだよ。生加州清光だよ。顔ちっちゃ!スタイルよい!かっこよい!えー、うそー。とか脳内はうるさい。お互いにぎこちなく言葉を交わして、ダイニングテーブルに向かい合って座ったはいいけど次の言葉が出てこない。ていうかすごい見られている。じーっとみられている。なんだこの状況。あっ、お茶くらい淹れるべきかな。って言ってもうちには紅茶とハーブティーのティーバッグかインスタントコーヒーしかないけど。そんなんでいいのかな。
「主」
「はっ、はい、なんでしょう」
「本当に主なんだよね」
「え?あ、うん、多分」
そういえばつけっぱなしのPCの方はどうなってるのかと思ったら、無人の冬の景趣が映っていた。じゃあやっぱりこの目の前の加州さんは我が本丸の加州さんてことなんだろうな。同じようにそこに視線を向けた加州さんも、「そっか」と小さくつぶやいた。
「どうしよう、俺、今すごく緊張してる」
「え、わ、わたしも」
「ほんと?」
「うん…だって、本物の加州さんだよ…」
「清光でいーよ。ていうか、それを言うなら、主だって本物の主だよ」
「え、あ、うん、そーだよね」
お互いに、絶対に会えるはずのない存在であることは間違いないが、それでも私にとって彼は2次元の存在だ。そっちの方がありえないとか思うんだけどでもやっぱりお互い様なんだろうな。
「清光は」
「うっ、わ」
「え?」
「あ、ごめん…どうしよ、名前呼ばれるだけですごい、嬉しい」
「そ、そう?」
頬まで染めて嬉しそうな清光は、これが画面の中だったら桜が舞っていたんだろうなというのがわかる。そんなに喜んでもらえるなんて、逆に照れるんですけど。
「ごめん、それで、何?」
「あ、うん。どうやってこっちに来られたのかなって思って」
「あ、そっか、そうだよね、うん。えーと、なんかいつものあの部屋ね。向こう側にも、同じような画面があるんだけど」
「うん」
「いつもなら主がいる間は鏡みたいになってるんだけど、今日はっていうか、さっき連隊戦の演習から帰って来たらこっち側が見えてたっていうか、穴開いてる感じで、主の声が聞こえて、驚いたけど覗いてみたら主の背中が見えて、思わず声掛けてた」
「原因とかはわからないんだ」
「全然。主も心当たりない?」
「うん。え、今も開いてるのかな。向こう、ちゃんと帰れる?」
「さっきもそれ、言ってたけど。主はそんなに俺に帰って欲しいの?」
清光がむう、と拗ねたような顔をした。いや、別にそういう意味じゃないんだけど、帰れなくなったら大変だろうなっていうだけなんだけど。
「そうだけど、俺はもっと主と話したい」
「私だって、清光と話したいよ!」
「本当?」
「うん」
キラキラと瞳を輝かせる清光はとんでもなく可愛かった。あー、これ、触ってもいい感じかな。触りたいな。
「あの、ね…あの、触ってもいい?」
「えっ」
「あ、ううん、嫌ならいいの」
「嫌じゃないよ!俺は主の刀だよ。好きにしていいよ」
いやその言い方はどうなんだろうとちょっと思ったけど、いいと言うなら触らせていただこうと思って、清光の隣に立つ。
「あー、俺このままでいいの?立った方がいい?」
「ううん、いいよ、そのままで」
お互いに変に緊張している。テーブルの上で軽く握られた清光の手にそっと手を重ねた。ぴくりと震えた清光の手は冷たかった。
「冷たいね」
「あ、ごめん」
「ううん」
「主の手、あったかい」
「あー、お酒飲んでるし眠いからかな」
握り返してくれた手は細めだけどしっかりと男の人の手だった。手のひらにはところどころ固いところがある。きっと剣だこだろうな。本当に、戦っているんだろうな。
「ねぇ清光」
「な、何?」
「さっき、清光は私の刀だから好きにしていいって言ったよね」
「え、うん」
「確かにそうなのかもしれないけど、でもやっぱり清光には清光の心があるから、私は清光の気持ちや思いを尊重すべきだし、何より大切にしたいと思う」
「主…?」
「ねえ、戦うのって正直どう?」
「え…どうって…使命だと思ってるよ」
「うん、使命か。そうかもしれないけど…例えば、正直辛いなーとか、ない?」
「辛いわけないよ。俺は刀だよ。戦うためのものだ」
確かに清光の言う通り、彼らは刀だし、戦うために顕現させられているのだからそれが当たり前なのだろうけど。実際はどう思っているのかなって酔った頭ながらに考えた。ホラ二次創作とか、舞台とかでもさ、そういうの描かれているから。心があるなら葛藤だってあるはずだもんね。でもそういう風に思ってないのならヘタに刺激しない方がいいのかもしれない。
「そ、っか。うん、ごめん、変なこと聞いた」
「ううん。俺のこと、心配してくれたんだよね。ありがと。主は優しいね」
「そんなことは…」
「確かに、戦うことが好きじゃないっていうヤツもいるみたいだけど、俺は違うよ」
「え」
「何度も言うけど、俺は刀だ。使われなくなったら、ただの飾り。…折れちゃったら、ただのゴミ。だから、使われることが嬉しいんだ」
そうか、清光は飾られることもなかった。池田屋で折れてしまった後、どうなったかは藪の中だけど…なんだか切なくなってきて、思わず清光を抱きしめた。刀っていうけど、手は冷たかったけど、ちゃんと体温があってちゃんと生きて此処にいる。
「あ、主?」
「清光が戦うことが嫌じゃないならそれでいいの。でもね、清光も他の皆も、今はヒトの体があって、自分の意思で行動できる。選べるから、選んでいいよ。私はその意思を尊重したい。だから何か望みがあるなら教えてほしい。こうして、言葉を交わせる機会が持てたんだもん」
「主…俺、主に会えて本当に嬉しい。主に会うこと。それだけだったよ、俺の望みは」
清光が立ち上がってぎゅっと抱きしめ返してきた。おっと、これはなんと。すごく嬉しいこと言われてるけど、それよりもこっちが気になっちゃうよ?清光、思ってたより大きい?身長いくつなんだろ?体密着してるんですけど酔った頭にこれはやばい。あれ、私今酒臭いんじゃないかな。と思い至ったら恥ずかしくなってばっと体を離した。
「主?どしたの」
「わ、私、お酒飲んでたから、お酒臭くない?」
「ううん、少しするけど、でもいい匂い。柔らかくて、あったかくて、ずっとぎゅってしてたい」
「うわわわわ、そういうのは、ちょっと」
反則です!!触ってもいいって聞いたの私だけど、触っていいとは言ってない!恥ずかしさで気絶しそうです!
「そ、そうだお風呂!私お風呂入ろうとしてて」
「そうだったんだ。いってらっしゃい。ていうか今って夜だよね?時計合ってる?もう2時過ぎてるけどこんな遅くまで起きてて大丈夫なの」
「あ、あんまり大丈夫じゃないかな。明日までまだ仕事だし」
「仕事じゃなくたってあんまり夜更かしはよくないよ。ほら、お風呂どっち?」
その後どうしたか正直覚えてない。一応ちゃんとシャワー入って、まだ残ってた清光に髪を乾かしてもらったのはなんとなく覚えてるけど、ベッドに入った記憶もなく現在朝8時。っていうかすっぴん見られたー!肌荒れやばいのに!それもなんか指摘されてた気がする!「主可愛いんだからちゃんとスキンケアして!夜更かし禁止!」とかなんとか…夢だったんだろうか…あ、そっか夢か。なんだー、いい夢だったなー。清光めちゃくちゃ可愛かったなーとか思いながら寝室を出た。ら。
「おはよう、主。時間平気?何か支度手伝おーか」
「え、あ、夢だけどー…夢じゃなかった?」
ある日、近侍がうちに来た。